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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【三章 鉄の国の鎮魂歌】
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第十話 【メリの決着】

 客室にて、喧騒を眺める。喧騒と言うか言い合い、私と同じように、訝しげな顔をしてカルデラも眺めている。

 言い合いをしているのは、コーロと姉様、それから両親だ。

「メリを捨てたのはあんたらでしょうが!」

「親に向かってなんて口を!」

「リリフ、親とか関係ないですよ、今更なんです」

当事者は置いてけぼりで、話し合いとも言えない言葉が交わされている。

 シザフェルとの戦争から数ヶ月、マギア王が、シザフェルにいた両親をどうするか、私に掛け合った。私はどうでも良かったが、姉様やコーロは違うだろうと、話し合いの場を設けてもらったのだが、この通りである。私いっつも、喧嘩眺めてるわね。

「メリの母はメイデン寄りなんですかね」

「かもしれない」

カルデラが私を膝の上に乗せて、抱きしめつつ、両親を睨む。

 確かにアクリウムはイナンナの血筋だが、メイデンの血筋でもある。これは、アザエル、プレスティを見ればわかるが、二人も対照的だ。どちらに寄るかで性格は変わってくる。父は単純に元から母に似ていたのだろう、姉様はイナンナに寄ったのだと思う。

 姉様にはまだイナンナの話はしていないし、両親には勿論していない。コーロはマギア王と共に聞いている。

「そもそも、メリがシザフェルに来ればなんも問題なかったのよ!」

「は?」

普段温和なコーロの声が低くなる。カルデラも引き攣るくらいには怖い。

「リリフ、今の言葉は聞き捨てられませんね」

「な、何よお姉様」

母も異常な雰囲気を感じとり、勢いがなくなる。姉様は言葉を出せずにいる。

「メリ様をシザフェルに渡せ? 私は身内をあんな場所に売る気はありませんが、カルデラ様がそれを許したらぶっ飛ばしますよ。まぁ、絶対、絶対に、有り得ませんが」

静かに怒りが籠った声であった。ヴァニイがディウムに反抗した時に似ている。女神が産んだ家系であり、申し子を産んだ家系だ、私に関することだから、怒りを隠さないのだろう。コーロの場合親族というのもあるだろうが。

 二人は睨み合う、私なんか喋った方がいいかな。色々訂正すべきなのか、無視すべきなのか。

「シザフェルは発展途中よ、メリは発展に必要だってアザエル様が」

「その考えが間違っているのです、メリ様を閉じ込めるのは逆効果ですし、なんで良いのか理解ができませんよ」

噛み合わない会話に、知っている者と知らない者って感じがする。姉様が困った顔を私に向けた。姉様、説明不足でごめんなさい。

「メリにはその力があるんでしょ?」

「使い時というものがあります」

「……コーロ様、母様一旦落ちついてください」

このままでは終わらない。私が喋らなけばならない。

 母がなぜシザフェルにいたのか、その理由は知らないが、あの国に固執するのも、また血筋なのだろう。魔力が引き寄せているのかもしれない。その母にこれを言うのはどうかと思うが、わかってもらわなければならない。

「シザフェルは、かつて自国の守護者たる者の怒りをかっています、イナンナ様が眠りについた今、シザフェルがどうなるかはわかりませんが、発展する事は暫くないと思いますよ」

マシーナは、シザフェル統合には踏み切らなかった。一応再生の道を提示した。それは、ミカニ王の慈悲だ。管理できないのもあるが、あの国が、国民が、自分に合った王を選び、今度こそ国として成立させなければならない。そこに私はいらないだろう。彼らがそれを決めたのだ。

「アザエル様にも言いましたが、私がシザフェルに与することはありません、その必要もないと考えます」

「随分偉そうなことを言っているな」

喋らなかった父がこちらを見る。偉そうと言われましても、申し子は一応そういう存在だ。私にその力があるとは思えないが。

 父の態度に、カルデラは牽制を込めた視線を送る。喋らないの偉いわよ。

「シザフェルに来いと言ったのはそちらです、しかし私にだって拒否権はありますから」

「そうよ、メリの気持ちが一番だわ、国の発展だが、なんだか知らないけど、結局人として扱わないとこなんかに渡せないわよ」

姉様が手を仰ぎ、しっしっと払う仕草をする。話を理解しなくていいから、諦めてくれって感情が伝わればいいのだけれど。

「親に反発すると?」

「反発と申しますか、本能的に嫌です。あの国には前科がありますから、私自ら死地に飛び込むほど馬鹿じゃないですよ」

父がわからないのは仕方ない。カンボワーズは女神様とは一切関係ない。問題は母だ。アクリウムでありながら、危機感がないとは、母も力が強いなら違和感くらい持ってもおかしくないのに。

 じっと母を見る。しかし、母は私を見もしない。基本的に私には興味無いのよね。

「母様、メイデンの血がそうさせるのかもしれませんが、私はシザフェルのためには動けませんよ、私が愛するのはここアムレートですから」

「メイデンの血? 何を言ってるのかしらないけど、シザフェルは良いとこよ、厳しい環境ではあるけどね」

住めば都って感じではないかな。やっぱりメイデンに似たのだろう。

「私にはその感覚は理解できないでしょう、私アクリウムなので」

「はい?」

「アクリウムは団長家系の一つです、つまり王に長年忠義を尽くしてきた家系。その名には、最後の王が付けた女神様の渾名が使われています。私もまた王に、このアムレートいう国に忠義を尽くす側です、メイデンと血を同じくしていようと、その考えは変わりません」

