第一話 【親友との出会い】
Episodeディウム、開始です!
煌めく星空の元立ち尽くす。メリくんに、戻り方を指南した自分だが、本人はここから動けずにいた。
「メリくんのこと言えないね全く、そもそも、僕は帰る場所もないんだよね」
呼び出された理由もよくわからないし。灯篭で来たって、申し子ってのは怖いな。呼び出せても帰せないし、帰る場所もないんだけどさ。
ここに来るまでの記憶もないし、どうすることもできないので、見て回る。天の川って確か死者と生者を別ける川なんだったけ。春華國の逸話なんて詳しくないけど。
「そち、暇そうじゃな」
「誰だい?」
唐突に話しかけられた。声をかけてきた主は、艶のある長い黒髪を一本に縛っており、その目は少し明るい黒茶だ。春華國の巫女と同一の見た目である。
「我はフローラと申す者じゃ、そちが良ければ、我と話しておくれ」
フローラはニコリと上品に笑う。こんな場所にいるのだから人間ではない、でも自分には関係ないかな。
「別にいいけど、僕が話せることはないよ」
「あるじゃろうて、我はそち自身の話が聞きたいのじゃ」
「僕の話?」
変な奴だな、自分の話を聞きたいなんて。
「我も暇なのじゃ、聞かせておくれ」
「ふぅーん、ま、いいや、暇潰しにはなるね」
目を伏せ思い出す。自分の起源、全ての始まりは彼との出会いだ。
ティガシオン家、それは王の家系で、物心がついた頃から自分は王になるための教育を受けていた。テーブルマナーから始まり、政治の全てを叩き込まれた。まだ小さい子供には理解できない物も多かったが、無理矢理覚えた。それが教育だから、リトルナイメアという病を患ってしまっている以上、自分は長くは生きれない。王位を継ぐのも早めであるから、いやでも覚えねばならなかった。
申し子のことを知ったのは、自分が五歳の時だ。たまたま城の中庭を歩いていたら、ツワブキの花が咲く場所に出た。その奥には木々が立ち並んでおり、何の疑いもなくその木に触れると、木は消えて、入口が現れる。
「なんだろうここ」
普通なら警戒するのだが、好奇心に負けたのか、警戒もなく入る。そこは空気が澄んでいて、不思議と落ち着いた。
奥には祠があって、そこには箱が一つ置かれていた。蓋にはティガシオンの紋章が描かれている。開いてみると、自分の瞳と同じ色の雫型の宝石が入っていた。触ると暖かく、魔力が込められているのがわかる。
「こんなに強い魔力初めて見た……」
それは衝撃だった。ここまで強い魔力を保持している存在が、この世界のどこかにいる。その存在なら、自分の病を解明できるのではないか。いやそうじゃない、この国を苦しめる魔力というものを壊せるのではないか。
蓋を閉じ、その場から出ると、木は元通りになった。きっとこの木も魔力で作られているのだろう。益々興味深い。すぐに城の図書室に入り、調べられるだけの情報を集めた。結果申し子という存在に行き着いた。
「最後はオルガンか……」
オルガン家、それは長きに渡りティガシオン家に仕えている家系だ。歳の近いもの同士を主従の関係としている。互いに自我がしっかりしてきた、七歳以上で顔合わせをし、そこからは殆どの時間を共に過ごすことが多い。
「丁度いい、その教育利用させてもらうよ」
自分の従者になるのは、ヴァニイという男だということは知っている。自分に仕えるように教育されているから、反抗してくることはないだろう。
この日から自分の全ては申し子探しに当てられた。そのためならなんだって利用した。王位なんて興味無いが、王になれば調べられるのでは、そんなことを考えていたが、その考えはすぐに払拭される。
「へぇー、魔法道具研究所か」
最後の申し子のために建てられた箱庭。その名の通り、魔具を研究するための場所で、王の干渉を受けない代わりに、隣国シザフェルへの牽制が任される。適任者が見つからず長年リーダーは不在で、リーダー代行として、数年で入れ替わっている。
「ここのリーダーできれば、少ない時間を有効利用できそう」
