表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【二章 王族達の輪舞曲】
23/150

第二話【氷の魔術師】

 登校二日目。教室内では遠巻きにされたどころか、腫れ物扱いである。初日からリテア様に敵宣言された挙句、隣国の第二王子、ガレイから求婚され、それを一刀両断したため、様々な意味で有名人となった。

「あの子が、リテア様から敵と言われた子?」

「ガレイ様の婚約申し入れも断ったらしいわよ」

「えー、有り得ない、そんな羨ましい申し入れを断ったの?」

等々、目立ち過ぎるくらいに目立っている。魔力が高い以上、隅にいても気付かれるし、穴があったら入りたい。

「おはよう、メリ嬢、浮かない顔してますね」

「おはようございます、ガレイ様」

私はそれはもう他人事のように一礼する。私の冷たい態度に、更に周りはザワつくが、私カルデラ以外と婚約する気ないの。諦めてもらうには、冷たくするのが一番だ。

「可愛らしい顔が台無しになりますよ、元気出してください」

「あはは、ありがとうございます」

誰のせいで憂鬱だと思ってんだこの馬鹿王子。

 なるべく、ガレイとは関わらないようにし、二日目を終える。私から関わらなくとも、向こうから話かけてくるのだが。

「メリ嬢、今日は予定ありますか?」

「あ、ごめんなさい、人と会う約束がございますので、失礼します」

足早に教室を出る。嘘は言ってない嘘は。

「あ、いたわね、メリ!」

「リテア様、お疲れ様です、私これから人に会うので失礼します」

廊下でリテア様にも鉢合わせたが、サラッと流す。それはもう早口に。

 二人を掻い潜り、高等部に着く頃には、精神が削りきられていた。

「メリさん、こっちこっち!」

「マーベス、わかったわ」

マーベスを見ると急に安心感が出てくる。信用できる人がいるっていいな。マーベスの案内で高等部の食堂へ来る。魔術学園は、それぞれの校舎に食堂がある。本来であれば、大等部である私は高等部の食堂には入れないのだが、マーベスが学園長から許可を貰ったらしい。流石クロム家、融通が効くものだ。

 食堂には、一人の女性が座っていた。水のように透き通った、水色の髪は肩くらいで切りそろえられ、その目は氷のように冷たい色を宿す、しかしその声は元気そのものだ。

「マーベス様! お隣にいらっしゃいますが、メリ様ですね!」

「クリア、うんそうだよ、メリさん、彼女は、クリア・グラセ、氷の魔術師」

「メリ・カンボワーズです、クリア様」

一礼すると、クリアは首を盛大に横に振る。そして私の手を取ると、うっとりとした顔で私を見た。

「私の事はクリアで構いません、ずっとお会いしたいと思っていたのです、あぁ、聞いていた通り可愛らしい方で!」

えーっと……困惑でマーベスを見るが、マーベスは苦笑いを返すだけである。

「じゃあ、クリアって呼ぶわ、私に会いたかったの?」

「えぇ! マーベス様にカルデラ様の婚約者が来たと教えて頂きまして、その方が物凄く可愛らしいとお聞きしまして! 噂通りの美しさと可愛らしさ! 私感動しました!」

どうやら、褒めてくれているらしい。私そんなに可愛い容姿してるのかな。幼いって意味ではそうかもしれないけど。

 とりあえず落ち着いたクリアの前に私は座る。マーベスは、クリアの隣だ。

「取り乱してすみません、メリ様、改めまして、クリア・グラセです、グラセ家は氷の魔術師の家系でして、私も氷の魔術師です」

クリアは証明するように、魔法を使う。水色の粉が舞うと、私の目の前で術となり、浮く氷が現れた。

「凄いわね」

「メリ様に比べましたら序の口ですよ、物質も魔術も通さない結界を張ったのでしょう? そんなことできる魔術師なんて、聞いたことありません」

「たまたまよ」

私は肩を竦める。カルデラが危険にさらされた時、咄嗟に出たのがその結界であり壁だ。ただ、あれから出そうとしても出せない。姉様は条件があるのだろうと言っていたが、その条件すらよく分からない。カルデラは感情だと言っていたが、感情だと言うなら、念じて出てきてくれたらいいのに。

