第八話 【合流】
物凄い音がする。私は驚いて歌うのを辞める。え、何、凄い強い魔力の気配がしたんだけど。
「彼やっぱりクロムに似てますね、魔力といい、扱い方といい」
「あーカルデラがやったんですか、ついでに、転移魔法も探知魔法も苦手ですよ、大雑把なので」
カルデラったら、魔力いつの間に回復してたのね。私の言葉にイナンナは懐かしいものを見る目で笑う。その表情が、私とディウムの会話を懐かしむフローラと同じで、女神達の苦労が見える。
発展しきってない世界で、国で、拒まれても尚彼女達は、仕事だからと、愛し、尽くしてきた。それを壊したのはここ、シザフェルという一つの国である。その時のマシーナの王だというシオンは人柄だろうが、シザフェルは機械の操作ミスにも関わっていただろう。シオンがネメシスを切り捨てることを理解した上での行動だったはずだ。全ては、イナンナをこの国に縛るためにやったことである。
「メリは、人を解する力に長けているようですね」
「イナンナ様まで言います?」
それを言ったら、イナンナもだろうに。そこに長けていたから、すぐにシザフェルが原因だと思い立ったのだ。それで行動に移してしまう行動力には見上げたものがあるが、私でもやっぱり同じことをしたと思う。
カルデラが死んだら、殺されたら、その原因たる者は許せない。それが国であったとしても、王であったとしても、構わず飛び込むだろう。
「血は争えないんですかね?」
「そうかもしれません、実際カルデラ様と言いましたか、彼はクロムと似てますからね、色々」
クロム家は、イナンナとクロム王の子孫だと考えてまず間違いないだろう。そして、エルミニル家が、ミニル、私、アクリウム家が、イナンナとその頃のメイデン家の男性との間の子孫ということだ。王になったのは、ミニルおも負かす力を持っていたセヘルと渾名をつけられた男性、シェープと言ったか、だと思う。今いるセヘルも、カルデラが名付けたわけだし、流石に何か意味はあっただろうが、体が覚えていたのかもしれない。
それぞれの家系が最後の当主の名前を苗字にしているのは間違いではなかったわけである。実際には渾名だが。王だけは、本名を使ったのだろう。シェープ・アムレートか、リテア様に聞いたらわかるかな。
「その前に帰らないと……」
「貴女が魔術師団の時期副団長さん?」
「メリ、気を付けてください、魔術師ではありませんが、魔力の気配がします」
振り返ると、銀色の髪を綺麗に流した、冷たさを含む薄紫色の瞳をした少女が立っていた。
見たことない女性だが、向こうは私を知っているようだ。
「あぁ、貴女は私を知りませんものね、自己紹介致します、ジデザ・シザフェルです」
「正妻の娘ですね、憎たらしい」
イナンナから敵意が伝わる。彼女からしたら、自分を傷付けた相手が現れたようなものなのだろう。ほんと見えないって幸せだな。しかし、ここでジデザか、彼女ってカルデラを気に入ってるっていう姫君だよね、しかも諦めてないのよね。
「メリ・クロムです、シザフェルの姫君」
一礼する。敵ではないと示したつもりだが、イナンナが構えるのがわかる。名前からして敵意を持たれたかな。
「貴女がいると邪魔なの、だから死んでもらいますわ」
「なんでそう過激なんですか」
姫君って強いよね、権力があるからかしら。それとも王が甘いから? 元よりプレスティからも手荒だって注意受けていたけれど。
バチッと、ジデザが取り出したナイフからは、魔力が吹き出す。その魔力は炎のようだ、ナイフから赤い粉が舞っている。
「シザフェルは武具に力を入れておりますの、魔術師でなくとも、魔具なら扱えますわ」
「本当に嫌な方向に使われますね」
マシーナのように、生活用品に使ってくれればいいものを、なぜ武器にしてまうのか。国の特色と言えばそうなのだが。
「メリ、魔力使えそうですか?」
「わからないですね、普段は応えてくれませんから」
現在窮地って程でもない。私自身は至極冷静である。多分魔力は応えてくれない。
ジデザは、倒れているアイゼンを蹴って退かす。蹴らないであげてよ。
「捕まえるなどと甘いことは致しません、ゆっくりいたぶってあげますわ」
「カリナみたいなこと言わないでくださいよ」
女性って怖いな。こう、やる事がえげつない。目的に真っ直ぐなのよね。
私はいつかのようにただ黙ってジデザを見る。指輪の結界って、魔具には作用するのかしら、しなかったら、どうするかな。
「メリ、冷静ですね、このままでは危ないですよ」
「そう言われましても、私にはどうすることもできないんですよ」
護身用の魔具持っておいた方がいいかも、ヴァニイに今度頼もう。まずはここを切り抜けねばならないが。
赤い粉が目前に迫る、とりあえず避けようとしゃがんた時、何かが吹っ飛んできた。それが魔力の塊であることを、数秒で理解する。
「メリ! 怪我はないな!」
「カルデラ!」
