第三話 【天才との出会い】
研究所で研究だけをする日々を変えたのは一人の男との出会いだった。大等部一年の初日。図書室で出会ったのは、カルデラ・クロムという男だった。彼を見て、自分は似てると思った。初日とはいえ、魔術学園には長く通っている者が多い。自分は、マシーナだし、ティガシオンは魔術学園をあまり好かないから、大等部から通っていたが、クロム家は違うだろう。なんたって、アムレートが誇る魔術師団団長の家系なのだ、そんな彼が一人でいるってことは、自分と同じで、人に興味が無い変人ってことである。
最初こそは話を聞く気がなかったが、周りをうろちょろすればさすがに話を聞いてくれた。そして、協力者になる許可も得た。
「ヴァニイ聞いて!」
「いつになく上機嫌だなー」
転移魔具で研究所に戻ってから、ヴァニイに後ろから奇襲しつつ、話しかける。嬉しい時は全身で表現した方がいいんだよ。
「面白い奴見つけた!」
「おー? リーダーに目をつけられっとは、可哀想に」
ヴァニイの物言いはいつものことなので無視をする。こんなこと言ってるけど、影では自分のために努力してくれてるの知ってるからね。
「カルデラって言うんだけど、あのクロム家なんだよ!」
彼から離れ、両腕を左右には伸ばす。クロム? とヴァニイは首を傾げ、あぁと納得した。
「魔術師団のな」
「そうそれ!」
「よく、話聞いてくれたな、あそこの団長って言えば、ミカニ王とも仲良くしてるだろ」
自分は興味がないので知らないが、どうも不思議がっているようだ。話を聞いてくれたのは事実なんだけど。
どんな会話をしたのかを説明する。そしたら苦笑いを返された。
「相変わらず聞かなきゃ聞かせてやる精神なのな」
「話せばなんか上手くいくんだよ!」
「なるようになる、だな、はいはい」
軽く流された、それだけ彼とも長い付き合いってことなのだが。最初こそ気をつかったが、今はもう無礼講になっている。とてもやりやすい。
「でね」
「調べとけってことだな?」
「さっすがー! よろしくね!」
こちらの行動パターンも覚えている。ここまで理解されてるとつい、頼るよね。
二日後の朝には、カルデラの事が調べ終わり、綺麗な字の書類を眺める。うん見やすい。
「やっぱり、ヴァニイの書類は見やすいね!」
「リーダーの字が汚いだけな?」
そこには、クロム家の成り立ちが書いてあった。そういえば、申し子を調べた時にアムレートの伝承の王の名がクロムだったらしいのだが、関係あるのかな。ま、今は関係ないか。
彼が一人だった理由はどうも、家柄と他者への興味のなさ、その中で唯一なのだろう友人の婚約者を傷付けてしまった過去があるためのようだ。
「なるほどねぇ、これは事故だったのかい?」
「少なくともマギア王はそう片付けてる」
事故じゃなかったら、地下に入ってるし、そうだよね。彼、人体実験とかできるタイプかな、そうじゃなかったらキツそうだけど、個人的には余裕だと思う。
「ヴァニイ、今日こそ会いに行こう!」
「可哀想な奴にだな」
ヴァニイとカルデラは上手くやれるかな、やれたらいいな。
それからは二人は案外上手くやってくれた。どっちも根は真面目だから気が合うみたいだ。ちょっと妬けるよね。
「なんでリーダーが不貞腐れてんの?」
「別に不貞腐れてないよ」
「このゴミの山は捨てていいんですか?」
二人は自分が処分していた書類の残骸を眺める。個人情報もあるから、ちぎって捨てなきゃならないんだよ。
「この作業する時のリーダーは不貞腐れた時だよ」
「ヴァニイ、黙って」
「ディウムはわかりやすいですね」
かく言う自分も、カルデラのことは気に入ってる。なんでもそつなくこなせるし、ちょっと雑なのは困るけど、魔具だったらカルデラに頼った方がいい。ヴァニイ、機械苦手なんだよね。
「ほれー、よしよし、いじけんなー」
「だから! 僕は子供じゃないよ!」
後ろから抱き上げられ頭を撫でられる。抵抗するため手足をジタバタさせる。背が違いすぎて意味はなしていないんだけど、いつになったら子供扱いやめてくれるのかな。
カルデラはそんな自分達を見ることもせず、ちぎられた残骸を手際よく片付けていく。ただ途中で面倒になって、魔法で集めて燃やし始める。
「燃やすなばか!」
「いや、面倒になりまして」
「カルデラはすぐ面倒になるね」