母には説明していないから、わかるはずはないのだが、それでも強く言い放つ。血筋が同じこと、それでも敵対することが伝わればいい。

 母はため息を吐く。そして立ち上がった。

「来る気はないってことね?」

「えぇ、何があっても行きません」

「あなた、戻りましょう」

母は私に背を向ける。父はそれに続く。母がシザフェルに行くのであれば、それでいい。王を決め、新しく国を始めるのだろうから。

 パタンと扉が締まる。コーロが大きく息を吐く。

「本当に姉妹なのか疑いたくなります」

「お疲れ様ですコーロ様」

申し子や、その家系に生まれた者は、人に、国に固執する傾向があるように思う。女神様の守護者としての本能が引き継がれているのかもしれない。それは母とて例外ではないはずだ。

「私達アクリウムは、元はシザフェルの者です、母はあちらに寄ったんですよ」

「迷惑をかけましたね、メリ様」

コーロにお辞儀をされ私は慌てて、大丈夫ですよと返す。

 後味はあまりよくなかったが、これで両親は私に関わってこないだろう。元より申し子の力も半信半疑だったろうし、丁度良いくらいだ。


 話し合いも半ば強制的に終わったので、魔術師団待機所に戻る。

「女神様ー!」

待機所につくと、プレスティがこちらに来た。あれ、戻ってきたの。

「プレスティ、シザフェルに残るものだと思ってたわ」

プレスティはあれからずっとシザフェルにいたので、てっきり国の立て直しに協力するのだと思っていた。しかし、首を横に振る。

「俺は一生魔術師団だよ、ま、自分が生まれ育った国だから、協力しないこともないけど、基本は向こう任せさ、それになんか協力したくないのはあるかな」

協力したくない……か。プレスティにも説明する必要があるかな。

「あのねプレスティ、驚かずに聞いてよ?」

私は女神様の話をする。念は押したが、驚くなってのは無理があったようで、目を見開き固まる。

 しばし見つめ合う、そしてようやく口を開いた。

「俺、カルデラ様、女神様と血が繋がってるってことですか?」

「そういうことよ」

「……えぇぇぇ!」

絶叫が響く、周りの団員がなんだなんだとこちらを見るが、私が笑顔を周りに向けると、すぐに各々の作業に戻った。私時期副団長できてるみたいね。

「プレスティ、わかっていると思いますが」

「は、はい! 誰にも喋りません!」

カルデラに脅されビシッと背筋を伸ばす。ごめんないねプレスティ。


 諸々の決着がようやっと済んで私はソファに座る。ふわりとシナモンのような香りがして、落ち着く。隣にカルデラいるけど。

「でもよく一日で決着つけたわね、こんなにあっさりできるなら、最初からしたら良かったのに」

「シザフェルが国として成り立っていないのは前からですが、ミカニ王は武力制圧を好きません、話し合いでどうにかしたかったんですよ」

ミカニ王らしい理由だな。あの様子じゃ話なんて聞いてくれなかったろうに。

「ま、結局それもティガシオンに邪魔されたわけですけどね」

つくづくティガシオンとシザフェルにはかき乱されるものだ。これ、ミカニ王が亡くなったらどうなるんだろう。

 夏が始まろうとしている七月はじめ。長年に渡る、シザフェルとアムレートの因縁は幕を下ろす。しかし、これは因縁一つのでしかない。

「やっぱり残るのはティガシオンなのね」

私にとっての全ての始まり、申し子を教えてくれたのも、カルデラのことを知れたのも彼がいてこそである。

 そして、クロム王のことを教えてくれたのもまた彼だ。私の節目には必ずいる存在、それはきっとカルデラにとってもそうだろう。

「アダートにバレットですか、厄介なのが残りましたね」

私達の因縁は私達で解決する必要がある。それを怠れば、苦しむのは私達だから。

「ま、マシーナにも気になる人はいるし、近々行きそうではあるわね」

「マシーナの女神ですね?」

「えぇ、イナンナ様の話では寝てるらしいから」

マシーナの女神、ネメシス。その時の王、シオンによって切り捨てられた。女神の体を奪うってどういうことなのかはわからないが、魂だけの存在になっているのは事実だろう。

 怖いのはイナンナのように、恨みが強かった場合だ。彼女は、私が持っていたカルデラの魔力で作られた指輪と、私が名を出したことにより反応を示し私を信用してくれたが、マシーナに関わる物は持っていない。反応しなかったらヴァニイを連れて行くしかないかな。ネメシスが愛したオルガンに似ているようだし。私やコーロ、プレスティが女神に近いように、あの家系ではヴァニイが女神に近いのだろう。だから私を助けてくれている。

 しかし、会うにも私はネメシスの居場所を知らない。寝ている影響なのか、マシーナの申し子の力が強いのか、研究所に行ったり、城に行ったりしても感じたことがないのだ。イナンナはハッキリと感じれたのに。

「血筋じゃないからってのもあるのかしら」

フローラはいつの間にか背後にいたし、その可能性はある、だとすれば、向こうから現れてくれるのを待つしかないのか。

「焦らず参りましょう、焦りは力を鈍らせますよ」

「カルデラがいつも言われてるやつね」

カルデラはむっと口を尖らす。

 でもそうね、焦っても仕方ない、物事はなるようになるものなのである。

「図太くなりましたね、メリは」

優しく頭を撫でられ、甘さに身を委ねる。ここまで命の危機に晒され、その度に生きていられれば、図太くもなるものだ。

「ティガシオン関連では頼らせてもらうわよ、カルデラ」

「えぇ、いくらでも頼ってください、私は大歓迎ですよ」

カルデラと一緒ならどんな困難でも乗り越えていける、そんな気がするのだ。

これにて、鉄の国の鎮魂歌本編終了です。

一応、シザフェルとは一区切りが付きました


さて、明日からは後日談となります!

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