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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【四章 神の申し子】
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第五話 【小さい悪夢】

 停止し、向かい合う。ヴァニイ・オルガン。ディウムと深い関わりがあり、彼のことをリーダーと呼んでいたのだから、この研究所にいてもおかしくない存在である。ヴァニイは私に近付くと、その横を通り過ぎ、機械に設置されている板に手を置く。

「何をしようとしてるの?」

「嬢ちゃんはさ、リトルナイトメアって病知ってるか?」

「リトルナイトメア?」

聞き覚えがない。病については学園でも習ったが、出てこなかった。

「直訳すると小さい悪夢、神の呪いとも言われてる、ここマシーナ特有の病だよ」

ヴァニイが何か板についた無数のボタンを押す。そうすると、ボタンの前にある板が光り出す。そこには、数字や文字が映し出されている。

「あちゃー、カルデラの奴、厳重なセキュリティ入れやがってんな、全くあいつのプログラムとか俺理解できねぇよ」

「ヴァニイ様……?」

「仕方ない、プログラムが解けるまで、ちょいと話に付き合ってくれや」

ヴァニイは、板と睨めっこしつつ、リトルナイトメアについて説明してくれた。

 リトルナイトメア、それはマシーナでしか見つかっていない病。それが現れたのは、申し子が亡くなってすぐだった。一番最初は王の家系である、ティガシオン。魔力がそれなりに高い者が生まれたと思ったら、その体は小さいまま、成長しなかった。病というのは、一人見つかれば二人、三人と出てくるもので、マシーナの王族に多く見られた。小さいだけなら特に問題ないが、特質すべきなのは、長く生きられないことと、その見た目。

「リトルナイトメアにかかってる人間は、皆白いらしい、髪は白寄りのクリーム色、瞳は金だ、これはな、マシーナの申し子と同じ見た目なんだよ」

申し子を閉じ込め、酷い扱いをしたからこんなことになったんだと言われ、神が怒ったのだと囁かれた。この子供が生まれた家庭は疎まれた。いくら魔力が強くても、長く生きられないならばと、その子供を捨てる家庭だってあった。流石にティガシオンはそんなことはしなかったが、腫れ物扱いではあった。

 この病の難儀なことは、治すことが不可能であるということ。魔力がなんらかの影響を与えていることは予想できたが、その影響を消す方法はわからず、せっかくの強い魔力を生かしきれない。体が子供である以上、魔力を無理に引き出そうとすれば、体が持たず最悪死に至る。つまり、強くても半分の力程度しか出せないのだ。

「そんな状態で政権をひっくり返したミカニ王はすげぇやつよ、あの人はな、自分の最大限の力を出した、それが半分だったかはわからねぇ、それでも、ティガシオンに、次期王だったディウムに勝ったんだ」

真剣な顔をしてヴァニイは語った。

 ミカニ王は自分の姿を個性だと言っていた。それは病に対する前向きな態度だったわけだ。

「魔力は感情に左右されます、ミカニ王は精神でディウムに勝ったんでしょう」

「嬢ちゃんが言うと信憑性あんな」

笑いつつ、ヴァニイは、板から目線を離し、はぁーと息を吐く。

「あー、ほんっとにわけわからん、天才の頭の中ってどうなってんだ?」

「で、先程から何をしてらっしゃるので?」

「ん? あぁ、嬢ちゃんをこっから出してやろうと思ってな」

はい? 私を出す? そんな事したらディウム怒るのでは……。怒らせたらヴァニイは殺されるのでは。

「そんな顔しないでくれや、オルガン家はな、ティガシオンに仕えてきた、俺はな元からリーダーに仕えるように教育されてる、だからこれが意味することもわかってやってる」

再び板に目線を戻す。

 私は、彼がやりたい事がわからなかった。彼は何を考え、私を助け出そうとしているのか。

「オルガンはよ、申し子を産んだ家系でもある、俺は正直信じてなかったよ、申し子なんて存在、ただ、嬢ちゃんを見て居るんだなって思った、そうしたらさ、なんでかな、嬢ちゃんを物として扱うのに嫌悪感を覚えたんだ」

自傷気味に笑う。その表情は寂しそうだった。何かを羨むようだった。

「もう少し話をするか」

ディウムとカルデラの違い、それは人に対する態度だった。

 二人は似ている。人に対して興味は無いし、自分の目的の為ならば犠牲を厭わない。しかし、カルデラは人を人として見ていた。興味は示さないが、故にただ放置している。人の人生に関わらないだけだ。しかし、ディウムにとって人は道具である。使えない道具だから興味がなく、ならば壊してしまえってのがディウムだ。似ているが、根本的なズレがある。俺は、ディウムに尽くすよう教育がされているので、違和感がなかったが、カルデラの存在が、ディウムに違和感を持たせた。神がかった天才だと思っていた、それが崩れたのだ。いや、間違いなく天才ではあるが、その過程が効率の悪いものだった。ディウムにとって、研究は遊びであって、カルデラにとって研究は、自分を高めるためのものだった。

 そんな時に現れたのが、神の申し子、メリの存在。カルデラは最初ディウムに、魔法が使えるか使えないかわからない、魔力の強い女性を見つけたと報告した。ディウムはすぐに申し子ではないかと問いかけたが、確証がないと、魔法を凌駕する奇跡というのがわからないと回答した。それからすぐだ、カルデラからの連絡が途絶えた。その結果、俺が会いに行くことになった。

「あの時は驚いたもんだよ」

カルデラが女性の手を握っていたのも、ましてや俺に対して牽制をしてきたのも、想定外だった。ただ、その行動には納得があった。カルデラは人を人として扱っている。誰かを愛することができる。それがメリだったのだと。しかし、そのメリは申し子で、ディウムが探している存在である。あいつが考えうる中で、最上級の道具である。

