第三話 【傷をつけた者】
学園にて、ドレスとコートをどうしたのかリテア様に報告する。
「なるほどねぇ、確かにカルデラ様に白って違和感かも」
「やっぱり黒のイメージですよね」
二人で頷き合う。オーラが白を寄せつけないのだ。シャツは普通なのだが、きっと全身白なのがいけないのね。
「ま、二人が納得してるならいいんじゃない? きっと天使と悪魔みたいなことになるけど」
「怖いこと言わないでくださいよ」
縁起でもない。と言いたいが、実際見た目雰囲気はそうなのだろう。私は髪が柔らかい方だから、ふわふわしているのだ。対してカルデラは髪が硬いので、キッチリした見た目になる。確かに天使と悪魔な見た目になるのだろう。
そんな事をリテア様と談笑する。その間にローザが入ってきて、どうやったらよく記事が書けるか真剣に悩まれた。どうやら、彼女が書く初の記事が私達の結婚式らしい、それでいいのかと聞いたら、むしろ魔術師団を引っ張っていく二人の記事が最初なんて光栄だと言われてしまった。その後、大等部に上がったマーベス、クリアも来て、改めて話をする。マーベスは家でも聞いているので軽く流していたが、クリアはすごい真剣に聞いていた、怖いくらいである。きっと、将来マーベスと結婚する時の参考なのだろう。マーベスだったら白も問題ないし、タキシードでも大丈夫だと思うけど。
皆と話し終えて、教室へ戻る。リテア様、ローザは一般部だし、マーベス、クリアは学年が違うので、中庭で別れる。魔術部に行く廊下にて、その人には会った。
「随分と幸せそうじゃん」
「……誰ですか?」
睨むように見られる。どこかで見たことあるような雰囲気はあるが、記憶にはない。
「わかんないか、まぁ、被害者俺じゃないしな」
「被害者?」
男性は、一礼する、私も一礼する。なんの時間よコレ。
「俺はディオ・ラーダ、聞いたことない?」
「ラーダ……」
その名前に、私は身構えた。忘れるはずない。ラーダその名前は、私が地下に入るきっかけとなった者の名前だ。
魔術教師ラーダ。私が小等部六年の時にぶつかり、大怪我をおった。それを見ていたクレイが私を怖がり、私は地下に入る決心を固めたのだ。しかし、彼は似てはいるが、本人ではない。親族ということか。
「噂通りってとこか」
「噂?」
「可愛らしい見た目で、魔力が高いって父さんが言ってたからな、でもその魔力はコントロールできてない」
「今はできてますよ」
なるほど、彼の息子さんか。なら、私が幸せそうにしてれば、突っかかってくるだろう。被害者という言葉からして、許す気はないといったところか。許してもらおうとも思ってないけど。
「マーベスに喋ったのはマズったかな」
「マーベスに?」
「あぁ、あんたのこと話したの俺なんだよ、まさか兄貴の方が動くなんて思わなくてさ、いくら変人でも、危険人物だぜ? 普通会いに行くか?」
そう言えば、私の話を出したのはマーベスだったか。魔術学園の先輩に聞いたと言っていたが、ラーダ先生の息子なら頷ける。
ラーダ先生は命に別状はなかったはずだが、しばらく学園には出て来れなかったろう。ディオは、舌打ちをすると、私を鋭い眼差しで見る。
「しかも婚約者って、頭おかしいにも程があるだろ」
「私のことはなんとでもどうぞ、ただ、カルデラのことは悪く言わないでください」
私が悪く言われるのは構わない。ただ、カルデラに関しては許せない。
「おー、そうかい、だったら俺を傷つけるか?」
「なぜそうなるのですか」
「だってあんた、危険人物だろ? そのくらいかんた……」
「そこまでです、失礼にも、程があります」
その場に静かな声が響く。声の主はセヘルだ。魔術部の教室に向かう途中だったのだろう。その声には明らかな怒りが滲んでいる。
「ちぇ、邪魔が入ったか、まぁいいや、んじゃな」
「メリ様に、近づかないでくださいね」
ディオは答えず去っていく。彼の向かった場所的に二年のようだ。マーベスの一個上か。
ディオが去ったのを合図に、セヘルは私の方を向く。その表情は心配そうである。
「大丈夫ですか、メリ様、先程の方は?」
「昔あったわだかまりってとこよ、気にしないで」
私は肩を竦めて言うが、セヘルは納得していないらしい。これ、ヤバいやつだな。
「あの、カルデラには報告しなくていいからね?」
「しかし……」
「お願いね?」
「感情は、隠せませんよ」
うーん、とりあえず大丈夫……そうかな。多分ディオの名前は知らないし。カルデラは私が地下に入ったきっかけは知らない。姉様に聞けば多少はわかってしまうかもしれないが、ラーダ先生のことも、それが原因だってことも予想の範囲でしかない。私が言っていないから。
「ほら、教室に戻りましょ?」
「はい……」
やはり、セヘルは不満げだ。カルデラに変なこと言わないといいけど。
夜。セヘルを見ると何か怒っているようだ。
「セヘル、何かありましたか?」
メリがいないことを確認し、セヘルに話しかける。セヘルは、しばらく黙ると。今日あったことを話してくれた。メリを傷つけるとはいい度胸だ。
「その男の名は?」
「僕には、わからないです、しかし、メリ様のことを、詳しく知っている、方のようです」
メリのことを詳しく知っている男。クレイはメリと同い年だし、近づけば即地下に行くように、王から通達がされている。つまり別の人物ということである。そうなると、考えられるのは……。
念話で、マーベスを呼ぶ。すぐに食堂に来たマーベスは不思議そうだ。
「兄さん、それにセヘルさんまで、どうしたの?」
