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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【二章 王族達の輪舞曲】
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第六話【ティガシオンの動き】

 眩しいくらいの白い廊下を進む。ここ、マシーナ城内部には、機械仕掛けの時計や、夜になったらライトアップされる噴水など、技術の粋が集められている。

 そして隣には、むくれている男がいる。クリーム色の短い髪はふわふわとしており、金色の瞳は、不機嫌さを隠そうともしない。背は低くく、白いモーニングコートに至っては似合っているが、着られている感が否めない。まるで幼子のようなこいつが、三十歳だと知ったら皆驚くのだろうな。

「全く、カルデラにしても、ガレイにしても何考えてんだか、僕の獲物を見つけたなら報告してよね」

「まだ、確定してねぇよリーダー」

ディウム・ティガシオン。ティガシオン家ご当主様が、この小さいのである。

 ただし、見た目に騙されれば、死ぬのを俺は知っている。こいつの残虐性は群を抜いて高い。そして、執着も異常だ。

「で、ヴァニイ、君はとりあえずカルデラを見張っててよ、僕横取りは許さないからね」

「わかってるよ、でも彼女が本当にリーダーが探してる奴なのか?」

少し前を歩いていたディウムは、くるっとこちらを見た。服の裾が円を描くように舞う。その様は、どこぞの教祖様のようである。

「間違いないはずだよ、やっと現れたんだ! 前回の出現から千年、現れていい頃だった! けれどその尻尾すら僕は掴めなかった、それを掴んでみせたのはカルデラには他ならない! けど」

恍惚と語っていたが、その顔に影が落ちる。こうなると話を聞くしかないので、俺は黙る。

「カルデラのやつ、渡す気ないなんてどうしたんだろうね? 彼女がいれば僕の彼岸は達成される、その為の犠牲ならなんでも払ったよ、カルデラだってそれは知ってる、だって彼は僕と同じだから、だから、何を考えてるのかさっぱりわからない」

大袈裟な身振り手振りで、感情を表現する。そこには、本当に理解できないと書いてある。

 ディウムは、自分とカルデラが一緒だと思っている。志しがあり、彼岸のためなら犠牲を厭わず、他者に対する興味はない。この共通点から、彼を気に入っているが、俺は真逆に感じていた。ディウムからは、神々しさを感じ取ることがある。だから俺は一緒にいるわけだが、カルデラからそれを感じたことはない。むしろもっと暗く淀んだ感じだ、まるで天使と悪魔である。カルデラは、どこまでも人であった、人であろうとしていた。だからこそ、メリを離す気はないのだ、彼女は、カルデラが人間である証明であり、人間であるために必要だから。

 反してディウムは、既に人であることを捨てている。本来なら地下入りしてもおかしくないこいつが、こうして地上にいるのは、こいつがいないと、魔法道具研究所が成り立たないからだ。

「まぁいいさ、今はガレイの方だ、彼女はしばらくカルデラに預けておくよ、少なくとも傷はつけないだろうし……カルデラに殺せはしないからね、あぁ、楽しみだなぁ、いつ会いに行こうかな! その頃にはきっと僕が望んでいる力を手に入れているはずさ!」

息を飲む。本当にカルデラは、この男を相手にするつもりなのだろうか、メリには悪いが、素直に渡した方がいいだろう。いくら無属性の魔術師であるカルデラであろうと、分が悪い。

 城の廊下を歩きつつ、ディウムはまだブツブツと言っている、その言葉から、監禁だの、拉致だの、嫌な言葉が聞こえてきたが、むしろ通常運転なので気にしないでおくことにした。


 書類の山を見つつ、仕事を精査する。集中していると、肩を叩かれ、後ろを振り返ったら父が何やら封筒を持ちこちらを見ていた。

「カルデラー、君に珍しいものが届いたよ」

「珍しいもの?」

見ていた書類を置き、その封筒を受け取ると、それは手紙のようだった。白い封書に差出人の名前はないが、金色のろうどめには、見覚えのある紋章が付いている。十字架を囲むように巻かれたウロボロスの模様……。

「ティガシオンの紋章だね、カルデラ、何やったんだい?」

あのイカレ野郎……。こっちが連絡しなければ、こちらから行きますってか、あの男ならやりかねない。

「あそことの仲違いは辞めてくれよ? ミラフくんより面倒だから」

「多分もう遅いですよ」

「えー、ディウムくん怖いよ? カルデラ友人と仲違いするの好きなのかい」

ケタケタと父は軽く笑う。ディウム相手に余裕だなと思うが、実際父なら余裕なのだろう。魔術師団団長は伊達ではない。しかし、マシーナと喧嘩するのは面倒なので、辞めてほしいということである。

 ため息を吐きつつ、封を切ると、久しぶりの汚い字が目に入る。頭が無駄にいい人間ってのは、字が汚いものである。

「相変わらず全く読めないね、彼の字、解読に時間がかかりそうだ」

「ですね」

父は、自分とディウムはただの友人だと思っている。こうして度々手紙が来ていたのだが、それは大等部時代の話であって、ここ最近はなかった。だからこそ、珍しいと言ったし、何かあったことを察したのだろう。ただし深くは聞いてこない。