 そこまで考えて、俺はあることに気付いた。申し子を道具として扱うことへの嫌悪感。幸せそうな二人を見ていて、更にそれを強く感じた。

「きっと、申し子を産んだ家系だからなんだろうな」

マシーナの申し子は、最終的に道具として扱われた。愛する王が与えた研究所を動かすための道具と。それがどれだけ悲しかったことだろうか、どれだけ悔しかっただろうか。オルガン家はその時反抗したらしいが、元々王であるティガシオンに仕えていた、そのため強くは出られなかった。オルガン家もまた、悔しかったはずなのである。

「だからさ、二人には幸せになって欲しいわけよ、二人が紡いでいく未来に期待したいわけだ」

リトルナイトメアを患っているディウムはそう長くは生きていられない。ミカニ王は長く生きている方だ、本来は三十年が限度なのである。つまり、ディウムに残された時間はもうないに等しい。

 俺はそれでいいと思う。これからの未来に、ディウムは、ティガシオンは必要ないのだろう。技術は発展して、人体実験だってしなくてよくなった。ならば、ティガシオンはお役御免である。

「そしてオルガン家もな」

「治ることのない病……それで時間が無いとディウムは言ってたんですね」

ヴァニイはゆっくり頷いた。

 私は考える。必要ない人間がいるのか、治らない病など本当に存在するのか。リトルナイトメア、それは魔力が悪さをしている。ディウムは魔力を嫌っている、憎んでいると言ってもいい。それは、自身の生い立ちにあるのだろう。自分が望んでその病を患っているわけではない、けれど病というだけで苦労したはずである。それなのに、同じ病であるミカニ王は、王として君臨し、民から愛されている。その対比は、ディウムには辛かったのではなかろうか。

「なぁ嬢ちゃん」

「はい」

「全てを救おうとすりゃ、きっと嬢ちゃんなら可能だぜ、だがな、全てを救おうなんざ考えんな」

「え?」

「嬢ちゃんが一人を救ったらな、数万人が死ぬ、今回はそういう話なんだよ、ディウムは変わらん、あいつがこれからも生きてりゃ死人がいくら出ても足りねぇよ」

その表情は見えなかった。声からも感情はわからなかった。自身の主であるディウムへの反抗、そして、死んだ方がいいと言った彼の決意は並々ならぬものなのだろう。それを私が崩すことは、ダメな気がした。ヴァニイ・オルガンという一人の男への侮辱な気がした。

 ヴァニイは喋りながら、ずっと板を叩いている。叩いてはいないか、ボタンを押している、先程からずっと。私には何をしているのか全く分からない。

「うん、わからん!」

ヴァニイもわかっていない。一体何をやっていたんだこの男は。

「こいつはな、モニターつって、嬢ちゃんが繋がれてる機械を操作するためのものなんだよ、ただな、メニュー画面開くためのパスワードがわからん」

「なんかよくわからないですけど、最初で無理なのは理解しました」

「はは、それだけわかれば十分、ハッキングも試みてるが、流石カルデラだぜ、全てにおいて完璧にガードしてやがる」

それを使っているディウムはそのガードを掻い潜ったのか、パスワードとやらを知っていたのか。どちらにしろ天才って凄いな。

「どうすっかな」

「どうもしなくていいよ、ヴァニイ」

その場が凍りつく。

 にこやかに笑うディウムに、真顔のヴァニイ。私はただ戻ってくるのが早かったなと思う。

「あ、説明はしなくていいよ、理解してるから、でも丁度いいか」

「丁度いい? リーダー何する気だ?」

「何って、決まってるだろ?」

ディウムは、先程までヴァニイが触っていた板を慣れた動作で操る。すると数秒も経たずに体に痛みが走った。

「いたっ……」

「おい! 嬢ちゃんに何をした!」

「機械を動かしただけだよ、しっかしオルガン家ってのは難儀なものだねー、流石に申し子相手じゃ、教育の方が負けちゃうか」

二人がなにやら揉めているが、私はそれどころではなかった。

 機械を通じ、全身に激痛が走る。叫ばないようにするのがやっとで、周りなんか気にしている余裕はない。これが魔力を吸い取るということ、マシーナの申し子も、こういう体験をしていたのだろうか。死ぬまでずっと、魔力を取られ、この研究所を動かしていたのだろうか。だとすれば、それはどれだけの屈辱だったろう。愛した者が死に、その後継に罵られ、二度と外を見ることがなかった。リトルナイトメアは神の呪い、一番最初に出た家系はティガシオン。その理由がわかる気がした。

「チッ、これどうやったら止まるんだよ!」

「ヴァニイ! コード四八五七を入れろ! そしたら停止する!」

「あ? 了解した!」

私には状況は理解できなかった、しかし機械は止まり、辺りは静まり返る。私はまだ残る痛みに耐える。身体中がピリピリしており、荒い息を整えるのがやっとだ。

「カルデラ、案外早かったね」

「すぐに知らせてもらったんでな」

薄く目を開けると、扉にはカルデラと、もう一人、セヘルがいた。カルデラと一緒にいるということは、リテア様を城へ送ったのだろう。それに安堵する。リテア様無事だった。

「メリは返してもらう」

「へぇー、本当に僕と戦うつもりなんだ? 全く君らしくもない」

「なんと言われても構わんさ」

二人は向かい合う。私はただそれを眺めるしかなかった。

ミカニ王とディウムの見た目が似ているのは病のせいってわけです。

さて、ディウム、カルデラ、ついに対峙!

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