第八話 【処罰】
カルデラに抱かれた状態でベッドに腰掛ける。腰掛けるというか、膝の上に乗せられている。久々だなこの状態。
「で、どのような処罰を?」
ティアラに呼ばれ、部屋に来たセヘルはにこやかである。セヘルだけではなく、ティアラもだ。
「そうですね、両親に聞かなければなりませんが、とにかく屋敷からは追い出します」
「軽いです」
「ご安心を、それだけでは済ませませんよ?」
男性二人の会話が怖すぎて、口を挟めないんですけど。でもこのまま放置しておくわけにはいかない。
「か、カルデラ、相手は女の子よ!」
「女であるということは関係ありませんよ」
「お嬢様、今回ばかりは優しさを見せてはいけません」
「ティアラまで……」
私が死にかけてたのは、私のせいだし、自業自得なんだから、そんな厳しくしないであげてよ。
そんな私の願い虚しく、三人はどんな処罰が一番良いか話し合いを始める。私はとりあえず酷いものが出たら止めた、その度に睨まれたが、できるだけ、できるだけ軽くしてあげたい。
「メリはですね、甘いんですよ」
「皆が厳し過ぎるのよ」
処罰が決まったので、セヘル、ティアラは部屋を出ていく。カルデラは部屋に留まったと思ったら、添い寝をするようだ。私の部屋は初めてだと思う。
「メリのベッドで横になると、メリの匂いがしますね」
「甘ったるいんだっけ?」
私にはわからないが、甘い匂いがするらしい。しかも甘ったるいくらいだと言っていた。生クリームとか、そういうのに近いのかな。
カルデラの腕が、少し上部に動かされる。あの、胸を締めつけるのは苦しいのですが。
「カルデラ、苦しい」
「……メリの匂いが濃いと妙な気分になります」
なんだ妙な気分て。それよりも腕を下に移動させるか、解いてくれ。
「襲いたくなりますね」
「……は?」
「冗談です」
更に強く抱きしめられる。冗談には聞こえないのですが。でもそれを言っても無意味なので、私は大人しくすることにした。
「手を出すのはちゃんと婚姻関係になってからにします、なので、私の傍にいてくださいね、くれぐれも、死のうとは考えないでください、くれぐれも」
「は、はい」
どうも、今回の件は相当なトラウマになったようだ。最後のくれぐれもの言葉に力が込められていた。
結局腕を胸から離してくれることはなく、そのまま寝て朝を迎える。大事を取って学園は休むことになった。セヘルも休むらしい、理由はまぁわからないでもない。カルデラは私に部屋にいるようにと念を押して部屋を出ていき、一時間後くらいに戻ってきた。その一時間の間にシャワーと着替えを済ませておく。お決まりのモノクロにすると、なんだかシャキッとした。良し。
「メリ、食堂に行きましょう」
「わかったわ」
カルデラの手を取り、食堂へ向かう、そこは、うん。早めに帰ってきてくれたマリア様とソフィア様がおり、その目の前には見たことない男性と、サルタールがいた。
「スルガー家の当主、レティス・スルガーです」
カルデラが耳打ちで教えてくれた。レティスね、了解。
私が一歩前に出る。すると全員がこちらを向いた、サルタールが睨んだが、それをレティスは叩いて止める。た、叩かないであげて。
「メリちゃん、体調は大丈夫かな?」
「はい、ご心配をおかけしました、レティス様、メリ・カンボワーズです」
「レティス・スルガーです、娘がご迷惑をおかけ致しまして、なんとお詫びしたら良いか」
私もレティスも一礼する。サルタールが何か文句を言おうとしたが、すかさずレティスにより口を塞がれた。まぁ、マリア様がめちゃくちゃ睨んでいるもんね、私でも怖い。
「でだ、レティスくん」
「はい」
私にニコッと笑っていたソフィア様だが、レティスに冷たい視線を送る。レティスは背筋を伸ばした。
「スルガー家は長らくクロム家に仕えてくれた、それを僕の父がこちらの都合で切った、それもあって、僕はある程度譲歩していたわけだけど」
いつも通りの口調、いつも通りの声のはずだが、緊張感が空間を包む。
「流石に今回は譲歩できない、メリちゃんの力は少々特殊でね、メリちゃん本人も、僕達だってわからない事が多い、それを伝えてなかった僕達の責任でもあるけど、そもそも娘の育て方に問題があったんじゃないかな」
「おっしゃる通りです」
レティスは深々と頭を下げたが、サルタールはふんっと言いたい感じである。
ミラフの時にも思ったが、親が謝ってどうするのだろう。親は無関係なのに。
「メリ様」
「はい」
「この度は本当に申し訳なかった」
私にも頭を下げてくれたが、私はただサルタールを見る。彼女はこっちを見てすらおらず、それに気づいたレティスが、無理矢理頭を掴み、下げさせた。
「お前は謝ることも知らないのか!」
「お父様、私は何も悪いことしてません!」
「まだそんな事を!」
「レティス様、構いませんよ」
私は二人を止める。謝る気ないならそれはそれでいい、変わらないから。それに今回サルタールからはなにかされたわけではない。私が溜め込んだ結果、魔力が自分に向いたのだ。彼女の主張は間違いではない、合ってもないけど。
