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三章【プロローグ】
魔術師が扱う奇跡。それは人を助けてきた。しかし、人を傷つけてきた。
記憶とは、その者が生きた証である。
記憶とは、その者がその者である証である。
記憶とは、その者が愛してきた証である
証を消された者は、証を取り戻すことが出来るのか。
消すのも戻すのも魔術師である。魔術師は人を傷つけ、そして助ける者の名称なのだから。
暗い暗い場所。何もわからない、何も知らない、でも不思議とその時は恐怖はなくて、ただその場に座っていた。
どのくらい経っただろうか、時間の感覚もない中、覚えのある温かさに、手を取られ、僕は身体を震わせた。
見えないことより、知らないことより、怖いことがある。怖い場所がある。恐怖は足を竦ませ、僕をしばりつける。
誰か、助けてくれないだろうか、そんな希望も潰えそうな時、最後に見た、あの温かさを僕は見た気がした。




