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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【二章 王族達の輪舞曲】
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第五話 【姫様のお使い】

 次の日。私は学園中からの敵意やら、怯えやらを感じる。その中でも、一際敵を向けていたのが、リテア様……ではなく、黒く長い艶のある髪をお姫様カットにした、濃いオレンジ色の瞳の、優雅に紅茶を飲む女性。魔術師だというのはすぐにわかったが、同じ教室ではないな。隣には使用人なのか、友人なのか、彼女に紅茶を渡す子がいる。女の子かな? と思ったが、その声は男性だった。

「お嬢様……今日は……エルミニル紅茶館のものです」

「ありがとう」

お嬢様と呼ぶということは、使用人なのか。男性は、薄い灰青の髪で、首上までの長さ。伏せられた目は幼さがあるものの、少しだけ見える、銀色の瞳は綺麗だが、どこか怯えているように思えた。二人とも大等部の制服を着ているし、何よりここは大等部の校舎なので、大等部の学生である。

 男性の方に不思議な風格を感じ、少し気にはなるが、敵意を向けられている以上、話しかけるのはまずいな。

 私は二人から目線を逸らす。そして、教室のドアを開けると、ガタッとガレイが立ち上がった。あぁ、うん、私、他者を気にしてる場合じゃなかったわ。

「おはよう、メリ嬢」

「おはようございます、ガレイ様」

うわぁ、声が低いですよガレイ様。私はそれはもう満面の笑みを向ける。話しかけんなって気持ちを込めて。私は貴方の期待に添える女性ではありませんよ。

「昨日の方、カルデラ卿と言いましたね」

「はいそうです」

「……アムレート王国魔術師団時期団長の方ですよね?」

そうですが何か。私は頷くだけの返しをする。その反応が気に食わなかったのか、こちらを睨むように見る。

 しばしの沈黙。そしてガレイは口を開く。

「確かに地位はありますが、所詮は王の補佐です、何故そのような者が良いのですか、貴女程の魔力所持者には相応しくない、なにより……」

ガレイは言葉を続けたが、その大半を私は聞いていなかった。お前にカルデラの何かわかる? 私が苦しかった時に助けてくれたのは他でもない彼だ、そして、愛情をくれるのもまたカルデラである。何か、大きなものを隠してはいるが、少なくとも今目の前にいる男よりは信用に足るし、なにより私がカルデラがいいのだ。

 ふつふつと怒りが沸き起こる。私が睨むのもお構い無しで、話し続けていたガレイだが、それを遮ったのは女子生徒の悲鳴だった。

「きゃあ!」

「どうしたの!」

教室が騒然となる。怪我でもしたのかと、そちらを向くと、叫んだ子は黒板の前におり、何か書いていたのか、チョークの粉が足元に散らばっている。だけである、特に怪我した様子はない。

「チョークが……」

「チョーク?」

「チョークが、金色の光に包まれて、気付いたら粉々になっていたの……」

女子生徒は、驚きで青ざめていたが、周りはわっと、笑い出す。チョーク如きで叫ぶなよーと励まされていたが、私は頭を抱えた。

 私の魔法は、感情に左右される。強く感じた感情に応じてその効果を発揮する。つまり、チョークを割ったのは私だろう。なんでチョークだったのかはわからないが、怒りに反応したのは確かだ。

「それで……」

「ガレイ様」

「何ですか?」

「今日は、私に話かけないでください」

私は、さっさと机に戻る。これ以上力を使いたくない。コントロール不可なのだ、チョークだけでは済まないだろう。むしろ、力がガレイに向かなかったのが奇跡のレベルである。私の魔力、牽制を覚えたのかしら? だったら偉かったわ。と魔力を人知れず褒めるのであった。

 私の言葉などお構い無しに、話しかけてくるガレイを避けるため、昼休みに教室を飛び出すと、丁度こちらに向かうリテア様と鉢会う。

「メリ! 今日こそ話を聞いてもらうわよ!」

「あぁ、リテア様……こんにちは」

「……ちょ、ちょっと、何辛気臭い顔してんのよ」

疲れすぎた私は、どんな顔をしていたのだろう。リテア様は、敵意を向けるどころか、哀れみを向けてくる。あぁ、リテア様良い子ですねやっぱり。

「なんでもないですよ、それでどうしました?」

「……そこまで覇気がないと張合いがないわね、いいわ! メリ、貴女、購買で紅茶を買ってきて頂戴!」

「紅茶ですか? かしこまりました」

意外な言葉に、私は頷く。そして購買へ行き、指定の紅茶を買うと中庭に出た。そこには待ってました! とばかりにリテア様がテラス席に座っている。

 そのリテア様に紅茶を淹れ、渡すと、受け取って飲み始める。

「あんた、紅茶淹れるの上手いわね」

「ありがとうございます、趣味ですよ、紅茶飲むと幾分か落ち着くので」

ふーんと、リテア様はお姫様とは思えない程、雑に紅茶を飲む。リテア様、見た目はお姫様だけど、行動がお姫様じゃないのね。

「決めた」

「はい?」

「メリ! あんた今日から昼休みには私のとこへいらっしゃい! こき使ってやるわ」

ニヤリとリテア様は笑う。ほぉ、召使いを私にやらせますか、望むところだ、これでリテア様から信頼されれば、一つ問題が解決する。

「わかりました、昼休みに一般部に行けばいいんですね?」

「あら、話が早いわね、聞き分けがいい子は嫌いじゃないわよ」

こうして、リテア様からのお使いが始まった。

 この日から私は毎日リテア様のところ行き、何か買ってきたり、ただ話し相手になったりと、リテア様が望むことをやった。なにより、リテア様といるとガレイが近寄ってこない。流石に一国の姫の前で何かするわけにもいかないのだろう、アムレートとマシーナは友好国なわけだし。

