表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【三章 鉄の国の鎮魂歌】
110/150

第二話 【幻惑剤】

 リテア様、セヘルと共に馬車に乗る。雪が溶けかけており、水と氷が跳ねる。

「カンボワーズの当主様ねぇ」

「リテア様、姉様のこと苦手です?」

向かうは姉様のところである。リテア様は一度カンボワーズの屋敷に手紙を送ったことがあるらしい。それが、私を調べる時で、姉様は情報提供を却下したそうだ。きっと、私の粗探しだからだろうな。あの頃は敵対関係だったから。

 そのため、リテア様はあまリ良い顔をしていない。大丈夫ですよ、姉様は優しいですから。


 屋敷に着く。すると、姉様が待っていてくれた。

「メリ! お帰りなさい」

「ただいま、姉様」

抱きしめられ、抱きしめ返す。そして、姉様は二人を見た。

「姫様に護衛の方もようこそいらっしゃいました」

「初めましてサリサ様、リテア・アムレートよ」

「セヘル・ソルセリーです」

二人は礼をし、姉様も礼を返す。そして、屋敷の入口に向けて手を動かす。

「外ではなんですから、屋敷へどうぞ」

促されるまま、私達は屋敷に入る。想像より大きかったのか、キョロキョロする姿は笑ってしまいそうだ。

 客間にて、私、リテア様が座り、向かいに姉様が座る。セヘルはやっぱり扉の前で立っている。座ってと姉様が言っても聞かないからだ。姉様が困り顔をしたのを見兼ねたリテア様が、セヘルに座るよう言い、リテア様の隣にようやっと座る。

「真面目な護衛の方ですね」

「もう少し柔軟でもいいのに」

「だそうよ、セヘル」

私がチラッと見ると、セヘルは少し苦笑いである。クロム家にいた頃はここまで硬くなかったのだが、使用人と護衛団では、心構えが違うのかもしれない。

 セヘルのことは置いておき、姉様を見る。姉様が手を叩くと、男性使用人が現れ、書類を机に置いた。惚れ惚れするくらいスマートな仕事ぶりである。

「アクリウム、カンボワーズ、それぞれの歴史よ、と言ってもアクリウムはずっと救護団の団長だけど」

まず、カンボワーズを見る。こちらは、炎魔術師の家系で、新しいのがわかる、というより最近出てきた家系のようだ。先祖としては前々からいたのだろうが、家名が与えられてなかったのだろう。

 昔は皆が家名を持っていたわけではない。アムレートに限って言えばだが、伝染病より後に家名は誕生している。王が認めた家系にそれぞれつけていったそうだ、言わば称号である。その中でも最初に与えられたのが、団長家系である、クロム、エルミニル、そしてアクリウムである。魔術師ではない家系は中々家名は与えられておらず、その中で団長に選ばれたエルミニルは、それだけで信頼と強さが分かるものである。今でも家名がない住民は多い、それでは不便だとリテア様が現在、全ての国民に家名を与えようと頑張ってくれている。

 そんな歴史があるので、カンボワーズの歴史が新しいのは仕方ない。そうなると、調べるべきは母の家系、アクリウムだ。クロム王の次の王の時に忠誠を誓った家系としか知らない。

「申し子は女神の血筋から生まれるのよね? つまり、アクリウムは女神の血筋ってことになるわけよね」

「そうなりますね」

でもそうだとしたら、クロム家はどうなるのだろうか。王に兄弟がいたのかはわからないが、仮に女神との間に子がいたなら、その子がクロム家を継いだはずである、しかし私はアクリウム家だ。それはおかしいのではないか。

「……子供が、一人では、なかったのでは」

セヘルが、私と姉様を見る。私と姉様は顔を見合わせる。

 一人ではない、その可能性があったか。クロム王との間に二人以上の子がいたと。

「待って、アクリウムは光魔術師の家系よ? そうなると普通は無属性になるんじゃない?」

「……確かに」

クロム家はずっと無属性のはずだ、そしてアクリウムもずっと光属性である。

「じゃあ、王との間に子はいなかったのかしら」

マシーナの申し子の血筋はオルガン家だ。ティガシオンではない。必ず王と子をなすわけではない。身分や環境で別の人と結婚することもある。それがアクリウムだとすれば、王は別の人と結婚していた、そちらが継いだってことかな。

