第二話 【王になれなかった日】
自分が十二歳になった時。王位継承の義が執り行われた。自分が考えたより早かった、どうも王になる気がない事がバレているようだ。
「焦らなくたっていいのにさー」
「王としちゃ、ディウムを縛りたいんだろ」
ヴァニイとは殆どの時間一緒にいるけど、彼の態度は変わらない。自分に生意気なのも相変わらずである。文句はないけどね。
王になるってことは、自由がなくなるということだ。それは自分にとっては嫌なことでしかなかった。これから死ぬまで縛り続けられるのだ、マシーナという国は好きだけど、申し子探しの妨げになる。
大広間に行く。物々しい雰囲気が漂う。式が始まり、王が自分の名を呼ぶ。渋々立ち上がった時、待ったがかかった。
「彼と、戦わせて、欲しい」
その言葉は率直でいて、カタコトだった。自分もヴァニイも声の主を見て、固まる。その姿が自分と一緒だからだ、即ちリトルナイトメアを患っているということである。
「余は、ミカニ、見た目の、通り、そなたと、一緒」
ミカニと名乗った男は自分を見る。その病でよくまぁ王に立候補したものだ。短い生涯なんだから、有意義に使ったらいいのに。君にはそれができる自由があるだろう。そんな嫌味を飲み込む。
「僕と戦いたいの?」
「うむ、勝った方、王になる、良いか」
王を見る。王は困り顔をするだけだった。勝った方……ね。ま、こちらとしては願ったり叶ったりだ。負ければ自分が王になる必要はない。
「いいよ、その挑戦受けよう」
「感謝、する」
こうして、勝負をすることに決まったわけだけど、まぁ、結果はお察しの通りさ。
自分は負けた。その言葉の通りだよ、ミカニは強かった。魔力というか、精神力かな。そもそも自分は戦闘は得意ではなかった。体が弱い関係上、いくら魔力が高くたって使いこなせやしない。それがティガシオンにかけられた呪いだ。
「良い、勝負だった」
「よく言うよ、まぁいいけど、ねぇミカニ、頼み事があるんだ」
「頼み、事?」
「君が王になるのは僕は構わない、だからさ魔法道具研究所を僕に任せてよ」
ミカニは首を傾げた。しかし、頷いてくれる。
自分はこれで良かった。ただ、ティガシオンとオルガンにとっては良いことではない。それは自分だって理解してる。この選択がどれだけ、阿呆だと言われるかなんて、自分は慣れているけど、ヴァニイは違う。それが気がかりだった。
「まさか待ったが、かかるとはな」
夜の中庭で、しみじみとヴァニイは言う、自分はどう切り出そうか迷い、結局言葉が見つからなくて、率直に言うしかなかった。
「別にヴァニイが付いてくることはないよ」
「あ?」
「オルガンからしても、後指刺されるだろ? 無理して研究所に来なくたって……いひゃい」
言葉の途中で頬を抓られる。痛い、痛いよヴァニイ。
「俺はお前が王にならなくたって構わんと言った」
「そうだけど、批判受けてまで来るかい?」
普通に生きる道もある。オルガンとして、次なる王候補、つまりは妹に仕えるって道もある。本当に王になれるかは知らないけど。
わざわざ爪弾き者になる必要なんてなかった。自分は一人でも生きていける、この道を進める自負がある。
「お前変なこと気にすることあるよな」
「一応気をつかってるんだけど?」
「俺に対してはいつも通り無礼講でいいんだぜ、リーダー」
ヴァニイは笑顔を向け、こちらに手を出す。それは、付いてくるという意思で、研究所で一緒に過ごしてくれるという意味だ。その手を勢い良く掴む。
「……後悔しても、僕は責任取らないからね!」
「おう、振り回してくれや、それを耐えれるくらいの教育は受けてるぜ?」
自分はこの頃から化け物とか、狂ってるとか言われていた。それは言動のせいだと認識していたが、制御出来ない部分である。
その化け物に付いてくるって時点で、ヴァニイは変わり者だった。自分はこの日、一人の人間として歩み出したと同時に、ヴァニイを縛ったのだ。それを一番後悔しているのは自分だ。自分は、周りが思う程化け物ではない、ただの人間である。人間だから足掻くのだ、人間だから自由を求めるのだ。ヴァニイはそんなことわかってないのだろうけど。
王という肩書きがないことは苦労した。一応ティガシオンの当主となったが、名前だけである。研究所にずっといたのはあるが、一王族に負けたというのは、存外後暗いものであった。それはヴァニイも同じで、オルガン家は、自分に従うヴァニイを理解できなかった。彼はそれを知って笑うだけだった。その笑顔が更に自分に後悔を覚えさせた。そんな感情に蓋をすることで、日々を保っていた。
自分の大袈裟な行動は、この高すぎるくらいのテンションは、癖なのもあるが、感情を隠すためでもあった。化け物のままでいようとした、それがせめてもの、彼への償いだった。




