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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【三章 鉄の国の鎮魂歌】
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第六話 【悪魔狩り】

 私はアムレートに残ることを決めた。それ即ち、クロムをアムレートを守護することになる。守護する女神が増えて大丈夫なのか? という心配があったので、キリスト様に聞いたら。

「いいと思うよ、それがイナンナの選択だ、好きにしたらいい、俺もそうしているから」

とのことだった。意外と対応は柔軟だった。その事実に安堵しつつ、私は女神の仕事をすることにした。

 その仕事とはつまり、国の繁栄である。私は、今までクロムにのみ教えていた魔術を国民に伝えた、それにはクロムも協力してくれて、彼が怖い存在では無いことを周知させた。魔術大国への一歩である。

 国民が魔術を使えるようになると、魔術を使った物が作られた、代表的なのは魔術の花だろう。魔力を固めて作る、半永久的に枯れない花だ、その咲き誇る様はフローラが絶賛するほどである。

「流石イナンナじゃな、綺麗な技術じゃ」

「ありがとう、ガイアがサボってるから私大変よ」

「ガイアは、怠け者じゃからのぅ、まぁ、子育てに励んでおる故、許してやれ」

ガイアとグラセは無事結婚し、子宝に恵まれている。既に五人目だ、どのくらい産めば気が済むのかこっちが呆れてしまう。

 マシーナの守護者であるネメシスも、オルガンと結婚したらしい。そんなオルガンが認めた王だからという理由で、渋々自国の王、シオンを守護している。シオン本人は、人を道具同然に扱うので、ネメシスが嫌うのもわからないでもないが。

 フローラは相変わらずである、彼女が身を固めるのはまだまだ先の話だろう。

 私はというと、この時既に身ごもっていた。クロムとの間の子である。これをガイアが一番喜んでいた。次にクロム本人である。泣く二人を見て、こっちが引いたくらいである。

「男の子かな、女の子かな」

「クロムはどっちがいい?」

私は、いつの間にか敬語じゃなくなり、王というのも取れていた。彼はそんな事気にもしなかった。

「どっちでもいいよ、あ、でも、リウムに似た女の子だったら嬉しいかな」

「クロムに似た男の子でもいけど、確か、男の子の方が母親、女の子の方が父親に似るのよね」

段々と大きくなるお腹を撫でつつ、二人で笑う。幸せな時間だった。私は彼とはずっと一緒にいるものだと思っていた。

 そんな考えを崩壊させる瞬間はいつだって突然だった。最初の異変はマシーナだった。マシーナでは、ネメシスが、お得意の機械技術を伝授していたのだが、その機械の一部が急に暴走し、国民を殺すという事件が発生した。それは、事故だった、機械を操作していた作業員の操作ミス。しかし、シオンは彼女を切り捨てる選択をした。女神は死という概念はないが、肉体がなければ死んだも同然。あろうことか、シオンはネメシスのその肉体を壊したのである。夫であるオルガンは止めたが、主従の関係である彼に、強く出る術はなかった。そしてこの事件は、人は女神に勝てると決定付けるものになった。

 私が出産をして、一年と少し経った頃。その暴動は起きたのだ。魔術師達による、王への反乱。最初に止めに入ったのは、グラセとガイアであった。その頃には六人になっていた子供達を城に預け、二人は止めようとしてくれたのだが、グラセが亡くなり、傷付いたガイアが一人城へ戻ってきた。

「ガイア! 大丈夫なの!」

「イナンナ、貴女は逃げて、クロムと一緒に」

「逃げるって」

「春華國でも、どこでもいいわ、王がいれば、アムレートは大丈夫だから、私が止めるから」

私の静止も聞かず、ガイアは城の前に出る。そして、彼女は残った魔力を全部使って、アムレートという土地に楔を打った。それは結界で、私達が逃げる時間稼ぎであった。

 二人の死を無駄にはできない。いや、ガイアは正確には死んだわけではないが、彼女はあの場で眠りについている。悲しみに昏れる間もなく、ミニル、セヘル手動の元、私達はアムレート北部へ移動した。しかし、そこで住民達に襲われ、近くにあった神殿に身を隠すことになった。女神とはいえ、肉体を維持できなくなれば、私だってどうしようもない。一歳の息子がいるし、ガイアから託された子供達もいる。この子達を守らねばなるまい。

「俺が出よう」

「クロム? 何を考えてるの?」

クロムは、外をただ見る。私は震える手で、彼を掴む。

 彼はそんな私を優しく抱き寄せた。

「大丈夫、すぐに追いつくから、ミニル、セヘル、リウムを頼んだよ」

「お前……いや、わかった、セヘル」

「王の命とあらば」

クロムは私から離れる。そして、ミニルとセヘルは、私を立ち上がらせ、走り出した。

「待って! クロムが!」

私は引っ張られるように、神殿から出される。クロムは、民衆の前に出る。

 その光景は全てスローモーションに視界に映る。クロムが何か言っていて、民衆はそれに怒りをぶつけていて、その血が、愛する人が死ぬ瞬間は、私に打撃を与えるには十分だった。

