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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【四章 神の申し子】
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第六話 【因果の決着】

 メリが苦悶の表情をする。機械が止まったのを見て、ヴァニイがすかさず操作し、メリの拘束は解けたが、動けないようだ。無理もない、あの機械は魔力を吸い取るためのもの、全身が痛いだろう。

「僕はね、君の行動の理解はできないよ」

「だろうな、貴様にとって人は道具だからな」

ヴァニイがメリを助けたことについて言及はしない。ということはあっちは予測範囲内ということか。

 どちらも動かない。それは、互いの魔力が均衡しているのを理解しているからで、今ここで戦えば、決着がつくまで終わらないのをわかっているからだ。もし自分が、今、ディウムを殺す選択をすればメリは嫌な顔をするだろう。正直殺してしまいたいが、ここはメリのために抑えねばならない。

「決心は鈍らないか、君は申し子を何に使う気なんだい?」

「愚問だな、メリは道具じゃない、使うんじゃない、ただ傍に居てもらう」

自分の回答に、体を傾け大袈裟に傾げる。理解しようとすらしてないのだろうと推測する。こいつに何を言っても無駄だ。根本的な考えが違う。

「傍に居るだけじゃ意味はないよね?」

「あるさ、俺にはな」

ディウムは、固まったように黙る。実際フリーズしているのだろう。この男に人を愛するというのは、どういうことか説明できる自信はない。それこそ平行線だ。

 緊張状態が続く。流石のディウムでも、俺が引く気がないことを理解したようだ。

「仕方ないなぁ、君とやり合うのは嫌なんだけど」

ティガシオンは風魔法の家系だ。ディウムの周りには黄緑色の粉が舞う。それは術となり、風が吹く。自分は、一旦セヘルを見た。自分の感情がセヘルに伝わるなら、セヘルの感情は自分にも伝わってくる。少々緊張しているようだが、しっかりと頷いてくれた。

「頼んだぞ」

「はい、カルデラ様」

意識を魔術に集中させる。ディウムを捉え、目を瞑り、開けると、自分の周りには黒い粉が舞う。自分が基本扱うのは闇魔術だ。単純に得意だから、無意識に出ていると言ってもいい。

 しかし、今回はきちんとした理由がある。セヘルを見て、小さく頷く。見えてはいないだろうが、なんとなく感じてもらえているはずだ。そして、自分の闇魔法は術となる。それは広範囲を包み込む。すかさず、ディウムの風魔法が闇を払ったが、その隙に炎魔法を発動させた。

「チッ、無属性って厄介だよね!」

「そりゃどうも!」

ディウムを炎が包む、それはすぐに消され、瞬時に刃のような風が向かってくる。実際それは刃であり、防御のため結界を張るが、その結界は壊される。

 決着がつかないような戦いだが、しっかりとこちらが有利に働いている。自分はそのまま、ディウムに向けて闇魔法を放つ。特に形にしていないので、ディウムは簡単に弾けるはずだ。実際、魔術は弾かれ、周りに霧散した。

「カルデラ様、もう、大丈夫です」

「仕事が早いのは助かるな」

「……なるけど、狙いはそれか」

セヘルはメリを抱いている。そして、扉の外側へ出る。何も言わない彼女に不安を覚えつつ、改めてディウムを見た。

「無駄に広範囲だと思ったよ」

「お前は戦闘時周りが見えてないからな、利用させてもらった」

そしてもう一つ、準備していることがある。メリは助け出した、巻き込む心配はない。息を吸い込み、覇気を込める。

「アムレート魔術師団! 入れ!」

自分の合図で待機していた魔術師団員が部屋に入る。ディウムは多少驚いた顔を見せたが、この程度と思ったのだろう。強風が部屋に吹いたが、自分はしっかりと、ディウムを見ていた。

 先程から、少し気になっていたことがある。ぐっと手に力を込める。魔術はイメージ。前にメリが出した弓を思い出す。そして、自分の周りに黒い粉が舞うと、そのイメージは現れた。弓を手に収め、自然と出てきた矢を弓につける。殺さぬよう、ある程度威力を抑える。

「しばらく眠っててくれ」

そして、矢を放つ。その矢は風魔法など諸共せず、ディウムへ一直線に向かい、その体を貫く。イメージ通りに倒れたのを確認し、息を吐いた。

「お、おい? なんだそれ」

魔術師団員がディウムを押える。ヴァニイは、自分が出した弓を指さす。

「なんかできた」

「なんか……?」

青ざめているヴァニイは一旦放置し、放心状態であるメリのところへ行く。

 目の焦点は定まっているから大丈夫そうではあるが、床に下ろされセヘルの支えがないと、座ることもままなっていない。

「大丈夫ですか、メリ」

顔に手を当てる。そうすると、ゆっくりと目を合わせてきた。

「カルデラ……」

その声に力はなく、なんとも言えない罪悪感が押し寄せる。あの機械を作ったのは自分だ。目的がどうであれ、メリを怖がらせ、傷つけたのは言うまでもない。抱き寄せたいが、体に痛みがあるだろうから堪える。

