第十一話 【帰還】
ルスト、プレスティと共に、騎士団、魔術師団撤退令を出す。私で大丈夫かと心配になったが、素直に従ってくれた。ルストの命も大丈夫のようだ、両団から私達は信頼されているらしい。
「女神様から撤退令だ!」
「ルストさんからも、撤退して良いと!」
「結界も解除してもらって大丈夫です」
「わかりました!」
いい人達だ、それとカルデラが魔力の使いすぎて部屋に戻ったことも全体に伝える。それに関しては心配する声が上がったが、ミラフが一緒だと告げると、なら大丈夫かと安心してくれた。
国民たちにも、もう大丈夫だと言うことを言う、私が歌った鎮魂歌を聞いていたせいか、皆納得してくれたどころか、感謝された。
「いやはや、どうなることかと」
「女神様と周りから呼ばれている理由がわかりますね」
「私はできることをしただけですから」
なんとか笑顔を作り対応する。本当は今すぐにでも部屋に戻りたかったが、祭りが終わるまで国民から離してもらえなかった。代わりにプレスティに様子見を頼む。戦闘になったらどうしようもないローザは、国民と共に避難していたらしく、私が国民から女神様! と祭り上げられたと同時にカメラを持って現れた。見上げた記者魂である。
ルストは、護衛を兼ねて一緒にいてくた。祭りが終わると同時に、私達は頭を下げすぐに旅館へ戻る。カルデラは大丈夫だろうか。焦りを押えられず、乱雑にその扉を開くと、ミラフにしっと言われる。そこには、カルデラが布団に寝かされていた。
「女神様、抜けられたって感じではないかな」
「祭りは終わったわ、カルデラは寝てるのね」
プレスティは頷く。それだけ魔力を使ったということだ。まだ、死ぬまで使わなかっただけマシだろう。
「カルデラが動けるようになるまで帰りは遅らせた方がいいな」
本来は明日アムレートへの船に乗るはずだが、このままカルデラを船に乗せるのは危険だろう。
「いや、構わん」
「カルデラ、大丈夫なの!」
カルデラが上半身だけ起こす、ミラフがすかさず支える。
魔力を使い過ぎれば魔術師は死んだりする。それだけ重要なものだ、それを限界まで使えば、いくらカルデラといえど辛いはず。
「構わないって、無理はダメよ」
「巫女の奴が何考えてんのかわからんが、またメリを狙わないとは限らない、だったらこの国から離した方がいい」
それであんたが倒れたら元も子もないでしょうに。自分の体調を優先しなさいよ。
「私なら大丈夫よ、心配しないで」
じっとカルデラを見るが、首を横に振られる。えー、なんでよ。
「……わかった、明日アムレートへの船に乗ろう」
「ミラフ様?」
「メリさん、通信魔具はあるな?」
ありますけど……ミラフが何を考えているのか分からず首を傾げる。
「すぐに魔術師団に繋げ、ソフィア様なら転移魔法が使える。二日は船に乗らなきゃならんが、馬車は使わんでいい、カルデラだけでも先に帰す」
「わかりました」
私は改めてミラフにカルデラを頼み、一旦外に出る。魔具は魔力を使うものだ。変にカルデラの近くで使い、カルデラの魔力を取ってしまうと取り返しのつかないことになる。
ロビーに行くと、通信魔具を魔術師団へ繋げる。ブブッとお決まりの音が鳴り、ソフィア様がすぐに出てくれた。
「はいはい、これはメリちゃん? カルデラ?」
「メリです、夜分遅くにすみません」
「大丈夫だよ、何かあったかな?」
私は掻い摘んで説明する。と言っても、私には魔力兵隊なんてよくわからないし、実際見たのは一瞬なので上手く説明できているかわからないが。
「なるほど、カルデラが魔力を使いすぎて倒れたのか」
「はい、ただ明日出ると聞かなくて、それでミラフ様に言われて連絡を取りました次第です」
うーんと唸る声が聞こえる。やっぱり待った方がいいよね、ソフィア様が言ったと言えば待つはずだ。
「マリアー、明後日しばらく魔術師団任せていいかい?」
「え? どうしたの急に」
「カルデラが倒れたらしくて、明後日迎えに行くよ」
「あらあら、どうせメリちゃん関連ね。いいわよ行ってきなさい」
そんなやり取りを得て、私に大丈夫だよとそれはもう明るく言う。あ、はい、大丈夫ですか。
許可を得てしまったので、通信を切る。そして部屋に戻り、会話をを伝えた。
「ありがとうございます、メリ迷惑をかけますね」
「いやいや、礼ならお父様に言いなさい、それにね、私が感謝する側よ」
私が迂闊に巫女様に関わった結果だし、そもそもはぐれたの私だし。
「メリは悪くありませんよ……さて、私はもう少し寝ます」
「えぇ、おやすみなさい」
カルデラが寝たのを確認し、ミラフ、プレスティは部屋に戻る。私は布団を敷いたはいいものの、寝るに寝れず、ずっとカルデラの手を握り朝を迎えた。