「あんた本当に物分りがいいのね」

ふいに、紅茶を飲みながらリテア様が言う、首を傾げると、楽しそうに笑われる。

「私に楯突くこともないし、あーあ、カルデラ様の婚約者じゃなきゃ、楽しく話せる友人になれそうなのに」

「私としては友人の方が嬉しいですよ」

「あんた本心で言ってんなら、相当なお人好しね」

いや、本心ですよ。貴女と喧嘩していると困るんですもん。

 リテア様はだらっと机に突っ伏す。そして私を見る。

「私がカルデラ様を見たのはね、十歳の時よ、その時にビビッときたわけ! 夫になるのはこの人だってね! そしたらあんたが出てきたもんでそりゃもう腹たったんだから」

「あはは……」

十歳の時ですか……。リテア様は今二十一になる年だ。つまり十一年前、私が地下に入るのと同時期だなと考える。

「ねぇ、あんたなんで地下なんかにいたのよ」

「ふぇ?」

「話した感じ、傷付けるどころか、人の血も見れません! って感じじゃない」

いや、そこまで酷くはないです。血は見れますよ血は。でもこの質問は意外だな、登校初日には、疑っているって言われたのに、お人好しはどっちなんだか。

「リテア様は、あまりわからないかもしれませんが、私は異常に魔力が高いです」

「らしいわね」

「ただ、強すぎる故にコントロールができません、今はカルデラが結界を張ってくれているのと、私自身多少コントロールができるようになり大丈夫ですが、昔は触っただけで人は傷つき、物が壊れていたんですよ」

できるだけ、感情を込めずに伝える。その言葉にリテア様は首を傾げる。

「じゃあ、メリは魔法使えないの?」

「はい、少なくとも私の意思では使えません」

この言葉には勇気がいった。私が魔法を使えないと知ったら、リテア様はどんな反応をするだろうか、カルデラには相応しくないと罵られるだろうか。

 生唾を飲み込み、言葉を待つ。リテア様は、可愛らしい笑顔を浮かべた。

「なら、一般人みたいなもんね!」

「え?」

「だって、魔力があっても使えないんでしょ? だったら私と同じで一般人じゃない、それでいて、魔術師に対しては恐怖を与えられるとか、役得ね」

初めて言われる言葉に、私は黙る。役得? 魔法を使えないことが? リテア様は、私にウィンクした。

「一般人ってね、魔術師に下に見られがちなのよー、あいつら自分の方が上だって目で見てくんの、マシーナの第二王子のガレイが私を見る目見たことある? ほんっとムカつくんだから! それを受けないだけ役得よ役得、むしろ胸張って、私は強いのよ! って主張してやんなさい」

「む、無理です……」

はぁ? とリテア様は怒り気味だ。なんで貴女が怒るんですか。

 屋敷の人達は、リテア様をわがままだと言うが、私は全く別の感覚だった。強引なところはあるが、良い子だ。そしてなにより、その言葉には説得力がある。流石は王の娘と言わざるおえない。難アリなのは否定しないが、お茶仲間としてはこれ以上ない存在である。私はリテア様を信用していた、マーベスやクリアとは違う、魔術師ではないからこその、対等な友人。きっとそう思ってるのは私だけだけど。

 リテア様とは、放課後や登校時なども、時々話すようになった。姫という立場上、話してくれる人が少なくて退屈していたらしい。そのため、私を見つけると話しかけてくれる。私も話せる人が大等部にはいなかったので、喜んで話をした。そんな様子を見た、マーベスが驚きの声を上げる。

「メリさん、凄い……」

「メリ様、怖い子ですね……」

「二人とも酷くない?」

放課後、リテア様もいなかったので、マーベスとクリアと合流した。ここ最近リテア様とずっと一緒にいたのを、二人は見ていたようなのだが、あまりにも自然に話す私に、この反応である。

「だって、リテア様ですよ? あの悪名高いお姫様ですよ? そのリテア様があんなに自然に話してるなんて……流石メリ様!」

ガシッとクリアに手を捕まれる。悪名高いって、何したのよリテア様。

「リテアさんはね、十歳のパーティの後、いきなり婚約者はいらない! と言い張ったんだよね、王もリテアさんには甘いから、決められていた婚約を破棄したんだよ、その時はなんでかなって思ってたけど、きっと原因は兄さんだよね」

「あぁ、十歳の時に会ったって言ってたわね」

リテア様が十歳なら、カルデラは十九歳か、既に大等部に入っているな。その時から女泣かせだったのか。

 しかし、婚約破棄ってのは、余程驚かれたんだろうな、それだけで悪名高いと言われたり、わがまま娘だって言われるんだから。

「なんだか、残念ね、人の本質を歪めてるわ」

「そう言うのはメリ様だけです、でもそんなメリ様だからこそ、仲良くできているのでしょう、それはメリ様の強みです」

強みか、私は普通に話しているだけなのだけれど。それに私だってリテア様には救われている。お互い様というやつだ。

「このまま、仲良くできたらいいな」

カルデラとか抜きに、私はリテア様個人に興味がある。それに、一人ぼっちの寂しさは私も知っている。

 一つの行動が、その後の人生を左右するのだろう。だからって、咎められていい理由にはならない。私ができることはわからないが、少しでもリテア様の傍にいようと思った。

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