「そしてその謙虚さ……惚れ惚れします」

「あの、クリア?」

「はっ、すみません、その、私可愛い人が大好きでして、メリ様の容姿は、好みドンピシャなのです! 着せ替えたいです!」

「クリア、落ち着いて、メリさん困ってる」

マーベスが止めたことにより、クリアは深呼吸する。変わった子だなぁ。

 私はマーベスと顔を見合わせると、クリアにもわかるように、リテア様、そしてガレイの話をする。

「ふむ、マシーナの第二王子ですか」

「あの、私そもそもマシーナ王国のこと、あんまり知らないんだけど、どんな国なの?」

「マシーナが、機械技術大国なのは知ってますか?」

私は頷く。機械技術の発展と車の普及くらいなら知っている。

「あの国はですね、今危機的状況なのです」

「危機的状況?」

神妙な顔をして頷くクリアに、マーベスが代わりに話してくれた。

「マシーナには、魔法道具研究所って言って、魔法道具を開発している研究所があるんだけど、どうやら、国の意志とは関係ない開発を行っているらしいんだ、その開発が何なのかはわからないけど、マシーナの王はそれを怖がっていてね、ガレイさんがメリさんを引き込みたいのは、魔法道具研究所への牽制だと思うよ」

魔法道具研究所……魔具は、魔術師でなくとも魔法が使えたり、本来なら無属性の魔術師しか使えない、探知魔法や転移魔法を扱える便利道具だ。マシーナは、その機械技術を活かして、アムレートと一緒に様々な魔具を作ってきた。その結果生まれたのが、地下資源の採掘魔具、石油の抽出機械だ。その様々な研究しているのが、魔法道具研究所なのだろう。

 そんな場所が危険な研究をしていれば、王が危惧するのはご最もだ。そして、魔力が高い私がいれば、研究所も手が出せないということか。

「余程怖がっているのね」

「研究所のリーダーさんが、相当な変人らしくてね、王も手網を握れていないんだ、実際良い噂は聞かないよ」

変な人って、存外多いわね。これが他人事なら、それだけで済むのに、他人事じゃないから困ってしまう。

「つまり、ガレイ様が私を諦めることは……」

「ないと思います、メリ様がいれば、国は安泰ですから」

どうやら、簡単に解決する問題ではないようだ。研究所をどうにかするのは私には無理なので、四年間できるだけガレイに関わらないのが、一番良いのだろう。リテア様すら解決できてないのに、もう一つ解決不可能な問題が出てくるとか聞いてない。

「普通の学園生活を送りたいだけなのに」

「メリ様程の魔力をお持ちでそれは難しいですね」

「そんなぁ……」

私はガックリと肩を落とす。姉様、貴女の言葉が身に染みました。初日から王族の男に目をつけられました。

 クリアと別れ、クロム家に戻る。私は自室に戻ると、ベッドに横たわる。本当は着替えなきゃいけないのだが、疲れすぎていつの間にか寝てしまっていた。

「……り……メリ」

「んっ……」

声がして起きる。すると、カルデラが、優しく髪を撫でていた。

「カルデラ……?」

「お疲れのようですね」

起き上がり、着替えてないことに気づき、あーっと声を出した。二日しか経っていないのに、なんかもう、一ヶ月くらい経った気分である。

 私はカルデラを見る。そういえば、カルデラは研究所のことを知っているのだろうか。

「ねぇ、カルデラは、魔法道具研究所って知ってる?」

「……どこでその名前を?」

撫でていた手がピタリと止む。その目は顰められ、睨まれている。私はヒェッと言いかけたが、この反応、知っているな。

「えっとね、マーベスから聞いたのよ」

「マーベスから?」

怒っているわけではない、こちらを伺うような声に、私も言葉を選ぶ。もしかして禁句だったのだろうか、でも隣国の研究所だぞ、禁句になることあるだろうか。

「私と同じ教室にね、マシーナの第二王子がいるのよ、ガレイ様って言うんだけど、彼に話しかけられたから、マシーナのことについて、マーベスとマーベスの友人のクリアに聞いたの」

