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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【五章 氷の女神】
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第七話 【失われた王国】

 昔のアムレートは魔術大国などではなかった。唯一、王の家系だけがその御業を扱うことができ、それは人々を導く光明となった。

 それは、アムレートの紋章にも現れており、太陽を中心とした魔法陣が掲げられたという。この魔法陣は、王が魔術を使う時に頭に浮かんだものだそうで、昔はカラスの羽で作られた羽根ペンを用いて、一つ一つ手書きだったそうだ。旗の色を青くしているのは、この国の色だから。

「知っていますか? この町は古くは王の御膳だったのです」

しかし、その王はこの町から去ってしまった。女神と崇められた、一人の女性と共に。

 王が連れてきた女神は、王が扱う御業を人々に教えたという。しかし、その力は人間の力に在らず。女神という、得体の知れない者が扱うものは、人を豊かにする反面、格差を出した。魔法を求め、人々は争った。そして理解した、女神は神に在らずと。

「かつて、ただ一人で女神を打ち倒した者がいるといいます」

その者は、女神が愛した男の命を助ける代わりに、その命を捧げるように言ったそうです。普通なら、断るところですが、女神はそれを受け入れた。そして、民衆の前でその女神は打ち倒された。

 神と言われ、畏怖され、崇められた存在は、そんな風に、いとも簡単に殺せてしまう。今まで怖がっていた存在は、自分達人には勝てない。その証明となった出来事でした。だからこそ、王の目を覚ますために、人々は剣を取り、その魔法を女神に、王に向けました。

 しかし結果はどうでしょう、アムレートは順調に魔術大国への道を歩みました。王宮の場所を移し、魔術師ではないものが王となったのにも関わらず、何も変わらなかった。女神の遺志を継ぎ、魔法に頼った国となった。人々は自由を求め、魔法という縛りから逃れるために戦ったというのに、王はその自由を許しはしなかった。

「今こそ、自由を掴む時なのですよ、女神が現れた今がね」

「やってる事が昔と同じですわね、救いがありませんわ」

ロジエが語り終え、隣でローザがため息を吐く。正直今すぐにぶん殴りたいが我慢する。

 メリが普段語るのは、女神から見た世界だが、人間から見た世界とそう変わらぬようだ。強いて言うなら、人間側から見た世界の方が視野が狭い。ロジエ個人の主観が多いに入っているだろうが。

「救いを求めているのが今ですよローザ。王が連れてきた女神、その存在が現れたのですから」

メリは女神ではない、そう口を挟もうとした時。辺りの気温が下がる。そして凛とした声がその場に響いた。

「御託は以上ですか、フレグランスよ」

黄色の光が舞う。その中からは、一人の女性が現れる。

「メリ様、どうしてこちらに……」

「やっと出てきましたか」

メリとロジエが睨み合う。しかし自分は違和感を感じていた。

 メリは今、ロジエのことをフレグランスと呼んだ。普段、名前に様を付けて呼ぶはずであるメリがだ。

「本来であれば会いたくもないのですが、私の名を語られるのも嫌ですからね」

「そうですわね、メリ様をこれ以上侮辱するのは、このローザ、許しませんわ!」

ローザがメリの隣に行く。自分は、ミラフを見たが、違和感など感じていないのか。腕を組みただ見守っている。

「会いたくないとは失礼ですね、自分は神官ですよ?」

「関係ありません、元より神官などという存在知りませんから」

「ちょっと待ってください」

メリとロジエの間に立つ。二人とも自分を見る。これは、これだけは突っ込まずにはいられない。

 メリを見る。彼女は子首を傾げる。

「何か?」

「まず、貴女は誰ですか、メリの体返してもらえます?」

「カルデラ? いきなり何言ってんだ?」

現在の内容とは全く関係ない話であり、誰もが目の前の人物がメリだと思っているからだろう、ミラフの声は呆れているが、当の本人は微笑をうかべた。

「流石クロム王の血筋、カルデラさんと申しましたね」

「ネメシスの仕業ですね?」

「元はあの子の力ですよ、ただ、今はメリも使えます、ネメシスに気に入られたからでしょうね」

だから、体は貸すなと言ったのに。メリのお人好しはいつ直るだろうか、一生無理だろうか。

「は……? どういうこった?」

「私の名はガイア、ここアムレートを守護する女神です、貴方はルイさんの血筋ですね」

ミラフを見て可愛らしくにこりと微笑む。おい、自分の前で何をやっている。他の男に笑顔を向けるな。

「ガイア? この地の土地神は寝ているはずでは?」

一人、状況などどうでもいい男であるロジエが、話に入る。

 不満は大いにあるが、こうなると原因を処理するまで女神は離してくれない。これは対処するしかない。

「いつまでも寝てはいません、起きたのはつい先日です、こうして動けるようになったのは、メリが私の祠に来てからですけれどね」

ガイアが睨むように見る。しかし、脅しなど無意味なようで、ロジエは数度頷くだけである。

「起きてしまったわけですか、まぁしかし、女神など恐るるに足らず、今用があるのは体の方ですから」

「メリに危害を加えるならば、私も黙ってはおりませんが」

ガイアの前に腕を伸ばし、彼女を静止する。ロジエは魔術師ではない、しかし魔力の気配がする。この男、魔具を持っている。下手にガイアが前に出ると、メリが怪我をしかねない。