 カルデラとは血が繋がっているわけではないのかと、内心しょんぼりする。別にこだわりはないんだけど。

「一つ嫌なこと言っていい?」

「姉様? どうかした?」

嫌なこと? 私は首を傾げる。姉様は考えたくないけどと前置きをする。

「シザフェルは女神様の力が欲しかったわけよね、それ即ち血を途切れさせたくなかったはずよ、その……」

「無理矢理、子を、作らせた?」

言い淀む姉様に、セヘルが即答した。無理矢理作らせた? え、どういうこと。

「つまりね、クロム王との間にもいたし、クロム王の死後、シザフェルでも産んでたんじゃないかってこと、異父兄弟ってやつね」

その場が静まり返る。確かに、嫌な考えだ。愛した者意外との子か、それとも、王ではない人を愛せたのか。

 後者であればまだ救いはあるが、申し子である私であればなんとなくわかる。その可能性が限りなく低いことを。カルデラを愛してしまってからというもの、今まで普通に男性と接してきた私が、接せれなくなった。興味を失ったと言った方がわかりやすい。フローラと巫女様を見れば、女神様と申し子は似るものだ。私と私の先祖となる女神様も似ているはずなのである。ならば、王を愛していたなら、王以外を愛せるとは思えない。

「でも、そんな事本当にあるの……?」

無理矢理子を作るって、縛ってでもして、抵抗しないようにでもしたというのか。時代的にそこまでできたのか。

「シザフェルにはね、幻惑剤の元となる花があるわ、その花を乾燥させて粉にしたのが幻惑剤なんだけどね、昔は花そのものを煎じてたらしいのよ」

姉様がいきなり話し出す。幻惑剤って前に店で見たやつよね。カルデラがシザフェルで作られたって言っていたっけ。

「昔から作ってたのね」

「そう、そしてそれを健常者に飲ませて、監禁したりするっていう事件か最近まであるのよ」

「は?」

リテア様が低い声を発する。私、セヘルは言葉も出ない。

 幻惑剤を飲ませて監禁するって、それは飲まされた人大丈夫なのか、大丈夫ではないよな。

「コーロ様に頼まれてね、度々医療団の遠征に付き合ってたんだけど、これが悲惨でね。幻惑剤を飲まされた人が、退廃地区にいたりして、しかもこの薬中毒性が高いの、魔法でも治せないものよ」

幻惑剤は悪く働けば、最悪死に至る。死に至るというより、自殺したりする。人を殺してしまうこともある。

「服用したその時は大丈夫なんだけど、薬の効果が切れると手が付けられない人もいるわ、何より、本人の記憶がない事も多いのよ」

「記憶がない?」

「そう、なんとか薬を辞めさせれればね、暴れることもないし、服用する必要もなくなる、でもなぜだか、服用していた間のことは何も覚えてないってことも多いのよ、後で思い出しちゃっていきなり暴れだすってこともあるけどね」

良くない薬だとは思っていたが、良くないどころではない。シザフェルは何のためにそんな薬開発したのだろうか。

「薬の効果がある間は、服用者は静かになる者が多いわ、あとねこっちの話は何も聞いちゃいない、触ったら嫌がって暴れ出す人もいるけど、全く反応しない人もいる、女神様にどのくらい効果があるかわからないけど……」

その後は誰も続けなかった。

 昔から作られていた幻惑剤というもの。カルデラは、シザフェルでの用途は不明だと濁した。そして、あの国では発狂する者が多い。まさか、薬という一つの物で、話が繋がるとは思っていない。子供というのは、それに準ずる行為をすれば、愛情など関係なしに身篭る。仮にその父親を愛してなくとも、何も覚えてなくとも、子供は子供だ、女神様は守ろうとしたに違いない。しかし、シザフェルは信用出来ないとなれば、アムレートの王に託したのだろう。

 伝染病が流行った時に助太刀に入ったのはシザフェルで、後の王や団長家系は、シザフェルに一旦避難していた。王自体はアムレートに戻ってから決めただろうが、誰がなるのかは雰囲気で決まったも同然だったはずだ、そうでなくとも、エルミニルや、それこそ子であるクロム家に託してもいいわけである。それがアクリウム……。

 推測の域は出ない。むしろ推測であってほしい。これが事実だとすれば、あまりにも酷すぎる。想像もしたくないものだ。

「あくまで推測よ、推測であってほしいわ」

「でも、そいうことをしかねない連中ってことね」

リテア様が顔を顰める。アザエルが私を狙ってることを知っているからだろう。私にそれをやりかねないというわけだ。

「メリ、捕まるんじゃないわよ」

「しばらく、護衛、しましょうか?」

「セヘルはリテア様の護衛でしょ?」

セヘルがうっと言葉に詰まる。リテア様も詰まる。

「仕事に私情を挟んではいけません、これ言うの久しぶりね」

私はわざとおちゃらけて言う。

 恐怖がないと言えば嘘になる。今は雪が残っているからシザフェルの動きはない。しかし、雪が溶けきれば、動きを見せるだろう。今、カルデラが戦えない状況で、戦争になれば、私は魔術師団を動かすために戦場へ出向くこととなる。申し子の力は、愛する者が軸となり発動する。その場にカルデラがいなければ、力は使えない。その期を狙わない彼らでもないだろう。

 バレないようにぎゅっと拳に力を込める。今年が正念場だ、シザフェルとの決着をつける年である。全ての事実が、今まで集めてきたピースがそう告げている気がした。

幻惑剤はつまり違法薬物です、はい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