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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【二章 王族達の輪舞曲】
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第十話 【マシーナの舞踏会】

 マシーナ国の機械仕掛けの城、白夜城。そこでの舞踏会は、私に更なる衝撃を与えた。まず音楽、アムレートではピアノが使われていたが、ここではスピーカーから音楽が流れていた。カルデラの説明では、録音機とやらでピアノで弾かれた音を録音し、スピーカーから流しているらしい。実際に聞くよりも音は劣るが、広間全体に流すと考えると画期的かもしれない。耳が痛くなるが。

 次に料理、いや、料理は普通なのだが、皿が置いてある場所に、妙な箱が置いてあり、使い終わった皿を入れてくださいと書いてある。

「あぁ、食洗機ですね」

「しょくせんき……」

「自動で食器を洗う機械です、全ての食器が洗えるわけではありませんが」

本当に分からない。床にもコードと呼ばれる線が無数にあったりする、引っかからないようにガードされており、安全ではあるが機械を動かすって大変なんだな。

「機械は大抵電気で動きますからね」

この舞踏会だけで、どれだけの電気が使われているのだろうか。考えただけで目眩がしそうである。

 マシーナの技術力に驚いていると、後ろから抱きつかれて叫びそうになるのを抑えた。

「メリ!」

「リテア様……驚きますので、いきなり抱きつかないでください」

抱きついてきたのはリテア様。彼女はいつも通り、濃い桃色の髪をツインテールにして、青いドレスを着ている。無邪気な性格に合わせてか、フリルが多い。少し動きにくそうだが、本人は気にした様子はない。

「メリ様! 可愛らしいお姿で!」

「く、クリア、貴女も招待されていたのね」

「はい、あの場にいましたので」

リテア様が離れてすぐ、クリアに手を取られた。その目は物凄く輝いている。私のこと、人形とでも思ってるんじゃないかしら。

「クリアじゃないか!」

「マーベス様、はい、せっかく招待を受けたので来ました、私は何もやっておりませんけど」

マーベスが嬉しそうに笑う。私はまずリテア様と顔を見合わせ、マリア様と見合わせた。そして、マーベスの背中をグイッと押す。

「メリさん?」

「行ってらっしゃいマーベス、クリア、マーベスのことよろしくね」

「え、あ、はい?」

クリアにマーベスを押し付けると、マリア様は、満足そうだ。頑張れマーベス。

 二人を見送るとリテア様が私の肩を叩く、リテア様の方が少し背が低いのでちょっとしゃがむと、ヒソヒソ声で話される。

「先程、使用人に確認させたら、ティガシオン家は来てないって」

「来てないんですか?」

「えぇ、招待者リストにはいなかったようよ」

でもそうか、王とティガシオンは敵対関係だ。ガレイに圧力をかけられる程とはいえ、いつ背中を刺されるかわからない相手を、招待するわけがない。

「だから、心配せず、あんたも楽しみなさいよ」

リテア様はウィンクすると、じゃね! と使用人と思われる人の所へ行く、まぁ、使用人がいるなら大丈夫かな。

「メリは、対人関係得意なんですね」

一連の流れをただ眺めていたカルデラは、去るリテア様を見つつ、感心したように言う。

「あのね、カルデラが興味無さすぎるだけよ」

あと、喧嘩し過ぎ。敵を作りやすい性格をしているのかも。

 マーベスもクリアもリテア様も去ったので、私達は、お酒を飲みつつ、ダンスをする人々を眺める。

「二人はダンスしないのかい?」

「ダンス……ですか?」

ソフィア様が疑問とばかりに言ってくる。そしてカルデラに目配せする。マリア様は頷く。

「では、一曲ご一緒していただけますか?」

「は、はい」

この状況で断るわけにもいかず、カルデラの手を取った。そして、綺麗な動作で、ダンスをしている人の群れに入る。

 学園でも、学園に入る前のリチャード先生からもダンスは教えられていたが、実践は初めてだ。少々……どころか物凄く緊張する。

「緊張しなくて大丈夫ですよ、私についてきてください」

「カルデラはダンスしたことあるの?」

「私に相手がいたとでも?」

あ、これ、したことないやつじゃない。本当に対人関係に関してはダメダメね、せっかくかっこいいのに勿体ない。でも、私が初めてなのは少し嬉しいかも。

 カルデラと手を繋ぐ。一呼吸置き、動き出す。最初こそガチガチであったが、慣れてくると柔らかく踊れるようになる。

「心配しなくても大丈夫でしたね」

「カルデラが上手いからじゃない?」

踊ったことがないと言っていたが、カルデラは最初から、綺麗に踊っている。むしろ模範的だ。私はついていくだけで必死ではあるが、カルデラが上手くエスコートしてくれている。紳士なのよね、これで婚約者がいた事がないって、女泣かせにも程があるわ。

 ティアラが絶対コレです! と言って着せてきた、カルデラに合わせたドレスは、踊るとひらりひらりと舞う。その姿は確かに優雅に見えるのかもしれない。スパンコールが煌めき、年甲斐もなく、カルデラと二人だけの世界のように感じる。まるで、小さな乙女の夢だなと心の中で自嘲したが、悪くはない感覚だ。

