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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術学園編 【一章 満月の誓い】
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第十四話 【捜索】

 馬車が街に着く。すぐさま降りると、夕刻時の街は活気に溢れていた。

「兄さん、とりあえずエルミニル紅茶館へ行こう、母さんが頼んだ紅茶屋はあそこだよ」

「エルミニル紅茶館ですか……」

自分が顔を顰めたので、マーベスは僕だけが行こうか? と気を使う。しかし私は首を横に振った。

「いえ、私も行きます、息子はどうであれ、夫妻は良い方ですから」

何よりメリの情報が欲しい。

 エルミニル紅茶館に入ると、店主が驚いた顔をする。

「これはこれは、クロムのご兄弟じゃないか!」

「ご無沙汰しております」

一礼すると、店主も一礼する。何事かと、奥さんも飛び出してきた。

「これはこれは、先程は可愛らしいお嬢さんがいらしていたと思ったら、すぐに来なさるとは、何用ですかね」

「可愛らしいお嬢さんですか?」

「えぇ、マリアちゃんの使いで来た子、新人の使用人の方でしょう? エメラルドグリーンの綺麗な髪でお人形さんみたいだったわ、あんな可愛い子が来たなんて、皆大喜びでしょうに」

奥さんが話しているのはメリで間違いない。ということは、メリはこの店に来て、母の使いは果たしたということだ。つまり、いなくなったのは店を出た後である。

「そういや、さっきミラフもちらっと顔を出してな、あいつもお嬢さんのことを気にしていたよ」

「ミラフが?」

「あぁ、クロム家に可愛い新人が入ったみたいだぞって言ったら、どんな人だったのかとか、名前とか聞かれたな、ただ、名前は聞かなかったもんで、見た目と店を出て大通りを真っ直ぐ右へ行ったって言ったら、出て行っちまった」

「右ですね?」

店主は頷く。右に行ったということは、帰り道だ。メリはどこも寄らずに帰ろうとしていたのか。

 私がずっと考え事をしていたからだろう、夫妻は顔を見合わせると、不安そうに言う。

「あの、何かあったのでしょうか……」

その質問に答えようかどうしようか迷っているとマーベスが口を挟む。

「その子はねメリさんって言って、兄さんの婚約者なんだよ」

「婚約者! 使用人ではなくか!」

「うんそう、メリさんが街を見た事がないって言ったから、母様が紅茶のお使いついでに、街を見て来いって送り出したんだ、でもね、帰って来なくて今探してるんだよ」

マーベスの説明に夫妻が青い顔をする。そして、右に行ってからどこ行ったか見てたかという話を始めた。必死に思い出してくれているようだ。

「うーん、流石にわからねぇなぁ、メリ様が来たのは昼前だ、もう六時間は経ってるぜ」

「その間、ミラフが帰ってきたりは?」

「いーや、ミラフも忙しいから、いつもちらっと顔を出すだけだ、今日もそうだよ」

「ありがとうございました、マーベス、とりあえず右へ戻りましょう」

夫妻から聞けることは聞いた。店を出る時に、なにか思い出したら伝えると言われ、改めて礼を言い去る。本当に夫妻は良い人だ。

 そして、そんな良い人の息子を疑いたくはないが、ミラフがメリを気にしていたというのは気になる。

「兄さん、ミラフさんはどの程度メリさんを知ってるの?」

「わからないですね、しかしある程度は知っているはずです」

ミラフは魔術師ではないため、魔力の強さでメリを探すのは無理だろう。しかし、メリの容姿であれば目立ってもおかしくはない。夫妻が使用人と間違えたのを疑う程に、その姿には気品がある。ましてや、エルミニル紅茶館を出てすぐであれば、見つけるのは容易いはずだ。

「チッ、探索魔法が使えれば楽なんですが」

「無理だよ兄さん、メリさんの魔力わかんないもん」

探索魔法はその名の通りである。便利な魔法ではあるが、発動には条件があり、それは探す対象の魔力がわかること。魔力がわかるというのは、魔法を発動した際や、本人が魔力を込めた物等、魔力を使った形跡を指す。仮にメリが魔法をどこかで使っていれば、使えなくはないが……。

「ん、魔法?」

「兄さんどうしたの?」

「仮にメリさんを拉致するなら、魔法を使うはずですよね?」

メリは魔力が高い。魔法が使えないって言ったら皆驚くであろう程だ。ミラフ程の男であれば無策ではなかっただろう。ましてや彼の妻は、カリナだ。

「マーベス、光魔法の痕跡を探せますか?」

「光魔法? 別にいいけど、心当たりがあるんだね?」

自分は頷く。マーベスは、大通りの中央へ行くと、呪文を唱え始めた。

 無属性と言えど魔法との相性がある。自分は結界やカウンター、後は攻撃魔法との相性が良く、マーベスは、探索魔法や探知魔法との相性が良い。こういう場合は任せた方がいい。

