後日談 四話 【秋の祭り】
普段は絶対に着ない水色の下地に白いフリルがついたエプロンドレス。丈は少々短めで、袖も肩より少し下である。オーバー・ザ・ニーレングスと呼ばれる、膝上まである靴下は、黒と白の縦縞模様で、靴は黒の厚底のアンクルストラップサンダル。スカートの後ろには真白くて丸いしっぽが付いており、満面の笑みのリテア様により、白いうさぎ耳が付いたカチューシャが付けられた。
「はい可愛い!」
「り、リテア様ぁ……」
今日は十月三十一日。アムレート南部農村地であるギュルスの町には、秋の収穫祭というものがあるらしい。
秋に取れた野菜を仮装して土地神が祀られている祠に捧げる儀式らしく、その珍しさにアムレート中心部ではハロウィンと名付けられ、親しまれた。親しまれたというか、元が地元の祭りなので、色々改変された結果、ただの仮装大会と化している。特に城ではその傾向が強い、強いというかリテア様の趣味よね。
私は白兎だが、リテア様は猫だ、紫の。どうやら私と同じ童話から取られたものらしく。丈の短いフリルの強いスカートは紫で、青紫の横線が入っている。猫耳カチューシャも紫だ。尻尾も同様であり、私より全体的に甘めである。でもお化けっぽい、ハロウィンの仮装というのは、理由は分からないが人外モチーフである事が多い。その中で用意しやすかったのが、この服だそうだ。紫色だから、リテア様の髪の色にも合っている。
「あ、あの……」
ガラッと個室のカーテンが開く。そこにはクリアがいた。
クリアの衣装は全体的に水色で、透き通るような氷の魔術師らしい衣装だ。
「リテア様、何の仮装です?」
「ギュルスの土地神様」
崇められる側の仮装ですか……。
「あの、これ本当に私が着ていいのですか? 魔術の服なんてお高いのに」
クリアの衣装からは魔力が読み取れる。水色のスッキリとしたラインが際立つドレスは、袖がなく、薄水色で透け感のあるストールを羽織っている。肘より少し下の手袋と背後には妖精の羽が浮いている。ストールと羽は魔力で作られた服で、魔力で作ると何故か透けるのである。肌の露出が結構あるのだが、マーベスに怒られないのかな。
というか、リテア様はなぜクリアに土地神の衣装など着せようとしたのだろう、私と彼女は童話からなのに。
「なんかね、クリアに似てるらしいのよ、土地神様」
「似てる?」
それって、土地神様がガイアだったりしないだろうか。詳しく聞こうと、リテア様に詰めよろうとした時、クリアが一つの部屋を見る、そこにはルストが顔だけ出した状態でいた。
彼女は、クリアのようには勢いよく出て来れなかったようで、じっと私達を見ている。
「ルスト様?」
「あの……本当に出なきゃダメですか……」
ずっと話を聞いていたのかもしれない。そして中で何故か座り込んでいるようで、顔の位置が低い。付けられた水色のカチューシャが落ちないか心配である。
「出てらっしゃい!」
「きゃあ! やっぱりダメですって!」
リテア様が勢い良くカーテンを開く。クリアと同じく水色の衣装だが、こちらは色が濃い。袖もルストの方が長く、肩より少し下。肘より上まである手袋。なにより、胸元が結構大きく開いており、青く煌めくチョーカーが、大人の色気を際立たせている。本当に同い歳かな。
「これは?」
「シンデレラ、似合うでしょ?」
なるほど、クリア程全体の露出度はないが、胸元の露出度は一番高いので、これはこれで、ミラフに怒られないか心配になる。
私、リテア様、クリア、ルストと来て、最後に出てきたのはローザだ。
「皆様可愛いですわね!」
「ローザ……?」
バン! とそれはもう勢い良く出てきた彼女は、魔術師団制服を着ている。
「わたくしは魔術師団専属だから、魔術師団員と同じだとマリア様がくださいましたの!」
「お母様……ってそうじゃない、仮装じゃないでしょそれ」
「わたくし一般人ですもの、魔術師団の仮装ですわ!」
あ……そう。もうなんでもアリね。まぁ、シンデレラもお姫様だし、人外じゃなくていいのか。
私達は着替え終わったので部屋から出る。アムレートの城主催の祭りは、どちらかと言うとパーティなので、春華國の鎮魂祭のような賑やかさはなく、ハロウィンというのもあって、仮面舞踏会のような雰囲気である。
「ルスト様、大丈夫ですか?」
「私、騎士なんですけど……」
部屋から出て、会場となる大広間に来たはいいが、ルストは始終浮かない顔である。煌びやかな衣装がどうも苦手らしい。綺麗で可愛いのだが、本人は似合わないと考えているようだ。
「メリ、随分と可愛い衣装ですね」
「カルデラ、リテア様の趣味よコレ」
女性達は仮装させられたのだが、男性達は仮装をしていない、ハロウィンと銘打っているが、ただのパーティなのである。マギア王がパーティ好きなんだろうな。
カルデラは兎耳を気に入ったようで、私についている耳をずっと触っており動けなくなる。触り心地良いもの好きなのかな。今度毛布をふわふわにしよう。
「女神様は堂々としてますね……」
「私そんなに露出度無いですからね」
カルデラを気遣ってなのか、露出度は他の人たちよりない。ローザは置いて置いて。