魔具か、魔力という邪魔を排除するにはいい。技術力を向上できれば、人は魔具に頼らなくていい、自然と魔力は使わなくなる。そこで申し子の力を使い、魔力という概念を破壊できれば、自分自身苦しまなくていいのだ。
リトルナイトメア。魔力が体に悪影響を与え、体は成長せず、高い魔力を全力で使おうとすれば、体が耐えられずに死ぬ。ティガシオンに産まれるリトルナイメアは、他の家系に比べ体が弱く、半分の力も出し切れない。長男である自分がこの病を持って生まれたことを、家全体が蔑んだ。それでも王にしなければならないと、必死に教育を施しているわけである。そんな風に思われているくらないなら、王位など降りてしまえばいい。
「許してもらえるか知らないけどね!」
ソファに横になっていた所を勢いよく立ち上がる。体全体を動かした方が、考えがまとまりやすい、とにかくまずは、オルガンの者に会ってからかな。
ヴァニイは自分と同い年であった。そのため互いに七歳の時に顔合わせが行われた。第一印象は硬そうだなって感じ。口うるさくないといいのだけれど。そんな風に思ってたら、ヴァニイがふっと笑い出す。こいつ……。苛立ちなど隠す気は無い、ソファから立ち上がりヴァニイを指差す。
「君! 僕のこと子供だと思ったろ!」
「いや、俺達子供だろ」
「歳と精神年齢は違うんだよ!」
こちとら、無駄に教育受けてるんだよ。王になれとか知らないけど、君よりは社会勉強してるんだけど。しかし、ヴァニイは何処吹く風である。真顔で机に頬杖ついている。
「失礼だね、一応君の主なんだよ僕は」
「そう言われてもなー、実感がないのよ実感が」
どうやらこの男は真面目にやるつもりがないようだ。まぁ、このくらい適当な方がやりやすいけどさ。
すとんとソファに座る。ずっと立ってると疲れるしね。さて、目の前の男を試すとしよう。
「僕はね王になる男だよ」
「そうだな」
まずは基本事項。でもね、こっからが本題だよ。
「でも本当にそうなるのかはね、知らない!」
「はぁ?」
予想通りの反応で嬉しくなる。人が呆れるくらい驚くのを見るのは好きなんだよね。
ソファから改めて立ち上がりヴァニイを見る。別にこの行動には意味はないが、身振り手振りは大きい方が注目を集めやすいって習ったんだよね。
「未来なんて知らないよ、仮に僕が王になってもさ、父上は嫌がると思うんだ」
「リトルナイトメアか?」
彼は即答した。へぇ、主のことよくわかってるじゃん。流石オルガン、教育しっかりしてる。
「そう! 全く面倒な病だよねー、呪いだかなんだか知らないけどさ、迷惑なもんだよ!」
「自業自得じゃね?」
務めて明るく言ったら、なんと生意気なものか。そうですよねー、君からしたら自業自得だよね。この病、申し子をティガシオンが雑に扱った結果だと言われている。つまり、神の呪いってわけで、オルガンはその呪った側だ。嫌だったら従わなきゃいいのに。
不満を隠さずいじけると、子供だと言われる。主に向かって随分な言い様じゃないか。そこまで言うなら、僕が大人だって証明してやろう。
「まぁでもね、僕はこの病嫌いじゃないよ」
なるべく子供っぽくならないように、声を多少低くして言うが、ヴァニイは軽くあしらってくる。オルガン、こいつにどんな教育したのさ。いいよ、構わず話すよ。
研究所の話を出しても知らん顔な彼に向かって、自分は願いを言うことにした。
「僕ね、あの研究所に行きたいんだ」
「なんでだ?」
あ、やっぱり気になる? そりゃ王になるはずの男がこんな事言ったら気になるよね? 気になるなら教えようじゃないか。
「申し子がいた場所だから! 彼女の研究はこの国の発展には不可欠だった! 魔具は凄いよ、平等とまではいかないけど、限りなくそれに近づけたんだ! 今まで魔術師でないと扱えなかった奇跡を、彼女は形にしてみせた! でもまだ不完全だと思わない?」
勢いのまま問いかける。ヴァニイは、は? と言いたげだ、魔具に不満がないとは幸せ者だね。
「機械は操作ミスがあるわけさ、あれで人が死ぬんだよね、魔具はその点魔力で遠隔操作が可能だから、少なくとも操作員は死なない、でも魔術師じゃないと使い、作れない。一般人は魔術師が魔力を込めたものを使うしかない」