「レティス様、私は別に貴方からの謝罪が欲しいわけではありません、ましてや、謝る気がない方の無理矢理な謝罪が欲しいわけでもありません」
私とソフィア様は目を合わせ、頷く。
「メリちゃんの言う通りだ、僕達が求めるのはただ一つ、金輪際スルガー家がクロム家に関わらないこと、それだけだよ」
「それは……!」
「いいね?」
ソフィア様は有無を言わせず言葉を重ねる。レティスはそれに頷くしかなかった。
こうして、レティスがサルタールを連れて屋敷から出て行った。私としてはサルタールが関わらなければいいのだが、彼女へ、そして、スルガー家に対して最も重たいのは、クロム家との完全な縁切りだということで、このような処罰となった。
「でも、レティス様には悪いことをしましたね」
「メリちゃんが気にすることじゃないわよ」
「そーそー、元々スルガー家は邪魔だった、うちの名を語られるのも迷惑だし、いい機会だよ」
やっぱり、クロム家全体が他者に対して冷たいよね。懐に入れてしまえば優しいけれど、そうではない者に対しては興味がない。王族故に、他者との関わりを気薄にしているのかもしれない。リテア様も周りとは最低限の関わりだし。
「さて、後はマーベス待ちですね」
「マーベスも確かにそろそろ帰ってくるわね、でも、待ちって?」
カルデラはただ笑顔を向ける。マリア様とソフィア様、セヘルまでもが私に笑顔を向けるだけで答えてはくれない。あの、怖いんですけど。
答えはわからないまま、マーベスを待つ。帰ってきたマーベスは、クリアとなぜかローザと共にいた、なんだこの組み合わせ。しかも何か書類を持っている。
「ローザ? どうしたの?」
「マーベス様に頼まれたのですわ」
マーベス、ローザは書類を食堂の机に置いた。それを私は手に取り、セヘルを見る。
「セヘル……」
「感情は、隠せないと、言いました」
それはラーダ家に関する書類だった。ディオの名前を出したのは昨夜だ、一日も経たずにここまで調べられるものではない。つまり、ディオが私に接触してきてすぐに調べたということになる。
「よく名前わかったわね」
「僕に教えてくれたのがディオ先輩だもん」
あーそう言えば、そんなこと言ってたか。私のことを知る人は限られてくる。そっから割り出したわけね。
「あと、魔術教師ラーダに関しては私が知らぬ人ではありません」
「そうなの?」
「えぇ、ディウムをあそこまで怒らせるのも中々珍しい方です」
怒らせたって、何したのよラーダ先生。あの人は小等部の魔術教師だ、その時大等部だったであろう、ディウムとは関わりはないはずである。いくら敷地は一緒でも、校舎も違うというのに、よく怒らせたものだ。
書類を改めて見る。そこには、ローザの字ではないものがあった。筆圧が強いし、何より図や重要部分の色が変わっていたり、ちゃんと文章になっており丁寧である。ローサが作る書類は箇条書きだ、こっちはこっちで重点項目がわかりやすいのだが、歴史の背景はわかりにくい。その辺がしっかりカバーされている。これ、マーベスが持ってきた書類だよね。
「それはヴァニイが作ったものですね」
「ヴァニイ様が?」
「はい、ヴァニイの得意分野です」
ヴァニイを巻き込んだの? 研究所の運営で忙しい彼を? 今度会ったら謝っておかなきゃ……。
「申し子に対して害になるならば、ヴァニイは動きますよ、オルガン家ですから」
「尚更頼んじゃいけないでしょうに」
仕事そっちのけになりそうじゃない。私申し子であることを盾にはしたくないんだけど。
「ヴァニイさんから伝言だよ」
「何言ってたの……」
「申し子を雑に扱うような奴は許さなくていいってさ」
「そう……ですか……」
行動には気を付けよう。あらぬ被害者を増やしたくはない。変なことしたら、私が悪くとも全て向こうが悪くなりそうだ。
「申し子はどうでもいいですが、メリを傷つけるなら容赦はしませんよ」
「どうでもよくはないでしょ」
「メリはメリですから」
うん、やっぱり気を付けよう。対処が過激なのよ、ちょっと敵意向けられたくらいで重たいのよ。
サルタール同じく、どんな処罰が一番いいのか話し合いが始まる。その中には当然殺伐としたものがあり、それが出る度に止める。
「やっぱり、社会的に抹消するのがいいと思いますわ」
「ローザ! 何も良くないわ!」
「メリ様は優しすぎるんですの! メリ様の事情を考えずに罵ってくるような馬鹿です! こんな奴が社会に出たって良いことはありませんわ!」
「ローザ様の言う通りですよメリ様、むしろ命あるだけありがたいと思ってもらわなくては」
ローザはいいとして、クリアまで怖いこと言うようになってしまった。それはね過剰防衛って言うのよ。
「ヴァニイさんも怒ってたよー、なんでもラーダって教師、ディウムさんにもちょっかいかけてたらしいから、メリさんにまでって」
「元々性格がよろしくないのです」
言いたい放題だな。別に私は関わってこなきゃいいのよ、関わってこなきゃ。
その後も、ろくな案が出ず、私はため息を吐くしかなかった。
メリ過激派の皆様