ヴァニイが灰になって大変だろうが! とカルデラを怒る。カルデラは、確かにと納得して魔法を止める。
「というか、リーダーが床に散らばすのが問題なんだよ、箱に入れてくれや」
「なんも考えてなかった!」
「やっぱり不貞腐れてんじゃねぇか!」
あははっと笑ってみせると、笑顔では流せないからなと睨まれる。むっとして口を尖らせると、はいはいと頭に手がぽんぽんと置かれる。だから子供じゃないってば。
そんな日常を過ごして数年。カルデラが研究所にいるのにも誰も違和感を持たなくなっていた、ある日の事。珍しくカルデラが上機嫌で研究所に来た。
「カルデラ、機嫌いいな」
「ディウム、ヴァニイ、面白い人を見つけましたよ」
「うわー、聞いたことあるフレーズ、目を付けられた人可哀想だな」
自分は話半分に書類を処理する。研究所のリーダーになってわかった事だけど。意外と政治に魔具って絡んでるんだよね、処理が面倒臭い。
「メリ・カンボワーズという女性を保護しましてね、その子が」
「いや待て、お前が女性を保護したって? リテア嬢との婚約を即破棄したお前が?」
アムレートの姫君、リテア・アムレートは、カルデラに惚れたらしくて、婚約の申し入れをしてきた。それを、邪魔だからという理由で破棄している。まぁ、僕自身もも邪魔じゃない? と同意してしまっているし、カルデラの行動にヴァニイが驚くのも無理はない。
「可愛らしい人ですよ」
「かわい……?」
「カルデラが人を褒めるなんて珍しいね」
珍しい彼には興味がないわけではないので、ソファで絶句しているヴァニイの隣へ行き座る。
話題の中心である彼は、率直な感想ですと一言。でも表情は真顔、人を褒めてる奴の顔じゃないので、本当にただの感想のようだ。
「で、その女性がどうしたんだよ……」
「地下に入れられていた方なのですが、魔力が稀有なくらい強いんですよ、触れずに魔力だけ周りの物が破壊されます」
「待ってそれ申し子じゃない?」
ガタッと立ち上がる。カルデラは、首を傾げつつ、確証はないと言う。
「魔法おも凌駕する奇跡、とやらは見られません。今のとこ破壊だけですね、私の結界で防げていますし」
カルデラの結界で防げてるなら、申し子ではないかもしれない。カルデラの魔力も高いけど、申し子に勝てるわけがないから。
バタッと座る。しかし、メリ・カンボワーズって言ったかな、どこかで名前聞いたことがある気がする。どうでもいい人間の名前なんて忘れちゃうから、なんかでちらっと見ただけかな。
「地下にいたってことは危険人物だよな」
「はい、十年地下にいたそうですよ」
「よく生きてたな……」
「一応食料は渡されるし、生きれるでしょ。それよりも、よく話せたね? 地下にいる魔術師ってよく発狂状態になるけど」
原因は不明だが、地下に魔術師が長く入っていると、発狂状態になる。症状は人によって様々で、ずっと同じ単語を言ってたり、逆に何も反応がない奴もいる。人間って面白いよね。病に関しては専門外だから研究はしないけど。そういうのは、シザフェルにおまかせだよ。
「問題なく話せはしましたが、健康状態は非常に悪いですね、しばらくは私やマーベスが支えなければ階段を降りたり、長い間歩いたりはできませんでしたから」
「それで顔出さなかったのな」
彼がここまでの労力を使うとは、それだけ魔力が高いのか。申し子を探すのに役立つかな。
カルデラは彼女を監視下に置くつもりみたいだし、このまま彼に任せるか。
「僕もその女性気になるから、報告だけは怠らないでよ、まだ申し子の可能性はあるしね」
「本人が申し子でなくとも、探し出すきっかけにはなるかもしれませんね」
わかってるじゃないか。自分は大きく頷く。
この時には既に二十九歳。リトルナイトメアを患った者の寿命は三十前後、自分には時間がなかった。申し子は産まれているはずなのに、その尻尾すら掴めていない。カルデラが見つけてきた女性がその足がかりになればいいけれど。
そうして、メリくんを中心とした物語が始動したんだ。カルデラが珍しく人を褒めたことを、もう少し考えればよかったかもね。今更だけどさ。
「次が最後の振り返りだよ」
黙って聞いていたフローラは頷いた、自分は目を瞑り、最後の日を思い出し、喋り出す。
ディウムのセリフの通り、次がEpisode最終話です。
彼の人間らしさが出ていれば嬉しいなぁと思います