機械は皆が使えるが安全性に欠ける、魔具は安全性はあるが、それは魔術師ありきである。平等と安全性そのどちらもなければ、道具の意味はない。それは魔具には不可能だが、申し子を調べる上では、今現在魔具の向上が最も近道である。
しかし、謳い文句は必要だよね。その上で、自分の希望を伝えれば、それなりに聞き入れやすい。
「道具はね、誰でも使えるべきなんだよ、いやそもそも魔力って必要かな?」
「魔力がいらないってのか? お前魔術師だろ」
彼の疑問は最もだった。それでいて、一番望んだ質問だ。彼とは上手くやっていけそうかも。
「そうだよ、魔術師だ、でも魔力に頼った技術では平等にはならない、それはさ理不尽だろ? この病にしたってそうだ、魔力があるから病も出てくる、それに気付かせてくれたから、僕は病が好きだよ」
どうも上手く伝わっていない。まぁいいさ、理解できなくても、理解させるし、どうせ付いてきてもらうもんね。だから目的はさっさと言ってあげるよ。
「僕ね申し子の力を使って魔力を破壊できないかって思うんだ」
「破壊?」
訝しげな顔をされる。強い言い方だったかな、今更訂正もできないけど。できないから、やけくそで言う。
「そっ! そしたらより良い道具が作れると思うんだ! だってそうだろう? 魔力がなければ、道具に頼るしかないもんね!」
彼の表情は曇ったままである。あーこれあれだ、申し子の存在そのものを疑ってるやつだ。オルガンのくせに疑うとは。
仕方ない、怒られるかもしれないが、証拠を提示するしかない。とっておきを見せてあげる。ヴァニイを強引に外に出し、あの場所へ向かう。自分が申し子を知ったきっかけの場所に。この場所についても多少記述があった、とはいっても、入った記録はなくて、入れたらしいという噂程度だけれど。
「この場所ね、リトルナイトメアを患っている者しか入れないんだ、一番最初に患った王は、それを良いことに、これをこの場所に置いた」
喋りながら祠に行き、箱を取り上げると蓋を開ける。ヴァニイは首を傾げている。
「なんだそれ」
「使い道が分からない魔力の宝石だよ」
使い道というか、誰も使えないものだ。こんな魔力が高いもの、使える魔術師なんていない。そんな感じの記述だった。無益な争いを避けたかったのだろうが、単純に怖かったのかもしれない。得体の知れない魔力なんて傍に置きたくはない、でも外に放りだすのも危険だから、たまたま入れたこの場所に置いた。
「ここはね、入ろうとしたら一定の場所に転移するんだ、それは昔かららしいよ、理由はわからない、なぜそこに転移するのかもわからない」
蓋を閉じ、元あった場所に置く。
誰がどんな理由で作ったかわからない空間。そこにある、同じくわからない宝石。なんだか、溢れ者である自分みたいだった。一人で孤独にいなきゃいけない、まるで世界から隔離されたような気分になる。
それは懇願だったと思う。自分では気付きたくない願いだったんだ。強がっていたかった、それが望まれていたし、弱くなってしまいそうだったから。それでも聞かずにはいられなくて、ヴァニイを振り返る。
「ねぇ、ヴァニイ、君は僕が王じゃなくても付いてきてくれるかい?」
王になる気のない主なんて、従う意味がないと思われるかもしれない。仮になったとしても、その時間は短いものだ、いくら教育とはいえ、彼本人の意思はある。恐る恐る手を伸ばす。その手をヴァニイは迷いなく取った。
「当たり前だ、俺は、ディウム、あんたに仕えるように教育されてるからな」
その言葉に嘘はなかった、なかったと思いたい。彼が自分の意思で、自分に付いてきてくれれば、少しは孤独が紛れるかもしれないから。
嬉しかったんだ、だってヴァニイ、君は自分の初めての友人で理解者だったから。
このEpisodeは、一応ディウムがこんな奴ですって感じの、ネタばらし的なものがあるんですが
書いてて、作者ですら「こいつ何考えてんだろ?」って思うので、やっぱり何考えてるのかはわからないです。
しばらく、Episodeディウム続きますので、楽しんで頂けましたら幸いです。




