第九話 【訪れた平穏】
一日ぶりに学園へ行くと、すぐにリテア様が来てくれた。
「メリ! あんた体大丈夫なの?」
「リテア様、心配かけてすみません、大丈夫です」
本当に? と疑い深くちょこちょこと私の周りを何周かした後、満足したのか私の前に戻る。
「私、今回の件で学習したわ」
「何をですか?」
「メリの言う大丈夫は全く信用出来ないってこと、あと笑顔ね、大丈夫って言いつつ笑顔な時のメリはダメ」
そんな……。学習したことが酷すぎる。
「ま、今は本当に大丈夫そうね」
「はい、カルデラのおかげですね、結局頼ってしまう形になったのは、なんとも言えませんが」
「いいのよ、頼りなさい、普段メリが苦労してんだから、意趣返し程度に思っときゃいいのよ」
リテア様に背中を叩かれる。私の苦労が多いのは事実だけど、どうもディウム戦から私は役立たずな気がする。
「人の力ってのは使い時があんのよ、私なんか見て見なさい、なんもしてないんだから!」
「リテア様は話してるだけで元気になりますよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね、でもそういうこと」
そういう? 首を傾げると、わかってないわね! と指を刺される。わ、わからないです。
「戦闘や処罰になったらメリはお呼びじゃないのよ、逆に対人関係になったらカルデラ様はお呼びじゃないわけ、魔術師団に入ったらわかるわよ、カルデラ様悪魔だから」
「あ、悪魔?」
「メリ、あんた本来の意味で天使扱いになるわよきっと」
カルデラ、魔術師団の方に迷惑かけてるんじゃ……。そんな心配が出てくる。マリア様とソフィア様がいるから問題ないと思うけど。
授業が始まるので、リテア様と別れ、昼休みにまた集まる。その道中でディオに会うことはなかった。
「魔術教師含めて、学園から追い出されたみたいね」
「様々な不正も露見致しましたし、一件落着ですわ!」
ローザがアムレート新聞を取り出す。この新聞は、ローザの家である、フレグランス家から発行されている。国の名前が入っていることからわかる通り、王公認の新聞だ。月に一回毎月十五日に発行されている。
「ヴァニイ様の仕事ぶりは凄いです、わたくしも負けれませんわね」
「ヴァニイさんは、そういう教育受けてるからね」
ヴァニイが作ってくれた書類には、これでもかと、ラーダ家が行ってきた不正が調べてあった。どうやら、ディオの入学も不正だったらしい。
魔術学園には、試験がある。基本筆記試験で、内容は五教科と魔術部ならば、魔法に関する知識。私は学園に入る前に教えてもらっていたリチャード先生の推薦だし、いつの間にか試験問題をやらされており、合格に足る点数を叩き出したらしく、学園長の許可で学園での入学試験はスキップさせてもらったが、ディオは時前に答えを入手していたようだ。ラーダ先生が学園にいるから、簡単だったのだろう。その他にも様々な不正がヴァニイにより調べられた。彼の仕事ぶりはそうだが、余程怒らせたんだなと感じる。私が絡んでいたというより、ディウムを怒らせた相手だからだと思うが。でもそれって十数年前なのよね、それだけ長い間放置していたのに、改めて復讐する機会があったら徹底的にやるって、恐るべしヴァニイ、あの人の方がよっぽど恐ろしい。ディウムが頼りきった理由も分からないでもない。
「しっかし、学長もよく新聞に載せるの許したわね、学園の信用に関わるんじゃない?」
「相手が、クロム家ですから、奥様がはりきって、学園長に、連絡していました」
「マリア副団長恐るべしね……」
皆で苦笑いとなる。
魔力通信魔具越しにやりとりされた会話は、マリア様の一方通行だった。学園長ごめんなさい。しかし、そこは王公認の新聞、きちんと魔術学園は悪くないことも書いてあり、国民のヘイトがラーダ家に向くようにされている。つまり、ローザが言っていた、社会的抹消が実現されてしまったわけである。これに関しては数々の不正をしていたラーダ家に非があるものの、不憫でならない。私と関わったばかりに……。
「私、疫病神って言われないかしら」
「メリ様に非はありません」
「クリアの言う通りだよメリさん」
フレグランス家はフレグランス家で、良いネタが入ったと喜んでいたと報告されたのを思い出す。本当に私に非はないのか、非しかないのではないか。
「メリは気にし過ぎ」
「メリ様、自業自得です、元より、それが嫌なら、変に関わらなければ、良かった話です」
「いや、ここまでされるとは考えてないでしょ」
私でも考えてなかったわよ。というか、周りがこんなにも戦闘力が高いなんて聞いてない。プロが揃いすぎてて、私の行動が人の命運を左右するんだと理解させられた。
申し子とか、そんなの関係なしに、私が問題を起こせば、周りが動いてしまうのを理解した。これを強い味方だと言えたらいいのだが、怖い、怖すぎる。
「私、大人しくしてるわ」
「メリが大人しくしてても、問題の方から来るんじゃない?」
「嫌なこと言わないでくださいよ」
「その時は全面協力致しますわ!」
憧れていた友人という存在だが、考えていたのと違う。ミラフとカリナは命拾いしたと思う。
「私が地下から出てすぐの方々って、運が良かったんですね」
「今だったら、あの程度の処罰じゃ済まなかったわね」
にっこりとリテア様は笑う。状況を知らないローザとクリアは顔を見合わせる。
「今からでも処罰できますわ、調べます?」
「やめて、少なくともミラフ様は騎士団時期団長なんだから」