 メリはしばらく何も喋らず、手をこちらに伸ばすと、裾を強く掴んだ。

「怖かった……」

その一言に全てが詰まっている。ここに来るまでに結構な時間を有している。ディウムとも対峙しただろう。ましてや魔力を吸い取られたのだ。

「メリ、ここで全て片付ける、少し待っていてくれ、セヘル、メリを頼めるか」

「はい、今しがた、旦那様達も、到着したようです」

セヘルは廊下に顔を向ける。そこからは、両親とマーベスが顔を出した。

「メリさん、大丈夫?」

「とりあえずはな、命に別状はない」

マーベスと顔を見合わせる。そして互いに頷いく。マーベスがディウムを見ると、瞬時に光魔法を発動させた、それは縛るためだ。

 ディウムを縛り終えたので、改めてヴァニイを見る。彼自身は何があったのか分からないという顔をしている。

「まぁ、色々聞きたいことはあるけどよ、とりあえずその弓を説明してくれや」

先程回答しなかった疑問を解消することにしたようだ。

「俺にも回答しにくいが、恐らくメリがリテア嬢に忠誠を誓った影響だろう、魔術の強化が入ってる」

メリがリテアに忠誠を誓ってからというもの、なんとなく体が軽い気はしていた。しかし、魔術を使う機会はなく、あまり気にしていなかったが、今日、魔術を使い確信を得た。確実に強化されている。

「オルガン家が強化されたってやつか」

「だろうな」

申し子の力の一端。それが魔術師の強化。どのくらいの範囲で強化出来るのかは定かではないが、少なくともクロム家は強化されているようだ。でなくばリスィ戦にてマーベスが一日に三回も転移魔法を使うことはできなかっただろう。

 ヴァニイは数度頷くと、自分の後ろを指さす。

「んじゃもう一個質問な、なんで王様がいんの?」

父の後ろには、こじんまりとミカニ王がいた。父が協力してもらうと言っていたのは、ミカニ王のことだったのだ。本人が来るとは自分も思ってなかったが。

「余は、ティガシオン当主と、話が、したい、だから、来た」

「リーダーとねぇ、まぁ、リーダーの処罰は王様任せだ、見守らせてもらうよ」

「気遣い、感謝、する、そなたの、決断は、辛かろう」

ヴァニイは答えなかった。こいつにとって、ディウムに刃向かうということは、人生の全てを否定すると同義だ。ミカニ王はそれを言っているのだろう。

「全く、僕が落ちてる間に話を進めないでよね」

「復帰早いな」

ディウムは不機嫌そうに起きる、少々手加減しすぎたか。ミカニ王は、彼の前に行く。二人は睨み合うでもなく、ただ互いを見る。

 数分黙っていたが、先に話をもちかけたのはディウムだった。

「なんの用かな、僕と君で話すことはないと思うけど」

「話すことは、悪い事、ない、理解する、必要、同じ病、かかえる身、余は、理解、したい」

ディウムはこちらからでも分かるくらいの嫌な顔をする。

「何、同情しようってのかい?」

「うむ、その、通り」

その言葉は、この男にとって一番聞きたくないものだろう。リトルナイトメアにより理解されず、故に全てを破壊せんとしたこいつにとって、同情など今更だ。ましてや、自分を負かしたミカニ王からなど、受けたくないものである。

「はは、強者の余裕ってやつだね、僕も舐められたものだよ、実際カルデラにだって勝てないんだから、そうなんだろうけどさ」

「余達、力は、出し切れない、ティガシオンなら、尚更」

「神の呪いってやつねー、迷惑な話だよ」

ティガシオンは、申し子が愛した家系であり、憎んだ家系だ。その歪な感情が、病には流暢に現れているのかもしれない。

「そなたの、処罰、余は、与えない、与える、必要、ない」

「……だろうね」

ディウムは目を伏せた。

 そして、二人はこれ以上の会話はしなかった。それは、ディウムがもう長くないのをわかっていてのことだ。個人差はあるもののリトルナイトメアの患者が生きられるのは、三十前後。ミカニ王は、魔法で無理矢理耐えているが、ディウムはそれをやる気はない。そして何より、残りの人生を全うさせること、それが一番の処罰であることを理解していてのことだろう。

「オルガンの、者よ、最後まで、傍に、いてやれ」

「あぁ、それが俺の勤めだからな」

「クロムの、長男、そなたは、そなたで、すべきことを、せよ、後は、父に、任せれば、よい」

「わかりました」

父を見ると、魔術師団に何やら号令を出していた。それを確認し、メリの元へ行く。彼女はまだ動けそうにはなかった。

「少し痛むかもしれませんが、我慢してくださいね」

メリを抱き上げ、部屋に背を向ける。

 部屋から去る時、自分は振り返らなかったし、ディウムが話しかけてくることもなかった。自分達が、会うのはこれが最後だと理解しておきながら、話すことはしなかった。する必要はなかった、それは決別であり、決着だ。

二人の決着が付きました。

そして、ディウムの方は何やら不穏な予感が漂っていますね……

次話は、カルデラとメリの会話です。

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