第一話 【葬儀】
四章始まります!
年初めの一月。本来であればクリスマスが過ぎ、年が変わるめでたさの余韻が残るものだが、白夜城の異名を持つマシーナ城は、暗い雰囲気であった。
黒い服を着た、各国の代表者や王族、ミカニ王に恩がある貴族等が集まっている。
「一年持ちませんでしたね」
カルデラが人々を眺める。シザフェルとの緊張状態の頃から体調が悪かったミカニ王だが、終わってからも回復することはなく、年が変わってまもなく亡くなった。いつ亡くなってもおかしくなかった、しかし、シザフェルとの決着がついたので、一年は持つと思われていた。現実は甘くないものだ。
私はあまり関わらなかったが、慈悲深い王であることは知っている。理由はあったがディウムには処罰は与えず、シザフェルとも和解しようとしていた。ガレイと私の問題も迅速に対応してくれた、彼の王の存在はマシーナにはなくてはならなかっただろう。実際葬儀に参列した者達はマシーナに留まらず、春華國や海を渡った遠い異国の地の人々までいる。アムレートからは、王とリテア様、セヘルと各団の団長、副団長、時期団長、副団長、他団員達がいる。一部貴族や王族も来ている。マーベス、クリアは、今年から研究所に住み込みとなるため、向こうでの準備が終わったらヴァニイと一緒に来るそうだ。
あまり人が多いと酔ってしまうため、葬儀が始まるまで私は外で待っていることにしたのだが、これだけの人数が集まると、いかにミカニ王が信頼され、愛されてきたのかがわかる。ただ、私には知らない人が多いので蚊帳の外だ。
カルデラが他の人に捕まってしまったので、一人で中庭を眺める。葬式まではまだ時間がある、さてどうしたものか。
「おー! なんだこれは! 光っているぞ!」
「……子供?」
各国から人が来る関係上葬儀は夜に執り行われている。つまり、今外は暗く、中庭にある噴水は淡く青にライトアップされているのだが、そこに小さな女の子……? がいる。クリーム色の長い髪は、地面に付いており踏んで転びそうなのだが、それよりもその子は少し透けている気がする。それに、服装も真っ白だ、葬儀に来た者とは考えにくい。
「む? そこのお前!」
女の子は私に気付いたようで、こちらに駆け寄ってくる。よく髪踏みませんね。瞳は考えた通り金色だ。マシーナの申し子と同じ見た目である。
「ここは、マシーナか?」
「はい、マシーナですよ」
「ほ、本当に……か?」
不安げにするので、深く頷く。きっと記憶の中のマシーナから変わりすぎているのだろう。
女の子は白夜城を眺める。白夜城自体も白く光って見えるので、その目は眩しそうに細められた。
「なんと……俺が寝ている間に変わったものだ……ん? というかお前」
ちょこちょこと可愛らしく、私の周りを何周かする。本当に子供のようである。微笑ましい。
「その俺を小馬鹿にするような笑顔は、イナンナだな! 俺は子供ではないと何度言ったらわかるんだ!」
「メリ・クロムです、ネメシス様」
「……クロム?」
首、というか体ごと傾げられる。あれ、ティガシオンって女神の血筋じゃないよね。行動はディウムと一緒なんだけど。
「ふむ、よく見るとイナンナではないな、でもクロムの王ではない、何者だ?」
「イナンナ様の子孫ですよ」
しばらく私の顔を見つめていたが、納得してくれたようだ。大袈裟に頷くと距離を取られた。
距離というか、噴水の前に行く、辿り着いたところで、私を振り返って見る。そして声高らかに宣言した。
「俺はネメシス! このマシーナを守護している女神だ! よろしくなお嬢ちゃん!」
「お、お嬢ちゃん……?」
何故そこだけヴァニイと一緒なのか。いや、大体の口調は似てるんだけど。見た目と行動がディウムなのよ。
「して、この光ってるのはなんだ?」
「それは噴水ですよ、水が電気の力で吹き出しているのです、灯りも電気です」
水と聞いて気になったのだろう、ネメシスは手で水を触ると、パシャパシャと手遊びを始める。子供だ、初めて噴水を見てはしゃぐ子供でしかない。
「凄いな! 技術の無駄だが!」
「それを言っちゃいけません……」
女神に言われたら、作った人泣くわよ。聞こえないからいいのだが。
全てが珍しいのか、ネメシスはあちらこちら、中庭を縦横無尽に動き回る。よく動く女神様だな、と眺めていると、私の前に来て立ち止まる。
「なぁ、お嬢ちゃん」
「なんでしょう?」
「人が多いな、葬儀か」
先程までの高いテンションはどこへやら、ここから少し離れた廊下に、行き交う人を見て、こちらに問うてくる。
「はい、マシーナの王が先日亡くなりました」
「王が? それは大変な時に起きたものだな、本来ならアムレートにいるであろう、お嬢ちゃんがマシーナに来たのは、葬儀に参列するためだな」
