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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【四章 神の申し子】
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第七話 【感じたもの】

 外に出ると雨が降っていた。私はカルデラに抱かれているし、身体中が痛いので身動きはできず、待機していたのであろう車に乗せられる。この前乗ったものより広く、天井も高い。車って色んな種類があるのね。

「まだ痛みますか?」

「うん、ただ、だいぶ良くなかったかな」

車の椅子に座ると、痛いながらも支えてくれるものがあることに安心する。研究所から屋敷までは遠いので、ソフィア様の事後処理が終わるまで待つことになった。

 車の窓から研究所を見る。マシーナの申し子のために作られ、彼女が死ぬまで苦しめられた場所。ディウムが言っていることは全くと言っていい程理解できないが、その根底には孤独や寂しさがあったのだろう。他者から理解されない苦しみ、魔力の高さを期待されているプレッシャー。そのどれもが私には理解出来る。彼程強くはないだろうが、私も両親から受けたものだから。それをミカニ王はわかっていて、処罰を与えなかった。彼に残りの人生を生きろと言った。それが、一番辛いことだから。

「ディウムはこれからどうするのかしら」

「自分に危害を与えた人間を心配するとは、お人好しですねあなたは」

カルデラは呆れたように言う。

 他人事には感じないのだ。私もあの地下で生きることの辛さを経験しているから。目的もなく、ただ生きることは、死んでいるようなもので、ディウムが人生の全てを今回の計画にあてていたなら、目的のない今の彼はどうするのだろう。

「貴女が気にする事ではありませんよ」

「でも」

「どちらにしろ長くは生きれません、その間はヴァニイがなんとかします、今回は味方してくれましたが、本来であればディウムを裏切る奴ではありませんから」

「教育ってやつね」

カルデラは答えなかった。ヴァニイは、ディウムは生きてない方がいいと言っていた。彼という人間を理解しているからこその言葉だった。

 ならば、ヴァニイに任せるのが良いのだろう。ディウムからすれば、彼も道具の一つでしかないのかもしれないが、ヴァニイからすれば、敬愛すべき主なのだ。私が申し子でなければ、あの機械を止めてはくれなかった、ただディウムの決断に従っていた。そういう関係だ。

「あの機械はですね、私が大等部を卒業してすぐに作ったものです」

「魔力を吸い取るんだってディウムは言ってたわ、それをカルデラが一人で作り上げたって」

こくりと頷かれる。あの機械で人が死んでいるのも踏まえての頷きだと思う。

 まぁ、人を殺してるなんて驚くものではないけど。カルデラ本人が殺してることもあるだろう、むしろ機械なんて序の口である。

「……ほんとにリテア嬢が言った通りなんですね」

「リテア様が?」

「メリが、私の人間性なんかとっくに気付いているから、怖いものなんてないと叱咤されました」

り、リテア様なんてことを。一体カルデラになんと説明して叱咤までしたのか。気にはなるが聞くのは怖い。

「私の目的は、魔力を解明することです、解明し、選択を間違わないことでした」

「選択って、魔術を使う?」

「えぇそうです、カリナの話は聞きましたか?」

頷きを返す。カリナ・エルミニル。カルデラが初めて傷付けた女性だ。そして、カルデラの魔術への本格的な執着のきっかけである。

「あの時、私は自分の魔法に選択肢がある怖さを知りました、できる事が他者より多いということは、選択を間違えば人が死ぬということです」

無属性、それは魔術師の憧れである。全ての魔法を扱える存在。その威力は弱いことが多いが、クロム家は強いのだ。

 魔力が高い無属性であるクロム家に対して喧嘩を売るのは、余程自信がなければしない。それこそディウムやリスィのように。だから、婚約者である私が狙われることも多いのだろう。カリナがそうだった。カルデラには勝てないが、私には勝てるから。

「ディウムと会ったのは大等部に入って初日です、あちらから話しかけて来たんですよ、僕の研究を手伝えってね」

魔力が高いから目をつけられたのだろうか。それとも、カルデラの執着に気付いてのことだったのだろうか。

「私は迷わず頷きました、魔法道具研究所であれば、様々なことを調べられるはずですから、まぁ、その最初の研究が、プロジェクトソルセリー……セヘルの研究です」

「せ、セヘルの……?」

思いもよらぬ人の名前が出てきて私は驚愕する。え、セヘルって研究所にいたの。初見なんですけど。

「セヘルはプロジェクト最後の被検体です、そして唯一の成功作でした、まぁ、魔力が扱いきれず暴走したので、ディウムは地下に入れるよう言いましたが、ティオー家が回収したようですね」

へ、へぇー。魔術師って本当に作れたんだ。しかも、セヘルって無属性で魔力高いよね。

「あの実験で使われた魔力はですね、私のものなのです」

「はぁ! ってことは魔力を流し入れたのって……」

「私です」

なにやってんのコイツ。いや、人を殺しただろうとは思ってたよ、思ってたけども。

 ローザの資料には詳細は書いてなかったが、魔力を流し入れられた人間は殆どが死亡したと記載されていた。一応生きていた人間もいたようだが、体の破損が見られ、長くは生きられなかったそうだ。それだけ、魔力というエネルギーは人体に毒であるということである。