対してルストは、胸元が開いてるのと、本人がそれなりに大きいのもあり、チラチラと男性方から見られているのが、更に落ち着かない要因になっているようだ。
「胸が小さくありたかった……」
「贅沢な悩みですわね」
隣にいたローザが睨むようにルストを見る。私は気にしたことないけど、ローザは胸が小さいことを気にしているようだ。人それぞれ体にはコンプレックスがあるものである。
どうやったら注目を集めないかと、ルストは悩んだ結果、カルデラの背後に回る。カルデラは全く興味を示さず、私の兎耳を触っている。
「ねぇ、そろそろ離してくんない?」
「嫌ですよ、私がいればメリが話しかけられることはありませんからね」
全く、カルデラの独占欲は底知れないわね。私が呆れていると、背後からひゃあ! と叫び声がする。声の主はルストだ。
「み、ミラフ……様」
「様は取れって言ってるだろ、んでこれ着てろ」
ミラフは、自分の上着をルストに羽織らせる。そして、リテア様をじとっと睨んでいる。睨まれたリテア様は、そちらを見ないように顔を逸らした、やっぱり怒られてるんじゃないですか。
ルストはぎゅっと上着を掴みつつ、ミラフに礼を言い、そのまま羽織ることにしたようだ。クリアがうんうんと頷いている。
「クリアは露出度とか大丈夫?」
「問題ないですよメリ様!」
「いや問題あるからねクリア」
いつの間にいたのか呆れ顔のマーベスがいた。何処から出したのか黒い布を持っており、元々羽織っていたストールを取ると、クリアがすっぽり収まるくらいの大きさがある、その黒い布をクリアにかける。ちょっと透けてるな。
「これ、マーベス様の魔力ですね」
「そ、まぁ即席だからそんなに長くは持たないよ、でも、無いよりはマシだろ」
マシというか、これはあれだな、自分の魔力を纏わせておきたいんだな、別の人の魔力をクリアが羽織ってるのが許せなかったんだな。カルデラがそうだもの。
三者三様とは言うが、反応が様々で面白い。とりあえず、マーベスには露骨に怒られなくて良かったですね、リテア様。
「私の見立てだもの、皆可愛いでしょ?」
「露出度は考えてほしかったよリテアさん」
「同じくだな」
「二人とも怒らないでよ……」
マーベス、ミラフから速攻で苦言が申され、リテア様は凹む。婚約者がいる人に露出度がある服はダメですよ。
「楽しげ、ですね」
「あら、セヘル、私怒られてるけどね」
怒られた割に肩を竦めて言う、男性達の反応見て楽しんでいるな。理由はわからないでもないが。
「僕は、見れないので、寂しいです」
「誕生日パーティの時と同じこと言ってる」
リテア様は呆れているが、ローザは満面の笑みで私を見る。私は小さくため息を吐いた。
最近わかったことがある。私、人混みが本当に苦手。すぐに酔ってしまい、中庭に出る。こういう場面は、カルデラがすぐに誰かに捕まるので、私は蚊帳の外だ。時期副団長としては挨拶が必要だと思うのだが、魔術師相手だと私がいたら話にならない、魔力が高いと怯えてしまうので。
一般人相手だと、カルデラが牽制してしまうので、それはそれで話にならず、仕事の邪魔にしかならないので離れて見ていることが多い。
「私、社交の場では役立たずね」
ルストは、今日が時期副団長としてのお披露目なので、丁寧に対応している。
やっぱり彼女は大人だし、ミラフが副団長に選ぶのも頷ける。私はそもそも、カルデラに連れてこられたのだ、魔術師団もこの国も詳しく知らない。イナンナと話したことにより多少他よりも生い立ちは知ったが、それだけだ。
「ギュルスの土地神か……」
女神達はどうも私にしか見えていないらしい。そして、アムレートを守護しているガイアはこの城にはいない、城の場所が変わっているからだ。彼女の話では、逃げる時に城から北へ移動したと言っていた。ギュルスは南部にある町だ。彼女がいる可能性は高い。
しかし、会ってどうするのか。マシーナの女神、ネメシスも気にはなるが、会う意味は今のところないのだ。それがこの国のためになるのだろうか。
「申し子って言ってもねぇ」
鎮魂歌は確かに力だろうけど、歌えばいいってものでもない。シザフェルの城では、壁とか作れたのに、終わってからやってみたらやっぱりできない。私の魔力は相変わらず猫のように気まぐれである。
会場の方を改めて見ると、リテア様もローザも誰かと話している。ルストはミラフと一緒にいる。クリアとマーベスはマシーナの人達と話しているようだ。なんだか自分だけ置いてかれたような気分になる。
今まで、申し子だからと色々あったが、大人の社会に入ってしまえばそんなもの関係ない。シザフェルとの戦争が終わりを迎えようとしている今、私に必要な能力とはなんなのか。
「女神様って言われてるから、皆付いてきてくれてるだけなのよね」
ぐっと背伸びする。女神達と会話する。それは私にしかできないことだ、まずはそれをやることにしよう。
「よしやろう!」
考えても先には進まない。皆のように器用には生きられないけど、私は私のできることをする。今までそうしてきたのだから。
これにて後日談は終了です。
次章は一体どこへ行くのか……
また、次の話でお会いしましょう!