「踊るのも悪くないですね」

「え?」

「相手がメリですから、なんだか二人だけの世界に迷い込んだみたいです」

カルデラは優しく笑う。私はその目を直視出来ず、そうね、とだけ返し、繋いでいた手に力を込める。どうしよう、この時間が永遠に続けばいいのにって思ってしまう。時間が止まるとか、そんな事ありえはしないのに。

 数曲踊ると、私達は机に戻る。名残惜しくはあるが、体力が持たない。机では二人がパチパチと拍手していた。

「カルデラー、ちゃんとできるじゃないか」

「凄かったわよー、周りの人達二人に釘付けだったんだから」

「そうですか、メリ以外に、興味がないのでどうでもいいですが」

「サラッと恥ずかしいこと言わないでくれない?」

この男は……。マーベスは、こうならないといいけど、こうなったら、クリアが苦労する。大丈夫……とも言いきれないのが怖い。ソフィア様はここまで酷くなさそうではあるが、一緒にいる時間は長そうだ。夫婦仲が良いのはいいことだけれど。

 窓から外を眺める。この広間は城の一階にあり、窓は中庭が見えるよう大きめに作られている。そこは暗黒の暗闇ではあったが、綺麗な三日月が浮かび上がる。

「今年も残り少ないわね」

来年は大等部二年か。何もトラブルなく過ごせるとは思えない。そもそも解決していない問題がまだある。

「メリ、大丈夫ですよ」

カルデラに抱き寄せられる。人がいるんだけど! と抵抗したが、離れるのは無理なので、諦めた。

「私は貴女を離しはしませんから」

「わかってるわよ、信用してるもの」

リテア様には、魔術師団副団長になれと言われたわけだし、私だって何があっても離れるつもりはない。カルデラの隠し事が、想像を絶するものだとしても、今ある愛は確かだから。


 中庭の暗がりにて、優雅に紅茶を飲む。と言っても飲んでるのは俺ではなく、目の前にいるディウムだが。

「……リーダー?」

何も喋らないディウムの顔色を伺いつつ、広間へと視線を移す。広間では現在ミカニ王主催の舞踏会が開かれている。急な舞踏会とは驚いたが、招待客名簿を見て納得した。これは、アムレートの者達のために開かれたのだ。

「どいつもこいつも、忠告を聞かないもんだよね」

不機嫌さを隠そうとしないディウムに苦笑する。睨むように向けられた、彼の視線の先には、カルデラがいた。メリと共に優雅に踊っている。その表情は見えないが、俺にはわかる気がした。

「何考えてんだろ、渡す気がないってことは理解したけど、じゃあ何に使うってのさ、ねぇ、ヴァニイ」

「さぁ、俺にも分からねぇよ」

ガレイの暴走から、アムレート魔術師団の動き。その全てを知らないディウムではない。魔術師団が動いたということは、敵対の意志を示したということだ。カルデラのやつ、本当にディウムを相手にする気なのか。

 何に使うのか……その答えは、俺はわかる。使うのではない、使わないのだ、何にも。ただ、メリという一人の女性を傍に置いておきたい、それだけなのだ。そこに関しては、二人の意見の違いと言える。

 ディウムにとって、メリは物だ。自分の目的を達成するための道具でしかない。しかし、カルデラにとっては、人なのである。大切な、ただ一人の愛すべき者なのだ。その違いをディウムはわからず、カルデラはわかっているのだろう。

「で、実際見た感じどうよ?」

「どうって?」

「探してんのは彼女なのか?」

なんでか、違うと言ってほしい自分がいた。カルデラも、メリも、あのままにしておきたい。二人の行く末をただ、見守ってみたい。

 しかし、そんな願いは虚しく、ディウムは、狂気を孕んだ笑顔をする。

「それに関しては間違いない、彼女は間違いなく、僕が探し求めた存在、神の申し子だ! 僕の彼岸を叶えてくれる存在だよ!」

先程までの不機嫌な顔はそこにはない。紅茶を置き、身振り手振りで語り出す。聞いた俺が馬鹿だったよ。

「でも、まだだ、まだ彼女は完全じゃない! 見て理解したよ、もう少しカルデラに預けておく必要があるね、完全になったら迎えに行くさ! その時が今から楽しみだよ!」

「んじゃ、その間、俺はそのまま監視しときゃいいんだな?」

ディウムは子供のような目をして頷く。俺はもう一度広間に視線を向ける。ディウムは、まだ何か語っており、広間なんかには興味なしである。

 まぁ、興味がなくて良かったよと俺は思う。カルデラは、メリを抱き寄せ、何やら二人は会話している。その雰囲気はお互い幸せそうだ。

「お前が、人に寄り添うとはな」

正直羨ましいが、それよりも、納得があった。カルデラは最初から俺達とは違う。クロム家、アムレートという国を背負う立場であり、引っ張る立場にいる男だ。そんな奴が俺達の中にいたのが、まず間違いであって、今の状態が正常なのだ。

「ちゃんと手を握ってろよ、カルデラ」

ディウムを見る。そしてまたカルデラを見る。二人の行く末を見守ることに俺は決めたのだった。

明日から二章後日談となります。

二章は全体的に問題提起の章となりました。

三章では、その中から一つを取り出し、メリ達が解決していきます。

本日も楽しんでいただけましたら幸いです。

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