「ま、なんかあったら言ってくれ、くれぐれもメリちゃんは泣かさないように」

「はい……」

敵わない人ってのはいるもので、両親、特に父にはこういう時反論はおろか、隠すことすら無謀である。メリ関連だと見透かされている。

 書類作業を一旦中断し、手紙の解読をする。ある程度解読した時点でそれを投げた。

「予想通りってとこか」

内容は、メリの報告をすれというのと、ガレイには処罰しておくと書いてあった。動きはあった……という判断でいいだろう。

 ただし、これは嬉しくない報告でもある。ディウムがメリを認識している。いや、教えてはあるので認識はしているのだろうが、メリがディウムの探している人物の確証はなく濁して言っていた。その確証を得たのは壁を見た時だ。物質も魔法も通さない壁、そんなもの普通の人間であれば、出すことは不可能だ。しかし、その事は報告していしないし、ヴァニイにも言っていない。

 首から下げているネックレスを握る。これにはメリの魔力が使われている。自分のために込めてくれたものだ。魔力が応えたということは、それだけ強い感情を自分に向けてくれている証である。それがどれだけ嬉しかったことか。

「すまないが、こればっかりは譲れんよ、ディウム」

あいつがなんと言おうと、どう行動しようと、渡しはしない。手を出す気であるならば容赦もしない。目的のためなら手段は厭わない、それは今も昔も変わらないのだ。


 昼休み、いつものように一般部に行ったが、リテア様の姿はない。中庭かなと思い、中庭に行っても見つからない。

「リテア様どこ行ったんだろ」

そういえば、今日はガレイからも話しかけられていない。なんだかこの平和な時間が怖い。

 絡まれないのはいいことだ、ガレイに至っては距離を取りたいのだから、悪くない。しかしなんだこの胸騒ぎは、私は改めて校舎中を歩き回る。リテア様は魔術師ではないから、魔力では判断できないが、ガレイの場所ならあるいは……。

「はぁ……はぁ……」

幾分か体力が増えたとはいえ、まだ長く歩いたり、走ったりすると疲れが出てくる。私は一旦休憩すると、時計を見た。十分経っている。もう一度一般部の教室を覗いてみたが、やはりリテア様はいない。昼休みが終わるまで二十分あるし、いなくても、問題はないが……。

 リテア様には護衛が付いていない。魔術学園には、アムレートの王に仕える者が多く通っているため、彼らが護衛の代わりを担っている。しかし、その彼らも学生だ。完全な護衛はできていないし、初心者である私の目から見ても適当なのである。一国の姫が出歩くというのに、なんとも悠長なものだ。少々怒りと苛立ちを覚えつつ、中庭に再度行くと焦った顔をしたマーベスとクリアがいた。

「メリさん!」

「マーベス? それにクリアまでどうしたの?」

私は二人に駆け寄ると、クリアが咳き込みながら、私の腕を掴む。

「リテア様が……」

「リテア様? リテア様がどうしたの?」

私も焦りで責めるように言ってしまいハッとする、これは八つ当たりだ、落ち着け私。

「リテアさんがね、ガレイさんに連れていかれたって、噂になってるんだよ」

「ガレイ様に?」

マーベスが頷く。リテア様が連れていかれた? なんで、目的はなんだというの。

 とにかく全員落ち着かなければ。三人で深呼吸し、一番気になる質問をする。

「連れていかれたってどこに?」

「わかんない、でも、一般部の空き部屋に、リテア様が逃げるのを見たって子がいたよ、僕も探しに行ったんだけど……」

マーベスは暗い顔をする。きっと学園長に掛け合って大等部への侵入許可をもらったのだろう。それで、探した結果私の所へ来たということは。

「見つからなかったのね?」

「うん、ただね、魔力が使われている部屋があったんだ」

「魔力が使われている部屋?」

マーベスが頷く。私はリテア様の教室しか見ていないから気付かなかったのか。

「私達ではそれを突破できなくて、強い結界なんです、きっとガレイ様なのですけど」

「メリさん、突破できないかな?」

私は少し悩む。まだ完全にコントロールはできていない。それで結界が突破できるのか? もし無理だったらどうしよう。

 私は目を伏せた。リテア様は姫だが魔術師ではない。魔術師であるガレイには勝てない。何のために連れていったのかは、わからないが、逃げていたということは、怖がっているに違いない。あんなに、良い子で、恋敵のはずの私とも仲良くしてくれる、リテア様が傷つくなんて嫌だ。

「……マーベス、クリア、案内して」

「わかった、行こう」

「はい! 行きましょうメリ様!」

マーベスが壊せない結界というのが気がかりだが、考えてる暇なんてない。

 大等部、一年一般部の一番奥の部屋。そこには確かに魔力が感じられる。

「この中にリテア様が……?」

私は扉に触れる。お願い、私の魔力は強いんでしょ? こんな時に役立たなくてどうすんのよ。

「私が助けなくて、誰が助けるってのよ!」

手に力を込める。すると扉は金色の光に包まれる。その光が消えたのを合図に、私は勢いよく扉を開けた。

「リテア様!」

すぐに、リテア様を見つける。その体にはガレイが抜いていた剣が突きつけられていた。

「メリ……?」

私は、二人の間に立つ。

「ガレイ様、どのようなおつもりですか、アムレートに喧嘩を売るというのですか?」

ガレイを睨む。しかし、ガレイは私をただ見ると、眉をひそめた。

「なぁ、君は何者なんだ? メリ嬢」

その顔は焦りが滲んでいた。

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