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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【一章 満月の誓い】
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第六話 【誕生日パーティ】

 あの満月の夜から三ヵ月。クロム家は朝から忙しなく動いていた。無論誕生日パーティに向かうための準備だ。

 私は自室で、専属使用人であるティアラと共に、ドレスに着替えたり、髪を結ったり、化粧をしたりと、それはもう人生で一番触られた気がする。

「お嬢様できましたよ、ふふふ、ティアラ渾身の出来であります!」

鏡に私が映る。

 ドレスは髪に合わせエメラルドグリーンで、レースは少なめでシンプルながらも、上品さがある。髪は両サイドを編み込み、後ろでまとめている。髪留めは黒で、金色の装飾がされており、その装飾には、鳥が羽を広げ、杖を上に掲げた模様が描かれている。これはクロム家の紋章で、鳥はカラスだそうだ。この髪留めの理由は、カルデラの連れであり、婚約者であると示すためのもの。顔も化粧により、元々大きめである瞳が更にパッチリに見え、頬には赤いチークが控えめに、口紅は目立ちすぎないよう、薄いピンクだ。幼さは残るものの、上品に仕上がっている。

「ティアラ、凄いわね」

「えへへー、カルデラ様の婚約者ですから、リテア嬢に負けないくらい可愛く仕上げました!」

「主役より目立つのはダメだと思うけど」

あくまでも、リテア様の誕生日パーティだ。主役はリテア様である。

「いいんですよ、あんな我儘娘のことなんか気にしなくて」

「ティアラ、失礼よ」

はーいとティアラは不満げに返事をする。

 ここ数ヶ月で理解したことだが、少なくともこの屋敷ではリテア様はよく思われていない。リテア様は今年で二十歳。私が閉じこもる前にも、度々話題になっていたが、特に十歳のパーティの時には、結構やらかしたらしいと噂を聞いた程度である。その頃には私も腫れ物扱いだったので、完全なる盗み聞きであるが。

「でも、本当にお嬢様は可愛らしいですよね、まるでお人形です、こんな可愛いお嬢さんを地下に閉じ込めていたなんて、勿体ないことしますねぇ、カンボワーズ家は」

うっとりとするティアラからは、嘘を付いているようには感じられない、お世辞ではなく本心のようだ。

「でも大丈夫です、カルデラ様がいればまた閉じ込められるような事にはなりませんよ、なにより私が許しません!」

「ありがとう、嬉しいわ」

この屋敷の人達は本当に人が良い。私の力を見ていないのもあるのだろうが、みすぼらしい状態の私を見ていたのだ、それでも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。プロなのもあるのだろうが、卑屈な私でもわかるくらいに歓迎されている。カルデラの力なのか、単純に女性が来たのが歓迎されているのか……なんとなく後者な気はする。

 クロム家は男系だ、実際カルデラもマーベスも男性である。女性使用人は私を見て、どうも着せ替えたいと考えていたらしい。ドレスを選ぶ時なんて、私より使用人達の方がやる気があったくらいだ。何着も試着させられ、何が一番似合うのか、軽く狂気を感じるくらいには悩まれた。そして、ティアラは私の化粧まで担当できてそりゃもう、上機嫌であり、私の髪を触っては、どんな髪型にしましょうかねーと日々悩んでいたほどである。一番浮き足立っているのは彼女達に違いない。

 そんな経緯を得て、完成した今日のコーデに、ティアラはもう、満足感たっぷりである。

「さて、カルデラ様を呼びましょうかねー、きっと驚きますよー!」

「そうかしらね」

実験動物が、着飾ったところでだと思うが。一応婚約者なので、呼ばれるのだろう。ただの縛るための鎖なのだが。しばらくして、扉が開く。そちらを見ると、ティアラと共に黒いスーツを着たカルデラが入ってくる。普段魔術師っぽい紺色のローブを羽織っているが、今日は流石に正装である。

「どうですか、カルデラ様! 綺麗でしょう!」

何故か自慢げなティアラに、カルデラは黙って私を見る。何か言いなさいよと思うが、なんて声をかけたらいいかわからず、しばし無言の時間が続く。すると、背後からマーベスが顔を出した。

