第三話 【最上級の道具】
ヴァニイの話は、確かに良いものではなかった。魔法道具研究所の成り立ちとマシーナに生まれた神の申し子の話。そしてリトルナイトメアのこと。
「ティガシオンにリトルナイトメアの子供が生まれるとな、その子は他の同じ病の奴よりも劣るんだ、力が殆ど出し切れねぇんだとよ」
「だから神の呪いってわけですか」
自業自得ではあるが、千年も続く呪いとは相当だ。そこまで経てばもはや無関係である。自分に実害がないものまで呪うとは、なんともやるせないものだ。
「だからな、リーダーは魔力を嫌ってる、ここにいるのだって、王の座がミカニ王に取られたのもあるが、体のいい厄介払いさ」
「で、貴方も付いてきたと」
「あったりめぇよ、俺はディウムに仕えるためにいるからな」
教育とは難儀なものである。既に王の後継ではなく、ティガシオンの次期当主ではあるが、屋敷に顔も出していないディウムに付き添うというのは、自由がないものだ。いや、こいつにとってはそれが当たり前なのだ。自分はそういう存在だから一緒にいるのだろう。
一通り話を聞いたところで、何やら変な機械を持ってディウムが入ってくる。背が小さいので少し大変そうだ。
「大丈夫ですか、ディウム」
「大丈夫に見える?」
「なんか運ぶ時は俺を呼べってリーダー」
ヴァニイが機械を受け取ると、先程までヴァニイが座っていた椅子にディウムが座る。ヴァニイの背に合わせ調節されているため、座る時も一旦手を乗せて腕に力をかけ、飛び乗っていた。
「ヴァニイ、椅子高いよ」
「そりゃ俺の背に合わせてるからな、ちょいと待ってろ」
机に機械を置くと、ヴァニイが椅子に力をかけ、下に下げる。椅子にはボタンが付いており、力をかけたり抜いたりしつつボタンを押すと、高さが調節できる仕組みだ。ディウムのために開発したものらしい。
「で、何を運んできたんです?」
「コーヒーマシーン」
「はい?」
機械に付いているコードを、電気を通す為の穴に刺し込む。するとすぐにガガガと嫌な音がして止まった。
「コーヒー豆をひいた粉を入れるとね、勝手にコーヒーを淹れてくれるんだ、あ、水は予め入れておく必要があるよ」
「豆も予めひいておく必要があるんですね」
流石に機械に粉にしろって方が無理か、自分がコーヒーより紅茶派であることは黙っておこう。
「で、なんの話しをしてたの?」
コーヒーを淹れたヴァニイは、それをディウムに渡し、回答にも答えた。それを聞いたディウムは頷く。
二人は顔を見合わせ、ディウムがにっこりとこちらを見る。
「神の申し子はね、僕が考えうる中で最上級の協力者だよ」
「何かやりたいことがあるんですね?」
大きく頷き、椅子から立ち上がると、自分に背を向ける。この男は演説者には向いていると思う、そういう意味では王の素質があるんだろうな。
「僕はね、この病は、好きでもあり、嫌いでもある、病その物はどうだっていいけどね、周りは病だけで、僕という人間を判断する、魔力が高いのになんて言葉はよく言われたね」
白い貴族服の裾をはためかせ、こちらを振り返る。その表情は、口元だけに笑顔を浮かべていた。
「それは人を図る基準、目に見える単純な評価さ、だからその評価を無くしてしまおうと思うんだ」
「評価を無くす?」
「そう! 評価なんてものがあるから! 魔力なんてものがあるから! 人は人を見誤る、ならば! それを無くせばいいんだよ!」
言いたい事はわかたった。どうもこいつは、自分に対する評価に不満があるようだ。自分というより、自分が起こした事象に対する評価か。
「神の申し子にはね、それが可能なんだ、今から十二年前が丁度千年経った時でね、もうそろそろ、出てくる頃だと思うんだよね」
パンっ! と手を叩いたかと思うと、自分の前に歩いてくる。
「だからね、カルデラ、君に手伝ってほしいのは、その神の申し子を探すことだよ」
「具体的にはどうするのです?」
固唾を飲んで見守る。こいつ、なにかよからぬ事を考えていないだろうか。
「マシーナの魔術師隊がね、人手不足で困ってるんだよ」
「ほぉ?」
「だからね、魔術師を作れないかなって!」
「は?」
俺は固まる。ヴァニイが苦笑いを零す。ディウムだけが自慢げである。
「そうだなぁ、四から十二歳の子供を対象に魔力を流し込んで、無理矢理魔力を使えるようにしたらいいんじゃない?」
「できるんですか?」
「やってみなきゃわかんないよ、多分死ぬ方が多い、でもその中で死なない人間を探したい、神の申し子は、僕達では殺せないからね」
申し子を探すためだけにここまでやるのか……そうまでしないと、見つからないものなのか。
しかし、自分も申し子とやらには興味がある。魔法を凌駕する奇跡、それがあれば、カリナの傷跡などすぐに消せるのではないだろうか。
「それに協力しろってことですね?」
「そう! カルデラなら簡単だろ? プロジェクト名はそうだなぁ、ソルセリー、プロジェクトソルセリーにしよう!」
こうして、魔術師を作り出す実験、プロジェクトソルセリーが始まった。すべては過程であった、申し子を探し出すための。
コンセントって言葉がこの世界には無いんです