「兄さん、見つけたけどちょっと厄介かも」

「厄介とは?」

「あのね、光魔法の形跡は一件しかないよ、ただ場所がちょっと……」

マーベスは一件のカフェを指す。そこは最近若者に人気のあるカフェだ。確かオーナーは、チャール家だったはずである。

「やってくれますね、あいつ」

クレイ・チャール、メリの元婚約者である。どういった経緯で婚約破棄になったかは、サリサ嬢の話でも出てこなかったが、パーティでは、メリが畏怖の対象にしていた。

「いいでしょう、私に喧嘩を売るというのならば、買うまでです」

「兄さん怖いよ……」

マーベスの話を無視し、カフェの扉を開くと、いらっしゃいませーと元気の良い声がする。

 にこにこしている店員に、六時間程前に居た者はいないかと聞くと、一人の女性が呼び出された。

「あの、誰かお探しでしょうか」

「えぇ、婚約者を探しているのですが、エメラルドグリーンの髪の子です」

私がそう言うと明らかに焦ったような表情をする。どうやらビンゴのようだ。

「マーベス、魔法が使われた場所はわかりますね?」

「そこで探索魔法を使えばいいんだね?」

マーベスは頷き、真っ直ぐ一番端の席へ行く。店員が止めに入ろうとしたが、睨むと立ち止まった。自分はマーベスが止まった場所に行く。幸いその席には誰も座っておらず、すぐさま探索魔法を使う。

「うーん、時間が経ってるから薄いかな、使用者がもう一度使ってくれたら場所が割り出せるんだけど」

首を傾げるマーベスに、流石に万能ではないかと考える。

 他に情報がないかと、思案していると、店がざわつく。そして、見覚えのある顔が出てきた。

「いきなり押しかけられるのは困りますよ、カルデラ様」

「クレイ……」

首筋までの癖のある明るい赤毛の男。その血のような赤黒い瞳には、狂気の色が宿る。

「貴様、メリに何をした?」

「言いがかりはよしてくださいよ、そもそも目を離したそちらが悪いんでしょう?」

不敵に笑うクレイに、苛立ちを覚えるが、今は抑えなければならないだろう。

「今、貴様に用はない、メリの居場所だけ教えてもらおうか」

「知りませんね、今はですが」

つまり、教えてもらうことがあるということか。しかし今知らないなら用はないな。

「マーベス、ある程度の場所は割れているな?」

「敬語じゃない兄さん逆に怖いよ、えっとね、まぁある程度は割れてるかな、これまたあまり良い場所じゃないけど」

「何処だ」

「アムレート城」

本当に良くない場所が出てきたものだ。城なんて広すぎて探すにも手が足りない。ましてや、入れる者が限定されている、禁止区域にいられると、いくらクロム家でも入れない。禁止区域に入れるのは、王直属の部下だけ、両親なら一応入れるが……。

「へぇ、無属性って本当に便利ですね」

「どいてもらおうか」

「嫌だと言ったら?」

面倒が一人いる状況にため息が出る。力づくで出ることも可能だが、周りを巻き込めば危険人物扱いは免れないだろう。魔術師同士の戦い程危険なものはない。

 クレイもそれを理解しているのか、動きはない。しばらく睨み合っていると、マーベスが、あっ! と声を上げた。

「兄さん! わかった!」

「何がだ」

「場所! 正確な! でもそれが示すのは、光魔法が使われたってことだよ、兄さん、準備はいい?」

何をしたいのか理解し頷く。クレイをちらっと見ると、何をするのかと伺っている。

「あいつは僕に任せてよ、兄さんは、大事なメリさんを取り戻しておいで!」

机に向けてマーベスが手をつく。白い光に包まれると、マーベスが示した場所へ転移した。


 光が消えて辺りが静寂に包まれる。残されたクレイは狐につままれたような顔をしている。

「何をした……?」

「何って、兄さんをメリさんのとこに送ったんだよ、あ、もしかして初めて見た? 今のが転移魔法だよ」

「転移魔法だと、この一瞬でか?」

クレイは馬鹿なと呟く。無理もない、普通転移魔法は、様々な魔法道具、通称魔具を用いてやる魔法だ。魔具は、魔力を貯めておく装置で、魔術師ではない者が魔法を扱えたり、転移魔法のような、普通なら使えない魔法を扱ったりするためのものである。でも、僕らは無属性、得手不得手はあれど、魔具なんてなくても大抵の魔法は使えちゃうんだな、ま、魔力が足りなかったらできないけど。