「第二王子に話しかけられた……?」

「あっ」

今度は明らかに怒気を含む声だった。やべ、こっちは絶対に禁句だ。

 私はそっぽを向く。これはなんと言えば正解? 話しかけられただけで、何もないって言っても無理よね? 信じるカルデラではないわ。

「メリ」

「は、はい、ってちょい!」

私の左手に、右手が絡められ、そのままベッドに押し倒される。暗くてカルデラの顔はよく見えないが、声からは感情がよくわかる。カルデラ落ち着いて。

「何かされてないですよね?」

「されてないわよ、目立ちはしたけど」

されてはいない、うん。話しかけられただけ……私断ったもの、はっきり言ったのよ。

「貴女は私の婚約者なわけですが」

「そうね……」

「何度も言いますが、貴女の手を離すつもりはありません」

怖い。研究所の話を聞いた時より怖い。まるで決定事項を話すように、低く、強く、そして感情を含まず言われる。そして、絡められている左手がとてつもなく痛い。

「よもや、その男から婚約を迫られたりしてませんね?」

私は押黙る、勘が鋭いことで。私が黙ったので、カルデラは、自分の予想が事実だと悟ったのだろう。ため息を吐くと、じっと私を見た。

「サリサ嬢から言われていたでしょうに」

「不可抗力よ、私は断ったもの、婚約者がいるから困りますって」

何より、初日からやらかすとは思っていない。隣国の事情も今日知ったばかりだ、普通に学園生活を謳歌できると、昨日の朝までは思っていたのだ。

「マーベスやクリアの話だとね、研究所への牽制に私を使いたいんじゃないかって、研究所、王に内緒で随分な研究してるんですってね、それを怖がってるらしいわ、だから諦めてくれないだろうと……」

怒られるかもしれない、そう思いながら話すが、カルデラは、思案顔になる。あれ、怒らないんだ。

「魔法道具研究所への牽制ですか……メリ」

「何?」

「その王子には金輪際関わらないこと、それと、魔法道具研究所については、破棄してください」

「破棄……?」

考えるなってこと? 忘れろならまだしも、破棄だなんて、嫌な言葉使うわね。それにガレイに関しては関わりたくて関わってないのよ。

「研究所については、私ではどうしようもないから置いておくとしても、ガレイ様については同じ教室だから無理よ」

ちょっとムッとして、不貞腐れたように言う。カルデラはただ私を見ている。

 数分、見つめあっていると、カルデラは私から離れる。そして、優しく抱き寄せられた。

「貴女をあの国に行かせるわけにはいかないんです、王だろうと、貴女を守れる保証はありません」

「カルデラ……?」

その体は微かに震えていて、珍しくなにかに脅えている気がする。カルデラが怖い事が、マシーナにはあるってことなのか。

「安心してよ、私がカルデラ以外と婚約するわけないじゃない」

その背中を優しく撫でる。気になることはある。でも今の彼にはそれは聞けない。聞いちゃいけない気がする。カルデラと出会ってようやっと一年が経つ。私はまだカルデラを知らない、だから、踏み込めない場所があるのは理解している。

 彼が話してくれるその日を私は待つしかないのだ。そして待ちながら、その原因を調べるしかない。魔法道具研究所とマシーナ、ここについては引き続き調べた方がいいだろう。カルデラは嫌がるだろうけれど、私だって無関係ではないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