「そうです」
じっと人を見る彼女は何を考えているのだろうか、王に捨てられた、彼女にとっては嫌な記憶が掘り起こされているのかもしれない。
「国を支える王には敬意を払わなければならない、俺も参列しよう」
「ネメシス様が? まぁ、見えないですし大丈夫だと思いますよ」
なんか、普通に移動できそうだし、特に問題はないだろう。
コツコツと足音がすると思えば、背後にカルデラが来る。
「メリ、葬儀が始まりますよ」
「ひぇっ……クロムの王!」
ネメシスが立ち上がった私の背に隠れる。あれ、物凄く怖がられておりますが。
「メリ? どうしました?」
「えーっと……」
「お嬢ちゃん! 俺のことは言うな! 見えないなら好都合! 俺はクロムの王が苦手なのだ! 怖いからな!」
クロム王何したんですか、隣国の女神様に怖がられてるなんて相当だぞ。
「なんでもないわ、始まるなら行きましょう」
「はい、あぁ、マーベス達が先程来ましたよ、終わったら挨拶するといいでしょう」
カルデラの手を取り歩く。ネメシスは、私の背後にピッタリくっつき、始終カルデラを警戒していた。
葬儀が始まると、それでも重々しい雰囲気が更に重くなる。ネメシスは、見えないことを良い事に、動き回らないかと心配になったが、私の膝の上でじっとしている。カルデラが見えたら怒るんだろうな。
「王は、シオンの家系から変わったのだな」
喋らなかったネメシスだが、ふいに喋り出す。それは、ミカニ王の遺体が棺に入れられ、城内墓地に運ぶために移動していた時だ。
「ティガシオンは今王の座を降りています、今はですけれど」
周りに聞こえないよう小声で答える。女神は浮けるようで、私の顔辺りでふよふよしている。視界にチラチラ入るから気になる。そのお陰で前を見た状態で小声での会話が可能なんだけど。
「今はとの物言いは気になるものだ、あそこに任せるのは辞めといた方が良いぞ、国が破滅する」
女神様辛辣ですね。被害者だから言うのだろう。
墓地に到着し、予め掘られていた穴に棺が入れられる。その上から土がかけられた。埋め終わり葬儀はお開きとなる。時間が時間なので、宿は全員用意されている。国内に家がある人は各自帰ったりもするが、泊まる者もいるようだ。
「よ、嬢ちゃん」
「ヴァニイ様」
また、カルデラが捕まったので、私はミカニ王の墓の前で、ゆっくりと手を合わせていたのだが、ヴァニイがやってくる。多分挨拶しに来てくれたのかな。
「一年持ちませんでしたね」
「あぁ、仕方ねぇよ、リトルナイトメアってのは死ぬ時は唐突だ、まだミカニ王は兆候があっただけ、混乱は免れたがな」
ディウムの時を思い出しているのだろう。ヴァニイも、墓を見る。そんな彼の前にネメシスは行く。
私の時と同じように、ヴァニイの周りを何周かして、目の前でピタリと止まる。その顔は嬉しそうだ。
「おぉ! オルガンの君ではないか! 俺だ! ネメシスだ! って、見えんか……」
しょぼんとするその顔に、なんとも言えなくなる。イナンナも、ヴァニイを見てオルガンだと言った。似ているのだろうとは思っていたが、こうも感情が伝わりやすいと心が痛むものだ。
「嬢ちゃん? あんたが暗い顔するこたーないぜって言っても無駄か、ディウムの時ですら暗い顔したもんな」
私の頭を撫でようとして、その手を止める。急に後ろから抱き寄せられ、それをやった本人であるカルデラはヴァニイを睨んでいる。
「ヴァニイ?」
「お前なぁ、その独占欲なんとかならんのか」
「メリに触るのは誰であろうと許しませんよ」
ネメシスが悲鳴を上げ、ヴァニイの後ろに隠れた。もしかして、クロム王も圧力をかける人だったのかな。イナンナの話では気さくそうだったけど。
私を抱き寄せて満足したのか、カルデラの手が解かれる。もう少し抱いてても良かったのだが、言わないでおく。
「ティガシオンの動きは?」
「お前切り替えも早いのな、今んとこはねぇよ、オルガンもな、しかしお開きになったからな、すぐ動くとは思うぜ」
「むっ、今日は王の葬儀だろう、騒がしくするのは無礼だ」
ネメシスの意見に同調したいところだが。私以外は聞こえていないので今は置いておく。
一応と、王太子であり、王位継承者である、シエギがいるであろう、客間に行くと扉の前で既に騒がしい。この声はアダートだ。
「言ったそばから、だな」
「この魔力、シオンの家系だな、王の座から退いたというのに、恥ずかしくないのか」
女神様が辛辣すぎて私は苦笑いが出てしまう。この人、シオンと上手くやっていけてたのかな。
私達は意を決して扉を開ける。部屋の中には、シエギ、ガレイ、バレットそしてアダートがいた。
というわけで、四章はマシーナです。
今回活躍致しますのはヴァニイの予定です
頑張れ苦労人!