「クロム家の無属性舐めないでよね、これでも王直属の魔術師団団長を、代々務めてきてるんだよ」

そう、クロム家は王国魔術師団団長を務めてきている。今は父がやっているが、継ぐのは兄さんだ。リテアさんと仲が悪いのは難点だけどね。

「厄介なもんだな、無属性ってのは」

「喧嘩売った相手が悪いんだよーだ、さてさてお兄さん、邪魔されたら困るんだよねー」

兄さんが、メリさんをどれだけ大切にしているのか、いつも見てる僕は痛いほど知っている。

 ミラフさんとの一件から、人との距離を置いていた兄さんだけれど、メリさんに対しての距離は驚く程近い。ちょっと前の兄さんなら、まず女性の手なんて取らなかったし、抱きしめたり撫でたりなんて論外だ。でも、メリさんには普通にやっている。それに、あんなに優しく笑うなんて驚いた。家族である僕でも見たことがない。兄さんには、メリさんが必要だ、僕としても失くすわけにはいかない。

「兄さんはさ、変人って言われてる割に優しいんだよね、周りを考えて戦ったりはしない、でもね、僕はその辺考えないよ、だってお兄さん以外を避けちゃえばいいんだから」

周りに緑色の粉が舞う。攻撃魔法なら兄さんの方が得意だけど、僕だって使えなくはない。

「弟は、随分と手荒だな」

クレイが剣を抜く。その剣には黄色い粉が纏われており、稲妻の形をとる。

「言ったろ、邪魔はされたくないんだよ、僕はあの変人カルデラの弟だよ? 人を傷つけるのに、一々考えると思う?」

考える前に行動、それが僕の信条だ。

 粉はクレイを包む、それを剣で払われ、そのまま、僕に向かって振り下ろされる。しかしその剣が僕に届くことはない。

「風が斬れるわけないじゃん?」

魔法が術となる。僕が発動したのは風魔法。風はクレイを浮かせる。そして思いっきり床へと叩きつけられ、クレイが苦しそうな呻き声をあげる。

「今更だけどさ、怒らせる人を間違えたよね、まぁ、僕なんかよりよっぽど兄さんの方が怖いけどね」

まだ意識のあるクレイをパワーの魔法を発動し、蹴り上げる。今度こそ気絶したクレイを見て、ふぅーと息を吐いた。

「さて、後は兄さんにおまかせなんだけど、怒られちゃうかなー僕」

周りを見ると、怯えた目をする人々。僕はにっこりと彼らに笑いかけたけれど、むしろひっ! と怯えた声を出される。別に何もしないのに。

「あらあら、マーベス、派手にやったわね」

「母様」

カランカランと軽い音がすると、母が入ってきた。怒られるのを覚悟し、ピシッと立つけど、母は、クレイを見て、僕を見て、首を傾げる。僕も首を傾げる。

 しばらく見つめ合ってると、母はクレイを指さす。目ではこいつが原因か? と訴えていたので、頷くと、母は思いっきりクレイを蹴った。死体蹴りである。

「母様、もうその人気絶してるよ」

「気絶で済ませるなんて、マーベスは優しいわねぇ、うちの可愛い可愛いメリちゃんに手を出したのよ? むしろ燃やすくらいしないと」

「兄さんみたいなこと言わないでよ」

どうやら、母は頭に血が上っているらしい。流石はカルデラの母と言わんばかりの言葉に、僕の方が苦笑いになる。

「そう言えばカルデラは?」

「兄さんなら一足先にメリさんのとこに送ったよ」

「場所は?」

「お城」

「あんのくそジジイなーに考えてんのよ!」

くそジジイとは、王様のことだろう。王に対してこんな無礼なことを言えるのは、きっと両親だけだろうと思う。

「マーベス、行くわよ」

「お城に?」

「えぇ! 文句の一つでも言わなきゃ気が済まないわ! 今回ばっかりはボッコボコにしてやるんですから!」

母が、店の外に出たので、僕は店内に一礼し出て行く。

 馬車に乗ると向かうはアムレート城。ついでにクレイは屋敷の使用人が回収した。勿論母の指示である。本当に喧嘩売るとこ間違えたみたい。

カルデラより、よっぽどマーベスの方が怖い気がする作者です。

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