「わぁ! メリさん綺麗! ほらね、やっぱり僕が言った通りだったでしょ」

「マーベス、貴方も素敵に決まってるわね」

マーベスは、灰色のスーツを着ている。明るい彼らしい服装に賛美を述べると、恥ずかしそうに頬を染めた。子供らしい一面もあるんだなぁとしみじみ感じる。マーベスはまだ十五歳である、カルデラと話している時の彼からは想像付かないが。

「兄さんもこんな綺麗な婚約者だったら、鼻が高いね!」

ニヤニヤしながら、マーベスはカルデラの方を見る。

 一方のカルデラは、一言も発していない。ただ、私を見ている。普段ならうるさいくらいなのにだ、逆に怖いんですけど。

「兄さん?」

「え、あぁ、そうですね」

ようやっとマーベスの方を見てにこりと微笑む。否定とも肯定とも取れる返事に、こいつ話聞いてなかったなと判断せざるおえない。

「全く兄さんったら、でも面白い反応見れたからいいや」

「面白いとは何ですか」

「女性に見とれてる兄さんなんて中々見れないからねー」

「なっ……!」

カルデラが赤面し、ティアラは私に向けてウィンクをする。置いてけぼりの私は一連の流れをただ眺めていた。

 カルデラと共に馬車に乗り込む。向かう先はアムレート城。城についたら、まずカルデラのご両親のところへ向かう事になっている。

「両親には連絡してありますから、緊張しなくて大丈夫ですよ」

「うーん、緊張はあんまりしてないかな」

当初はパーティなんて、いつ、物が壊れるかわからないと恐怖があったが、流石に外に出て四ヶ月経ち、普通に生活できていれば、カルデラの魔法を信用せざるおえない。結果的に緊張はしていない。流石に王に会うのを考えれば緊張するが、私に見向きもしないだろうとも思う。

「それなら良かったです、貴女は胸を張っていてください、綺麗なんですから」

「は?」

サラッと綺麗と言われ、ドスの効いた声が出てしまった。いきなりどうしたこいつ。

「お世辞ではないですよ? 貴女を連れていくのを躊躇ったくらいですから」

「わけわかんない」

カルデラの考えが読めないのは今に始まったことではないが、なぜ連れて行くのを躊躇ったのか、わからない。聞いたとこで理解し難いのだろうが。

 そんな話をしていたら、馬車が止まる。どうやら到着したらしい。カルデラは慣れた手つきで私に手を差し出し、私はその手を取る。先に付いていたマーベスがこちらに来て、行こう! と催促され、私達は城に入った。

 城なだけあって、建物は大きく、天井も高い。どうやって掃除しているのだろうかと、変な心配が頭をかすめる。

「両親は控え室にいるはずです、王やリテア嬢に鉢合わせると面倒なので、さっさと参りましょう」

城内部でなんと失礼な発言と思っていると、マーベスもコクコクと頷く、つくづくクロム家の人は王に対して辛辣である。忠義を尽くしていると聞いていたのだが、実際は違うのだろうかと勘ぐってしまう。

 足早に城の廊下を進む。チラチラと見える高そうなインテリアの数々と、綺麗な庭は、田舎令嬢の私には眩しいくらいであった。

 控え室の前に着くと、カルデラは三回軽くノックをする。中から、女性の声でどうぞと聞こえ、扉を開けると。中には二人の人がいた。女性も男性も綺麗な金色の髪をしており、女性側が綺麗な明るい青い瞳、男性側が高貴な紺色をしている。なるほど、カルデラもマーベスも、瞳は間を取った感じなのか。多少カルデラが父、マーベスが母寄りな気がする。

「貴女がメリちゃんね」

「は、はい! メリ・カンボワーズと申します、よろしくお願い致します」

ここ三ヵ月で叩き込まれた綺麗なお辞儀をする。ドレスを着た状態なんて始めてだったが、なんとかできた。

「畏まらなくていいわよー、ねぇ、あなた」

「うんうん、むしろ感謝したいくらいさ、カルデラは、女性に全く興味がなくてね、結婚できないんじゃないかって心配してたんだよ」

男性は腕を組みしきりに頷いている。父親の不安はご最もだろう。カルデラは魔法以外への興味が皆無だから。私を連れているのも魔力が高いからだし。

 二人に促され、私達もソファに座る。母親が、マリア・クロム様、父親が、ソフィア・クロム様。ついでに、ソフィア様に女性名じゃないかと突っ込むのは禁句らしい、本人も気にしているのだろう。