上空からカルデラが落ちてくる、風魔法で衝撃を無くし私の前に着地する。
「転移魔法ですね、上空から来たのは、誤ってそこに転移したのでしょう」
「危ないことしたわね」
「それはどっちのセリフですか! 全く!」
カルデラにイナンナは見えていないようだ、私の言葉はイナンナに向けたものだが、カルデラが反発してしまった。まぁ、カルデラから見たら私の方が危ないことをしているのか。
「単騎で城に入るなんて馬鹿がやることですよ!」
「ごめんなさい……」
素直に謝った方がいい、正座して頭を下げる。カルデラは、ため息を吐くだけに留めてくれた。これ、帰ったら大変かも。
砂埃が収まる。そして、ケホッと咳き込む声で、私、カルデラはそちらを見やる。
「シザフェルの姫君ですか」
「カルデラ様、よくこんな高い場所まで来られましたわね」
彼女の手にはまだナイフが握られている。カルデラを殺す気はないだろうが、傷付けるくらいは平気でやりそうだ。
「妻を傷付けるようであれば、魔術師でなくとも容赦は致しませんが」
カルデラが持っていた槍型の魔具を向ける。二人はしばし睨み合っていたが、それを切り裂いたのは、緊張感のない声だった。
「カルデラー、メリちゃーん、無事かなー?」
ソフィア様の声? あたりを見渡すが本人はいない。
「下に声の主がいるようです」
イナンナに言われ、下を見ると、やぁと手を振るソフィア様が小さく見える。この距離で聞こえるってことは、何か機械を使っているな。
「大丈夫です! 多分!」
私は声を張る。聞こえているかはわからないが、ソフィア様は頷いた……気がする。後ろからマリア様であろう人影が走ってきており、二人でなにか話すと、マリア様の周りに粉が舞った。
魔術? そんな思考も刹那、マリア様の姿が消え、ジデザが叫ぶ。
「きゃあっ!」
「今のは……闇魔術ですね、圧力をかけて弾き飛ばしました」
「お母様……」
背後を振り返ると、見た事ある光景が、マリア様話し合うって概念ないのかな。とりあえず吹っ飛ばすよね、流石カルデラの母。
「メリちゃん! 大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「豪快な方ですね、これくらい潔い方が私は好きです」
隣でイナンナが頷いている。クロム家って、こういうタイプが好みなのかな。それともある程度雑な人でないと、合わないのかしら。
「母様、一応姫君なのですが」
「魔具を持ってる娘には容赦不要よ、ふ、よ、う、カルデラ、あんたも男なんだから、妻に対して危害加えるやつなんか手加減なしに吹き飛ばしてしまいなさい!」
その理論はダメですよ……。そう言いたいが、隣にいるイナンナが同意するように頷くので、私は黙る。
吹き飛ばされたジデザは、痛みに耐えながらも立ち上がった。強いな。
「よくもまぁ、吹き飛ばしてくれましたわね」
「あらあら、威勢が良い事ね、でもこの戦い、アムレートが勝ちを貰ったわ」
勝ちを貰った? カルデラを見たが、首を横に振る。ジデザもわかってない。
「プレスティが良い働きをしてくれてね、シザフェルの王は降参を決めてくれたわけよぉ、話がわかる王様で何よりだわ」
「流石私の子孫ですね! むしろ殺してもいいんですよ!」
「なんで嬉しそうなんですか、イナンナ様……」
この女神様と来たら……。プレスティもどうやら、アザエルをなんとかできたらしい。
バタバタと騒がしくなる。それが騎士団だとわかったのは、屋上にミラフ、ルストが来たからだ。
「女神様! 大丈夫そうですね!」
「ルスト様、はい、大丈夫です」
「女神様の鎮魂歌には、また助けられました、本当にご無事でよかった」
ルストは私の手を取る。どうやら効果は発揮したらしい。ミラフはテキパキと騎士団に号令を出している。流石団長をやっていただけある、手早い。
「終わり……ですか、意外とあっさりでしたね」
「私全く役に立ってないわね、わかってたけど」
カルデラとルストが首を横に振る。イナンナに至っては、胸を張れと言う。私歌を歌っただけだけど。
ジデザと倒れていたアザエルは騎士団、魔術師団員に連れていかれた。私も城を出ることにする。カルデラが前を歩く。私は城の出入口で止まり、振り返る。
「メリ?」
「イナンナ様、城から出られますか?」
彼女の魂はこの城に縛られている。私にくっついていても出られないのではなかろうか。
「ご心配なく、貴女と一緒なら出られます、私をアムレートに御一緒させてください、彼が愛した国がどのようになったのか、興味があります」
「わかりました」
私はカルデラを見る、カルデラは首を傾げている。
「カルデラ様には、後でお伝えすればよろしいかと」
「カルデラ、詳しくは後で話すわ」
「わかりました、ちゃんと話してくださいね?」
カルデラの手を取る。
誰か、忘れている気がしたが、今は気にしないでおこう。城に背を向けて歩き出す。それは様々な終焉と、執着の始まりを意味していた。




