第二話 【衣装選び】
いくら憂鬱な気分でも明日は来るし、やらなければならないことがなくなるわけではない。
「えーっと……」
豪勢な店で私は言葉を失う。カルデラは慣れたように受付嬢と話すと、私を手招きして店の奥へ通された。
ウェディングドレスにしても、カルデラの衣装にしても、特注であることは聞いていた。しかし、しかしだ、私はズラリと並んだサンプルのドレスと、どういう風にしたいか聞くために待ち構えている店員さんを見る。私の場違い感凄くない? こんなに豪華にしなくても良くない? いや、クロム家は王族ですよ、だからそれ相応になるのは理解します。理解するけど、カンボワーズはね、貴族だし、一般よりお金があるとはいえ、ここまでじゃないのよ。
初めて王族と貴族の違いを見せつけられた気がする。世界が違う、違いすぎる。慣れた様子のカルデラが怖すぎる。
「では、メリのドレスをどうするか、色々試着しながら決めましょうか」
「そう、ね」
満面の笑みのカルデラに、何も言わない事を決めた。こればっかりは誰に言っても通じないんだろうな。カルデラの妻になるんだから当たり前でしょと言われるのが関の山である。私は腹を括る。メリやるしかないのよ。
選び始めると楽しいもので、色々着てみる。私としては、多少露出度がある方が、ウェディング感があっていいのだが、カルデラが良い顔をしない。
「メリの肌を他人に見せたくないです」
「何言ってんの?」
さすがの私もは? と思う。カルデラの独占欲は今に始まったことではないが、肌くらいでとやかく言わないでよ。普段露出度高い格好なんて、歳を考えてやらないんだから、結婚式くらい、いいじゃないの。
「奥様レースの幅を広めにするのはどうでしょうか?」
「なるほど……そういうドレスありますか?」
袖や首周りが幅が広めのレースのドレスを着てみる。適度な露出度はあるが、レースのおかげで緩和されている気がする。
「どう?」
「ふむ、このくらいなら」
「なら、袖や首周りはレースにしましょうか」
カルデラが頷いたので、店員さんがその趣旨をメモする。
次はスカートの形だ。個人的には定番のAラインか、落ち着いたエンパイアラインが良いところである。とりあえずプリンセスラインだけは避けたい、派手すぎる。可愛いけど。
「スレンダーラインも悪くないわね」
「基本的に大人っぽいですね」
「不満?」
「いいえ、ただ、可愛いメリも見たいものです」
可愛いと大人の間を取るなら、Aラインかな。マーメイドラインは、背が低いので似合わなそうだ、背が低いの考えるとやっぱりエンパイアラインがいいんだけどね。
結局は形をどちらにするか決めかね、先に色を決めることにした。私は白だと思っていたのだが、カラードレスというものがあるらしい。式と披露宴で変えることもできるそうだ。
「それなら、式ではAライン、披露宴ではエンパイアラインってこともできるのね」
「そうですね、二着作りましょうか」
カルデラも賛成してくれたのでそうすることにした。披露宴でのカラードレスももちろん露出度は少なめである。ここはもう譲る気ないのだろう。
「形が大人っぽいから、甘めの色でも問題ないけど」
店員さんから出されたカラーカタログを見つつ、一つ着てみたい色があった。
「カルデラ、緑はどう?」
「髪色に合わせて、ですね」
それもあるが、私は五年前を思い出していた。リテア様の誕生日パーティである。あの時私は髪色に合わせてエメラルドグリーンのドレスを着ていた。久しぶりに着たドレスに我ながらテンションが上がったを思い出す。
あの日からカルデラとの距離も縮まったのだ。リテア様にはちょっと悪いが、私としては思い出深い日であり、色なのである。
「いいと思いますよ、私はメリの髪の色好きですからね」
髪を触りつつ言われる。こうして私の衣装の大まかな部分は決まった。あとは微調整をするだけである。
と言うわけで、次はカルデラの服だ。カルデラの服を選ぶ規準が動きやすさだから、こういう時くらいお洒落してよね。
「うーん、わからないものですね」
カタログを見つつ、カルデラは悩む。しっかり悩んでくれるだけ安心する。どうでもいいって言われたらどうしようかと思った。私もカタログを覗く。カルデラの衣装か、白が似合うかどうかな気がする。いや、見た目的には似合うと思うけど。
「白いモーニングコートとかは?」
「ディウムみたいじゃないですか?」
「否定はしないけど……」
モーニングコートは、朝に着るための貴族服だ。しかし、アムレートやマシーナでは、時間帯に関係なく着ている。見た目が良いのと、元々乗馬用に作られているので、動きやすいためである。実際、ディウムが着ていたのはこれなので、彼を彷彿とさせるのは無理もない。
そもそもカルデラって黒のイメージなのよね。結婚式だから白かなと思ったが、白のイメージが皆無なのだ。
「タキシードはなぁ、カルデラ似合う?」
「着てみますか?」
店員さんに確認し、白いタキシードをカルデラは着た。そして私は黙る。似合う、似合ってはいるのだが。
「カルデラじゃないみたい」
「そもそも白がダメなんだと思いますよ?」
やっぱりそこかな。カルデラは黒が似合うよね。ということで、黒のタキシードも着てもらったのだが。
「タキシード自体に違和感」
「そっからですか、言わんとすることはわかりますが」
普段紺色のローブだし、パーティの時はスーツを着ているものの、硬い服が違和感を持たせている。口調は敬語で硬いのだが、本人は至って雑な人間だ、こう、礼服感あるものが、似合っているのに変という、よくわからないことになっている。
「フロックコートにしましょ」
「ですね、チールコートはまず母様に却下されますから」
チールコートは、礼服としては格式が高いものの、使用人長が着ている。いわゆる燕尾服というやつなのである。そのため、格式関係なく、マリア様が許さないだろう。
消去法でフロックコートとなった。ジャケットが長めであり、背が高いカルデラに似合うから良いだろう。色は白は違和感があるので、挙式では黒、披露宴ではシルバーにすることになった。単純に似合うからだ。
「なんとか、決まりそうですね」
「そうね、まだ微調整があるから、通うことにはなるけど」
色も、明るいものから暗いものまで様々だ。私もカルデラも、まだまだ衣装には決めることが多そうである。
店を後にする。とりあえず試着品ができてから、また細かいところは決めることとなった。
「服を選ぶと、結婚式するんだなぁって感じするわね」
馬車に乗り、しみじみ思う。正直まだ学生なので実感が湧かなかったのだが、こうして二人で服を選ぶと実感が出るものである。
「そうですね、当日は人が多いでしょうが、あまり気負いしすぎずですよ」
そんな無茶なと思うが、当日カルデラも普段と違う服を着ているわけである。多分、周りを気にしている場合ではなくなるだろう。私服を初めて見た時だって衝撃だったのだ、礼服のカルデラなんて、衝撃どころではない。
「絶対かっこいいものね」
試着の段階でかっこよかったものの、ロケーションは大事である。まぁそのロケーションを台無しにしてくれるのもカルデラだが、流石に結婚式は台無しにできないだろう。
「楽しみにしてくださるのは嬉しいですね、私も楽しみですよ」
蕩ける笑顔をするカルデラに、私も笑顔を返す。
楽しみなのは事実だ。カルデラの一生で一度の、結婚衣装である。私も少し浮かれている。これが浮かれずにいられないのである。朝の憂鬱はどこへやら、和やかに馬車はクロム家へと向かった。