「マーベス、お前がメリのことを聞いたっていう、先輩の名前はなんだ」
「……兄さん、なんか怒ってるね」
自分が答える代わりに、セヘルが頷いた。
「ディオって先輩だよ、ディオ・ラーダ、そんなに仲の良い先輩じゃないけど、実習でたまたま一緒になってね、その時に聞いたんだ、で、それがどうかしたの?」
ラーダと言えば、確か自分が大等部の時に、小等部の魔術教師をしていた男だな。あまり関わりはなかったが、全治半年の大怪我をしてしばらく学園に来てなかったことがあったはずだ。それが、魔術学園の生徒がやったことらしいと、話題になっていたのを思い出す。ディウムが、教師に大怪我をさせるなんて、どんな人物だろうと気にしていたので記憶に深い。
「今日、メリ様が、妙な男に、話しかけられていたのです、とても、失礼な物言いだったので、追い返したのですが」
「それで兄さんが怒ってるわけか」
納得しているマーベスは放置して、記憶を辿る。
確か、教師が怪我をしたのは、自分が大等部に入って半年と少し経ったくらいだったか。研究所に出入りしつつ、ディウムの書いた書類を清書していたのだ。それに時間がかかり、学校でやっている時に嬉しそうなディウムが来たのである。
「ねぇねぇカルデラ、聞いた? 聞いた?」
「何をですか……」
自分が苦労している原因が目の前に来たもので、不機嫌を隠さず返すが、この程度で凹むディウムではないし、きっと気にしていなかっただろう。
「あのムカつく魔術教師がね! 全治半年の怪我をしたらしいよ!」
「ムカつく……? あぁ、ラーダとか言いましたっけ、貴方の魔力が高いもんだから突っかかってきていた方ですよね」
あの調子じゃ、誰かが手を上げる前に、ディウムが始末していてそうだが、誰かが同じように考えたということか。
「ざまぁないね! 誰がやったんだろー? 僕と同じことを考えてれば、いい協力者になるのに! ヴァニイに調べさせようかな」
「そもそも地下に入るんじゃないですか、罪のない人間を傷付ければ地下入りです、貴方がそれを免れているのは、研究所があるからでしょう」
ディウムは不満げにこちらを見つつ、ヴァニイを呼ぶ。ヴァニイはいきなり人調べを命じられて、たじろいでいたが、頷き。すぐに調べに入った。
それから数日後、あまり良い顔をしていないヴァニイが、自分達のとこに来た。
「リーダー、あんたが調べろって言った件だがな」
「お、調べついた?」
ヴァニイは頷くが、その表情は曇ったままである。
「当日に地下に入ってる、なんか普段から物を壊したり、人を傷つけたりと問題行動が目立ってたらしい、見かねた婚約者が婚約破棄して、そんで地下入りを決めたみたいだな、まだ十二歳の可愛らしい嬢ちゃんらしいぜ」
「えー、せっかく話しかけようと思ってたのに、名前はー?」
興味あるようなないような、そんなふうに聞いたディウムの質問にヴァニイは答える。
自分は、顔に当てていた手を離す。そうだ、あの時ヴァニイは確かに名前を報告していた。自分も、ディウムも、報告したヴァニイすら忘れていただろう。なんせ、そっからはプロジェクトソルセリーが始まったのだ、それどころではなかった。
「兄さん? どうかした?」
「何か、焦ってます?」
「私、昔メリの名前を聞いたことがあることを思い出しました」
ヴァニイはあの時、メリ・カンボワーズだと言った。時期的にもピッタリ合う。メリが地下に入ったのは小等部六年の時だ。そして、半年を過ぎた辺りだとサリサ嬢は話していたはずだ。
「昔? 魔術学園で会ってたの? 会ってたら反応しそうなもんだけど」
「会ってはないです、大等部の初めに、ラーダという魔術教師が怪我をしましてね、それをやったのがメリだと、ヴァニイが報告していたはずです」
自分は立ち上がり、一旦自室へ戻ると一つの機械を取り出す。それを食堂に置いた。
魔力通信の魔具だ。互いが同じ機械を持ってないと使えないし、度々通信はできないが、便利は便利である。その通信を研究所に合わせる。距離はあるが、通じるはずだ。ブツっと嫌な音を立て、通信が開始される。
「おー、これはカルデラか? どうしたいきなり」
「ヴァニイ、貴方ラーダって教師覚えてませんか?」
自分がいきなり質問から入ったからだろう。しばらく返答はなかったが、あー! と思い出したように叫ぶ。
「リーダーに一々突っかかってたきやつか! 確か怪我をしたもんで、リーダーが喜んでたっけ」
「そいつです、貴方、誰が怪我させたか調べてましたよね」
うーんと唸り声がして、調べたなと言ったあと、あっとすぐに返ってくる。思い出したようだ。
「それやったの嬢ちゃんだったな」
「やはりそうですよね……」
あの頃のメリは、触ったものを壊したり、傷つけたりしていた。本人の意思とは無関係ではあったが、メリが拒絶することで、力が発揮されていた。
「その様子じゃ、ラーダ家絡みでなんかあったな、あそこ性格悪そうだしなぁ、調べてみるか?」
「できますか?」
「おうよ! これでもティガシオンの従者として育てられてんだ、むしろ得意分野よ!」
心強い味方を得たものだ。まぁ、申し子であるメリ絡みでなければ動いてくれないだろうが。
通信を切る。とにかく今はヴァニイの調べ待ちということか。
「今度はメリさんに言わないやつだねコレ」
「マーベス、お願いしますね」
「もー、二人とも似てるんだから、いいけどさー」
不満げではあるが、マーベスは頷く。早く片付けばいいがと、自分は考えた。
ヴァニイ協力者となります
なんだかんだ仲良し