 港に着く頃には疲れ果てていた。何がダメだったのか、私がアムレートにいてしまった事がダメだったのかと、ぎゅっと赤ちゃんを抱く腕に力を込める。

「リウム、すまない、王を守るのが俺達なのに」

「ミニル、謝らないで仕方ないわよ」

泣くにも泣けず、私は力なく彼らに笑顔を向ける。そして、まだ何も知らぬ赤子をミニルに渡す。

「リウム?」

「私、シザフェルに行くわ」

「は?」

いきなりの暴動、その全てには理由があるはずだ。そして、その理由はシザフェルにある、そんな気がした。

 シザフェルは、私がいた頃、医療を発展させていた。シザフェルの王は魔術師ではなかったし、シザフェルでは薬草がよく取れたからだ。その中には幻惑剤があることを、私は知っている。

「先程の民衆達、明らかにおかしいもの」

「だからって、リウムが行ったら危ないだろ!」

「大丈夫よ、私元々シザフェルを守護する女神なのよ? だから、赤ちゃんお願いね? 七人はちょっと多いかもだけど、すぐにフローラが来てくれるわ」

私は二人を無理矢理納得させて、港を後にした。私にだって、わからないでもない。これがきっと、彼らと話す最後であることを。

 でも、私にはもう体なんてどうでも良かった。クロムはもういないから、私が守護した者も愛した国ももうない。それを壊した者を許すわけにはいかなかった。物々しい砦の前に行くと、シザフェルの王が立っていた。

「やっと来たか守護者よ」

「やっぱり、あんたが原因か」

「恨んでくれるなよ、戻ってこない、お前が悪いのだ」

「ふざけた真似を!」

金色の光が舞う、しかし次の瞬間私の体は抑えられ、何か薬を無理矢理口の中に入れられる。

「悪く思うなよ、国にいてもらわんと困るのだ」

その言葉が私が記憶に残る最後の言葉だった。

 その後の記憶は曖昧で、なんだかずっと夢の中にいた気がしていた。今思えば、幻惑剤の効果なのだが、その時は意識がはっきりしてなかったからわかりもしない。最後に意識がはっきりしたのは、懐かしい声を聞いたからだ。

「リウム! おい、しっかりしろ!」

「ミニル……?」

「大丈夫そうですか?」

「焦点がはっきりしてねぇ、くっそ、何があったんだ」

体に冷たい感覚がある。それがもう、体が持たないんだなとわかる。そして、赤子の鳴き声が聞こえた。

「赤ちゃん?」

私は最後の力を振り絞り起き上がる。そこには、小さな赤ちゃんが一人いた。そして、刹那に記憶が再生される。そうだ、私、いつの間にか妊娠してて、双子を産んだはずだ、男の子と女の子を一人つづ。

「……ミニル、セヘル、この子をお願い」

「おい、またかよ!」

「ごめんなさい、私はもう持ちそうにないの、どうか、アムレートを、私が愛した国を、守って……」

「リウム!」

そこかからは、私にも分かりませんが。きっとメリ、貴女ならご存知なのでしょう。

 私は、クロムを死に追いやった住民も許しておりませんが、なによりこの国、シザフェルという国が嫌いです。その気持ちが、感情が、この国の発展を妨げているのだと思います。

 話はこれで締められる。私は何も言わなかった。色々気になる人物がいるが、彼女に聞いてもどうしようもない。ただわかるのは、彼女の深い悲しみと、辛さである。

「私がここにいる理由は以上です、私はここからは動けませんから」

「そう、ですか」

大体考察は合っていた、その事実が、自分に暗い影を落とす。愛する者が死に、地下に閉じ込められた。マシーナの申し子と同じだ、違うのは、ただ地下に入れられたか、魔力を取られたか、結局苦しんだのには変わりはない。

「……上が騒がしいですね」

「上?」

イナンナが天井を見る。私も見る。騒がしいって私は何も感じないけどな。

 しばらく黙る。すると、ギギィと扉が開く音がする。アザエルが戻ってきたのかと身構えると、入ってきたのは見知った男であった。

「良かった! 女神様無事だね!」

「プレスティ! どうしてここに……」

言いかけて止まる。あ、そういやこの人ってアザエルの……。

「警戒しないでよ女神様、凹むからさ、まぁ、この城は俺の庭だから、入れる抜け道はいくらでも知ってるんだよね。女神様が居なくなって焦ったよ、いつも言うけど、カルデラ様に怒られるの、俺だから」

「この魔力……あぁ、私の血筋ですね」

「えっ」

私はイナンナを見る。プレスティもイナンナを見るが、彼の目には映らないようで、すぐに私の方に目線が戻る。

「女神様?」

「彼は恐らく、双子の男児の方です、女児の方はミニルに預けましたから、そちらがメリ、貴女です」

な、なるほど。つまり、メイデン家は女神が産んだ家系なのか。ならば納得がいく。

 シザフェルの王は魔術師ではない、しかし、メイデン家の二人は魔術師である。妻が魔術師だかららしいが、妻を引き継ぐのは珍しい、しかしそれが、女神が産んだ家系なら、優先されたということだろう。

「とりあえず脱出しよう、ここに居てもいいことないからね」

「それは困るよ、プレスティ」

カツカツと足音が鳴る。わかりやすく、イナンナが警戒を示す。どうやら戻ってきてしまったようだ。

過去編はこれにて終幕です。


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