 自分の行動に、ようやっとロジエの表情が変わる。その訝しげな感じは、邪魔とでも言いたいのだろう。全く、どいつもこいつも、申し子とは厄介なものだな。

「渡さないと言うのですね」

「当たり前でしょう、何がお望みか知りませんが、メリはメリですから」

申し子としての力が望みならば、更に渡すわけには行かない。それはメリを人として、一人の女性として扱わぬ行為だ。そうでなくとも渡しなどしないが。

「ならば退いてもらうまで、今、この地で証明致しましょう、人が神に勝てることを! 本来の歴史に戻す時です!」

「本来も何も、今が現実ですよ」

魔具を呼び出す。切っ先を向けると、ロジエも持っていた魔具をこちらに向ける。

 それは杖であった。魔導書には度々杖を持った魔術師が描かれるが、実際の魔術師が杖を使うことはない。わざわざ必要がないからだ。

「近づけなければ良いのですよ」

「なるほど」

杖の先端には、青く丸い宝石が付いている。そこから、緑色の粉が舞う。それは術となり、蔦が伸びる。どうやらあの魔具には自然系の魔力が込められているらしい。

 蔦を切れば先に進めはするが、あまり魔力は使ってられないか。

「お前と行動すると仕事が増えるな!」

「今こそ騎士団活躍の場ですね!」

「ミラフ、ルスト」

先程まで傍観者を決め込んでいた二人が前に出る。その手には剣が握られている。

「春華國のように、魔法がなければ突破できないということではなさそうです」

試しとばかりに、ルストがその剣で蔦を切ると、それはあっさりと切れる。だからといって減るわけではないが。

「道は開いてやるよ、カルデラ、あの野郎をぶん殴ってこい!」

二人が蔦を切り、一瞬の隙を作る。そこに飛び込むと、炎の魔力を魔具に込める。

 前方に向けて、魔力を放つ。蔦は上手く燃えてくれたようで、前方にロジエが見える。

「少し寝ててくれ!」

「そう上手くはいきませんよ!」

魔具を振るが、それは大きな葉に阻まれる。瞬時に魔法を使いやがったか。魔具に魔力を込め、無理矢理術を突破し、再度その切っ先を向けるが、避けられる。巫女といいロジエといい、身軽なものだ。

「魔術師でも、頭の使い方というものがなってませんね」

「一々うるさいぞ」

花弁が舞う、視界を遮ろうという魂胆か。自然系の魔術は芸が豊かで困る。

 しかし、植物ならば燃やし尽くしてしまえばいい。立ち止まり、前方に炎魔術を発動させる。魔力弾と違い、攻撃力はないが、火本来の効果を発揮してくれる。周りに焦げた匂いがするが、燃やすのは魔術のみ。多少町民が騒ぐかもしれないがまぁいいだろう。

「炎魔術師ですか貴方」

「さぁな」

ロジエの前では炎しか扱っていない。ただそれだけだが、どうもこちらが無属性だというのは知らないようだ。

 深呼吸一つ。ならば、本当の魔術というのを見せてやろう。ロジエの背後に黒い粉が舞う。彼が魔法に気付いたその時、吹っ飛ぶ。

「こっちの方が得意だ」

闇魔術の一種、重力を歪める魔法。母が得意とする魔法だが、離れた場所にいる人間を、風よりも強い力で吹っ飛ばせる。

「闇魔術だと」

近くにあった家の壁に打ち付けられたロジエであるが、軽傷のようだ。魔法でなんとかしたらしい。魔法に頼っているのはどっちだか。

「これでも、アムレートが誇る魔術師団団長候補なんでな、貴様如きに遅れを取る俺じゃない」

切っ先を突きつける。殺してもいいのだが、殺すとメリとルストから怒られるので、脅しで済ます。

 脅しを受けた本人であるロジエは、槍をじっと見て、笑い出した。

「ふふ、遅れですか、私が魔術に頼るとでも?」

「は?」

「なんですかコレ!」

メリの叫び声がする。実際叫んだのはガイアだろうが、声はメリだ。背後をむくと、見覚えのある物がこちらに向かってきていた。

「機械部隊? こいつは、シザフェルのじゃねぇか!」

「ロジエさんはシザフェルに普段いる、でしたね」

大掛かりな戦闘をするつもりはなかったので、魔術師団、騎士団共に馬車待機になっている。今の人数で機械部隊を相手にするのは骨が折れるぞ。

 だからって放置はできない。

「できるか、ミラフ」

「やってやろうじゃねぇか」

ロジエは一旦放置し、機械部隊を見る。そしてその一歩を踏み出す。

 こいつらとの戦闘は二度目だ。やり方は重々にわかっている。

「足止めはお任せ下さい」

ガイアが氷の床を敷く。足元が凍った機械達は、その動きを一瞬止める。

「いくぞカルデラ!」

「任せておけ!」

まず、足の接続部分を壊す。そしてすぐにコアに向けて槍を突き刺し、勢いを付けて飛び上がり、次の機械へ移る。

「身軽ですね、カルデラ様は」

ルストが、自分の隣にあった機械に剣を向けると、一刀両断した。この女のどこにそのような力があるのか……。

「機械って嫌ですね、刃こぼれします」

「雑にやるのがダメなんだと思うぞ……」

ミラフは、的確にコアを破壊していく。動けるようにその外装は薄く伸ばされているとはいえ、一発で真っ二つにすれば、刃は耐えきれないだろうな。

 二人が意外と機械を壊せるのは有難いことだ。このまま突っ切る、そしてあの男を捕まえる。

 魔具を構え直す。その切っ先を向けた。

ちゃんと戦闘シーン入るの地味に珍しいのでは!

と、作者は思ってます。

武器を扱う人間が少なすぎる……。

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