騎士団から認められるかはわからないが、彼は今信頼回復の真っ最中だ、妙なことはしないであげて。カリナの方は全く知らないが。
二人は変わっただろうかと考える。あの一件以降全く会っていない、これはマズいと思う。城に行ったら間違いなく会うだろう、その時に問題が起きたらやばい。
「ミラフ様はまだしも、カリナ様か……」
ミラフはカルデラの親友だったくらいだし、きっと悪い人ではない。しかし、カリナの方は性格そのものに難がある。話してわかる相手でもない。
「そーいやあの女、来年には処罰が切れるわね」
「切れる? そんなに軽い処罰になさったのです?」
「四年の魔術禁止令よ、今年が最後の一年」
リテア様の説明にローザとクリアが顔を顰めた。一応二人には、何があったのか説明しているからだ。
「確か、メリ様を拉致したんですよね」
「拉致しかされてないから」
「拉致だけ、ですか?」
セヘルにじとっと見られる。実際は色々やり取りがあったが、今その話は出来ないかな、うん。
「その顔は拉致だけじゃないわね?」
「白状して頂きますわ」
「二人とも疑わないでよ、本当に拉致だけだって」
色々言われましたけど、ちょっと平手打ちをされただけです。あれは煽った私も悪かったし。
私は笑顔を向ける。しかしそれは逆効果で、笑顔の時は信用ならん! とリテア様に突っかかられ、結局私は何があったのか詳細を話すことになり、話しながら全員の顔色を伺う。
「そ、そんなとこ……です」
マリア様が来て、部屋から出るまでを話し終えた頃には、ローザはカリナと言ったらサラク家ですわねと考え始めてしまった。待って待って。
「もう、四年経とうとしてるから!」
詳細を結構覚えてた私も私だけど! 何もしなくていいのよ。
「僕、どんなやり取りがあったのか初めて聞いたけど、それ結構なことだよ、兄さんには言ってないの?」
「言うわけないでしょ、カリナ様が大変なことになるわよ」
話す機会もないし、話す必要もない。既に王が処罰を下している。
「今からでも遅くないわね」
「何がですか?」
「処罰の追加」
やめて、リテア様がそんなこと言ったら、本当に追加されてしまう。マギア王、リテア様には甘いから。
「私情を挟んではいけません」
「メリ、あんた売られるとこだったのよ? それを父様に報告しなかったとか、お人好しの度を越してんのよ」
「もし、売られていたら、マシーナの二の舞、でしたからね」
二の舞というか、死人が出てたかもね。あの時私は魔力のコントロールができてなかったわけだし。
でも確かに、あのまま助からなかったら、リトルナイトメアみたいなのが生まれていたのかもしれない。申し子にはその力がある。知らなかったとはいえ、カリナがやった事は危なかったわけだ。
「私助かってて良かった……」
「兄さんの機転には感謝しないとね」
「マーベスにもね」
私は、捕まっていた間の二人の行動は知らないが。カリナのところにカルデラを送り込んだのはマーベスだってことは知っている。マーベスの転移魔法には助けられてばかりだ。
「城に行ったらきっと二人には会うわけよね」
「とりあえずミラフの方は真面目にやってるみたいよ、カリナは私も知らない」
リテア様が知らないということは、城には顔を出していないのか。騎士団時期副団長なら魔法が使えずとも問題ないはずだが。そもそも彼女って騎士できるのかな。
そんな少し殺伐としつつも、日常が戻ってきたことに安堵していた。安堵していたので忘れていた、マーベスとセヘルに口止めしていなかったことを。
「ふむ、あの女随分なことを言ってくれましたね」
「なんで話しちゃうかな……」
食堂にて、二人から報告を受けたカルデラが、試案顔になる。だから、あの事件から四年経とうとしてんのよ、今更何もしなくていいわ。
「私も城でカリナは見てないですね」
「別に出禁ではないわよね」
「入れるはずです、ミラフとも会ってないのでわかりませんが」
カルデラ、対人関係を良好にする気あるのかな。せめてミラフとは話してみてよ。話しにくいのはわかるけど。
「カリナ様って騎士団副団長をしていたのよね?」
「えぇそうです、私はあまり城に顔を出してなかったので詳しくは知りませんが、副団長とはいえ、補佐だったようですね、元々救護団ですし」
救護団だったのか、でも光魔法の魔術師だし、回復魔法が得意だったらしいからそれもそうか。
「しかし、出禁は申し出るべきですね」
「兄さんに同意、またメリさんに手を出さないとは考えにくいよ」
「出禁では、軽いのでは」
三回目の処罰会議が始まろうとしたので、私は慌てて止める。カリナになんかあって困るのはミラフだ、てか、更に険悪になるようなことをしないでくれ。
カルデラとミラフが仲違いした原因がカリナだと言うのに、なぜ処罰が検討されているのか。本当に仲良くする気があるのか疑問である。
「ミラフ個人は嫌いではないですが、メリに手を出すなら別です」
「まだ嫌いじゃないだけ救いね」
この二人は女性問題をまず解決すべきかもしれない。もしかして私が魔術師団に入って最初にやる仕事って、カリナと仲良くなることじゃなかろうか。
「そもそも、あいつは自分の妻がどんな人間か知る必要がありますね」
「教えたら更に仲悪くなるからやめなさい」
ミラフは彼女のことを愛しているのだ。カルデラが私が傷つくのを嫌がるように、ミラフはカリナが傷付くのを許さないはずである。だから今の今まで仲違いしたままで、私は捕まったわけなのだ。
目下の問題は一応解決した。結婚に向けての準備も再開された、しかし、その後は考えておかねばならないと再確認したのだった。