「ど素人の私でも失敗することが目に見えてんのに、よくやったわね」

「あんまり考えてなかったですね」

考えてよ……。過去のカルデラには言えないので、今更言及しても仕方ないのだが。いくら魔力の解明のためとはいえ、魔術師を新たに作ろうという発想には、こう、ディウムとはまた違った狂気が伺える。必死だったとも言える。

 ディウムが人を物とするなら、カルデラは実験体か、やっぱり実験動物じゃない。私、案外人を理解する能力あるのね。

「私の研究で人を殺したのは数しれずです、ディウム程多くはありませんが、その中には、メリ、貴女も入るはずでした」

カルデラが、私の頬に触れる。その表情には、後悔と、罪悪感が入り交じっている。

「神の申し子は、魔法を凌駕する奇跡が起こせると言われています、その奇跡がなんなのかは正直なところわかりません。しかし、申し子の力を利用してマシーナの機械技術が発展したのは歴史が証明しています、私は貴女を縛り、その魔力を解明することで、その奇跡を理解しようとしました」

「治せなかった、カリナ様の傷跡を消すためにね? ミラフ様と仲直りするために」

カルデラは少し考え、頷く。多少違うが概ねあっているということだろう。二人は今後のアムレートを引っ張る存在だ。仲違いしたままではダメだとカルデラだって理解している。それを解消するためには、その原因を無くさねばならない、つまりカリナの傷跡を消す必要があると判断したはずだ。私はそもそも彼女の人間性に問題があると思うが、男二人にとってそれを理解することはできなかったのだろう。それだけ上手く猫を被っているということだが。

「必要なのは貴女の魔力だと、でも実際は違いますね、貴女の力は貴女なしでは成り立ちません、所詮魔力はエネルギーです、使用者がいなければ魔法にも術にもなりません、それに気付いたのは貴女が結界を壊した時です」

結界を壊したのは、クレイと会った日の夜だったか。

 夢で過去を再生し、クレイを振り払おうとしたら、鏡が割れる音がして飛び起きた。そして裂けた服を見て青ざめたのだ。

「あの時は本当に焦りましたよ、結界が壊れたのもそうですが、貴女に拒絶された事が何より恐怖を私に与えたのです」

「拒絶? 私なんかした?」

「来ないでと叫ぼうとしたでしょうに」

あー……確かに叫ぼうとしてた。カルデラが来たら殺してしまうと思って。

「貴女に拒絶されるということは、力がこちらに向くということです、本能的に怖がったんですよ、でも、それで気付いんたんです、感情で動いていると、しかし、それをディウムに説明する術を私は持ちえていなかった」

それに……と言葉を詰まらせる。私はただ黙る。そして抱きしめられた。

「あの満月の夜に言ったように貴女を失いたくはなかった。傍に、隣りにただいてほしかったんです。ディウムに言えば、すぐにでも貴女をあの機械に繋げたでしょう、申し子がそう簡単に死なないとはいえ、魔力を吸い取り続けば死にます。マシーナの申し子がそうであったように、だから私は、貴女を遠ざけたかった、あいつにだけは渡さないように」

研究所については破棄をしろと言った。それは、ディウムが私を獲物だと言っているからだと考えた、全て合っていたということだ。

「まさか、メリが全て調べてるなんて思っていませんでした」

「ガレイ様がリテア様を襲った理由、話してないからね」

ガレイが強硬手段を取らねければ知らなかったことだ。彼が全てを話してくれる人で良かったと思う。

 それでもこうして聞くまではわからないことばかりだった。あくまでも推測の域を出てなかったし。ディウムが私を狙ったのは軍事目的だと思ったら違ったし、カルデラが魔法道具研究所に出入りしていた確証はなかった。関わってはいるだろう、程度でしかなかった。三年かけても、この男を理解するまでには至らなかった。

「私に対して不安を抱いたんじゃないですか?」

「そうねぇ、不安を持ちたかったけど、持てなかったって方が正しいわ」

カルデラを理解できないこと、それは当たり前だった。私達が一緒に過ごした時間は短いからだ。疑問は沢山あった、なんで頼ってくれないのかと悲しくもなった、でも目の前の男を疑えなかったし、嫌えなかった。

「だから調べたの何もかも、調べて、私を危険から遠ざけたいんだって知って、なら飛び込んでやるって息巻いたのは私自身よ」

カルデラが、私を遠ざけるなら、私は近付く。だって、私は婚約者ですもの。カルデラのことを知りたいと思うのは当然で、他人事ではないのだ。

「何より協力者はあのリテア様よ! 心強いったらないわ!」

「……リテア嬢には勝てませんね」

カルデラは困ったように笑う。私も笑顔を向ける。

 きっとまだまだ、私はカルデラを理解できていない。隠していることは山ほどあるだろう、でも、それは人間であるという証だ。

「やっぱりあんたの婚約者って苦労するわね」

「辞めるのは許しませんからね?」

「あら、久しぶりに拒否権剥奪されてるわね」

「ないに決まってるじゃないですか、拒否権なんて」

告白してきた時はあるって言ってたくせに。それをいらないって言ったのは私だけど。

「カルデラが、私を遠ざけたらまた飛び込んでやるわよ」

「洒落になりませんね」

「洒落じゃないもの」

隠しているなら暴くまで。だって私は離れるつもりなんてないもの。

四章最終話です。

次回は後日談……ではなく、とあるエピソードを挟みます。

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