「しっかし、カルデラから聞いてはいたが、本当に魔力が高いんだねぇ、こっちが恐縮するよ」

「これでも魔力を弾く結界を纏わせているのよね、私はあまり強い魔術師ではないから、夫よりも緊張しているかも」

頬に手を当て、ふふと笑うマリア様からは、緊張なんて感じ取れない。むしろ強者の余裕が見て取れる。

「一応説明しておきますが、メリさんはまだ魔法が扱えません、これだけ魔力が高ければ、まず手は出してこないでしょうが……」

「リテアちゃんを警戒しているのね、あの子貴方のこと諦めてないわよ」

「でしょうね」

深い深いため息が、カルデラから吐かれる。王の娘に気に入られるのなんて、名誉なことだと思うのだが、魔法馬鹿にとっては迷惑なのだろう、少しリテア様が不憫だ。

「流石に婚約者がいれば、諦めると思うけど、そんな簡単じゃなさそうだね」

「逆恨みしなきゃいいわね」

マーベスとマリア様は顔を見合わせる。

 私が思うに逆恨みはあるだろう。どの程度リテア様がカルデアを好いているかにもよるが、諦めていないなら、それだけ好きだということだ。ぽっと出の、しかも田舎令嬢で問題アリな女がいきなり出てきたら、怒って当たり前だと思う。だから、私は死ねると踏んでいたのだ。

「ま、手を出してくるようであれば、容赦はしませんよ」

肩を引き寄せられる。大事そうにするその仕草に、マリア様はあらあらと顔に手を当て、ソフィア様は満面の笑みだ。これが本当に恋愛感情だったら、二人の反応に笑顔で返せたのだが、貴重な実験動物が傷つけられるのが嫌なだけなんですよ。

 ある程度の話が済み、パーティの時間も迫っていたので、会場となる大広間へと入る。そこは既に人で混みあっており、瞬時に体が強ばった。大丈夫と言い聞かせても、不安はぬぐえない。チラチラと私の方を見てくるのは、魔術師の人達だろうか、大体が驚いたような、戸惑ったような顔をしてくる。

「魔術師であれば、貴女の強さはすぐにわかります、視線は気になるでしょうが、堂々としていてください、ここで恐縮すると魔法が使えないのがバレますよ」

「は、はい」

堂々としてろと言われて、はいそうですかと言える程、私は肝が据わってるわけではない。閉じ篭もる前にだって、こんな大勢がいる場所に来たことはない。魔術学園は確かに人が多いが、所詮子供なのである。大人と違って緊張感漂う威圧感はない。

 カルデラと共に、部屋のあまり目立たない隅に行く。ここなら、多少視線は防げるだろうと思ったが、チラチラと見てくる視線は変わらない。

「あれは、クロム家長男か」

「女性を連れているぞ」

「珍しいな、しかしあの女性も可哀想に、あの変人に目を付けられるとは」

……ん? これ。注目集めてるのカルデラじゃない? カルデラを見ると、噂なんて何処吹く風で、優雅にシャンパンを飲んでいる。

「ねぇ、カルデラ」

「どうしました?」

「貴方、もしかしなくても悪い意味で有名人?」

「周りの評価など知りませんね」

こいつ……。私だって変人だと思ったことは幾度とある、魔法に対しての異常なまでの執着は、私自身を通して感じていたが、周りの反応は怖い者を見る反応だ。カルデラのことを話しながら、目を合わせないようにしている。私が経験してきたものと全く同じ光景に何も言えなくなった。カルデラ、あんた何をやったらこんなに怖がられるのよ。

「あんた、何やったの」

「私はずっと研究していただけですよ」

その研究が悪逆非道だったのでは? その疑問は押しとどめた。今聞かずとも身をもって知るからだ。むしろ今その可能性を知れただけ良しとしよう、心の準備ができるから。

 ザワザワとしていた室内だったが、数分後しんっと静まり返る。何事かと身構えていると、ステージに一人の男性が登った。少しふくよかで、見た目から判断して五十代後半か六十代半ば。その隣には、濃い桃色の髪を可愛らしくツインテールにした、人形のように愛らしい女性が立っている。誰かを探しているのかしきりにキョロキョロしていた。

「今日は、我が娘リテアの誕生日パーティにようこそいらっしゃいました、リテアももう二十となり、成人を迎えます。そろそろ結婚も考えなければなりません、結婚相手はリテア本人に選ばせるつもりです、どうか皆様この子を祝福してくださるよう、お願いします」

男性は優雅に一礼する。彼がこの国の王、マギア様か。つまり、隣にいるご令嬢は今日の主役リテア様だ。リテア様の探し人など一人しかいないだろう。私はまたカルデラをちらっと見るが、興味無さそうにしており、ため息が出た。リテア様、悪い事は言いません、この男だけは辞めるべきです、こいつが王になってもこの国が良い方に進むとは思えませんよ。

 マギア様の挨拶が済み、またガヤガヤと騒ぎ出す。ピアノがなだらかに流れ、ダンスをする者達も見受けられた。カルデラは、少し移動すると、マリア様やソフィア様、マーベスと話し込んでいる。その間にちょこちょこ、この国の貴族達との挨拶が挟まり、その度に私は自己紹介をした。婚約者として紹介されると、大抵の人が驚いた顔をして、祝福を述べてくれる。一部の人は顔が引きつったりする、恐らく魔術師なのだろう。私の魔力に、怖々といった感じだ。

 カルデラから誰かに挨拶することはまず無い。カルデラだけではなく、クロム家そのものが挨拶しに行く気はないようだ、王族だからなのか、クロム家が、人付き合いが苦手なのか、私は後者なのでむしろ有難いのだが。そして、私は常にリテア様の様子を伺う。マギア様が婚約者を探しているような事を言ったからだろう、様々な家柄の人々から、話かけられている。ただし、チラチラとこちら、多分カルデラを見ているので、私達の場所はわかっているようだ。私の存在に気付いているのかはわからない。いつ来るだろうかと、緊張する。

 その瞬間は数分後に来た。あらかた挨拶を終えたのだろう、小走りでリテア様がこちらに向かってくる。私は嫌な汗が手に滲むのを感じながら、彼女を見つめる。

「カルデラ様!」

目の前に来ると、それはもう嬉しそうに話かけてくるが、当のカルデラはとても冷たい目を向けた。少しは愛想を良くしなさいよ、いつもの人の良い笑顔はどうしたのよ。

「ご無沙汰しております、リテア嬢」

「いえいえ、カルデラ様もお忙しいでしょう? わたくしは構いませんわ」

キラキラと目を輝かせている感じ、どうやらカルデラしか目に入っていないようだ。隣にいる私なんて空気である。普通好きな男の隣に女がいたら敏感に反応しそうなものだが、恋は盲目というやつだろうか。

「あぁ、そうだ、リテア嬢にはお伝えしなければならない事がありました」

「あら、なんでしょう?」

「この度私は婚約をしましてね、メリさん」

「め、メリ・カンボワーズです、リテア様」

カルデラの合図で私は自己紹介をする。ようやっと私を認識した彼女であったが、その瞳には敵意がありありと浮かんでいる。正直、怯えた目をされた方がいい。

「ま、まぁ、そうでしたの、わたくしの婚約を断ったのは彼女がいらっしゃったから?」

「はい、そうですね」

自然に嘘をつきやがったぞこいつ。お前が私を知ったのは婚約を断ってからだろうが。

 心の中で毒を吐きつつ、改めてリテア様を見る。その顔は笑っているが、私を睨むのを忘れていない。まるで、なぜ貴女のような女が? と言っているようだ。リテア様、私はただ魔力が強いだけなのです、この男に拒否権はないと言われているだけなのですよ。実験動物に対してそんな敵意を向けないでください。そんな私の気持ちはもちろん届かず、リテア様は二、三言、カルデラと話すと、使用人と思われる人が焦ったように呼び、不満げにこの場を離れた。呼びに来た使用人が、私の事を怯えた目で見ていたことを見逃す私ではない、恐らく関わるなと言いに来たのだろう。彼魔術師だな。

「全く、鬱陶しいですね」

「カルデラ、城内」

チッと舌打ち一つ。そこまで嫌わないであげてもいいのに。

「いい子そうじゃない、リテア様」

「魔法が使えないんで興味はありません」

やっぱりリテア様不備だなぁと、彼女の後ろ姿を目で追いながら思ってしまった。

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