翌朝、魔術師団の制服に着替える。着替え終わってからカルデラが起きた。
「カルデラおはよう、体は大丈夫?」
「えぇ、昨日よりは」
どうやら立ち上がれるまでは回復したようだ。カルデラも制服に着替えた、私のサポートありだが。
朝早くに船に乗る。これは早めに帰るためであって、ミラフが掛け合ってくれたらしい。カルデラあんたほんとに良い友人に恵まれたわね。
「女神様、大丈夫ですか、あまり寝れてないのでは?」
「ルスト様大丈夫です、私よりもミラフ様を心配してください、彼また倒れますから」
ルストは訝しげにしたが、ミラフが心配なのも事実なので、ミラフの方へ行く。私はカルデラを支えつつ、船の自室までついて行った。そこから、魔術師団の面々に指示を出すために、船をおりる。早めの出立の詫びと、カルデラがまだ本調子ではないこと、アムレートに着いたらソフィア様が迎えに来ることを告げる。
「ごめんなさい、いきなり色々変更になってしまって」
「女神様が謝ることじゃありません」
「そうですそうです、まずはカルデラ様の安全です、それと女神様の」
同意を得られたので、魔術師団の人達も船に乗るよう伝える。私の指示をずっと待っていてくれたようだ。
団員が乗り終わるのを待ち、私も船に乗ろうとした時、背後から声が聞こえた。
「そち、シザフェルのじゃな」
「へ?」
振り返ると、巫女様に似た風貌の女性が立っていた。しかし透けているような気がする。誰だろう。
「我はフローラという、我が血族が迷惑をかけたようじゃ、詫びよう」
「大丈夫です、私はなんともありませんから」
フローラと名乗った女性は、首を横に振った。我が血族と言ったからには、巫女様の縁者なのだろう。
「そちだけにあらず、本来であれば国を守らねばならぬ立場、その国をあと少しで破滅させるとこじゃった、なにより……」
その言葉には怒りが滲む。どうも、巫女様に対して怒っているようだ。
「こんな可愛い女子に危害を加えるなど許しておけぬ!」
「いや、怒るとこ違うと思います!」
なぜ怒る理由が私なのか。しかも断言するように言うとは。
「あやつには我から処分を下しておる、案ずるな軽い処分ではない」
「一応聞いておきますが、どのような処罰を?」
「ふん、力を使えなくしておいた」
魔術禁止令ってことかな……。
良かった軽かったと安堵したが、次の言葉でそれは消える。
「あやつはこれで一生、そちには手を出せん、また来ると良い」
「いや重たくないですか!」
一生魔術使えないんですか。そんなことできるんですかあなた。
「重とうない、我はそちが気に入った。まっこと似ておるからのぅ、マシーナの男児もかわゆい見た目をしておったが、そちはそちで良い見た目をしておる」
コロコロと笑われる。私誰かに似てるのか。マシーナの男児は誰かわからないけど。
「ん? そちと話していた者じゃ、懐かしい二人の会話にはそれはもう魅入ってしもうたわ」
「は、はぁ」
懐かしいって何の話だろう。きっとフローラにしかわからないのだろうな。話していたのはディウムのこと、だと思う。あれ夢だけど、夢を覗くみたいな魔術があるのかな、あったら怖いな。
「クロムの王にもよろしくよのぅ、どうやら具合が悪いようじゃが、そちがいれば問題なかろうて」
「クロムの王? カルデラのことですか?」
「ふむ? あぁそうか、見た目が似ておったからついそう呼んでしもうた、今はもう王ではないのじゃった」
この人、伝承の王様を知っているのか。気になるが、もう少しで船が出てしまう。
「フローラ様、また来ます」
「あぁ、いつでも来ると良い、そちらなら大歓迎じゃ。男児は好かぬが、クロムの王なら仕方なかろうて、そちに嫌われるのは本望ではない、向こうの女神達も会えばよろしく頼むよの」
私は後ろ髪を引かれつつ、船に乗り込む。そして背後を見るともうフローラはいなかった。
不思議な人であった。雰囲気も見た目も何もかも。
「女神達って誰だろう」
確かに、女神達をよろしくと言われたが、私には身に覚えがない。それに、最初私を呼ぶ時の言葉も気になる。
「シザフェルのって言ったわよね、私生まれも育ちもアムレートなんだけど」
私はまず、カルデラの部屋を覗き、寝ているのを確認するとデッキに出て、今度は魔法道具研究所に通信を繋ぐ。
「おー、これはどっちだ?」
「メリです、ヴァニイ様」
ヴァニイは、嬢ちゃんかと軽く話してくれる。
「頼みたいことがありまして」
「俺にか? 俺に頼ったらカルデラ怒るんじゃね?」
「実は今、カルデラが倒れているんです」
ガタッと焦る様な音がする。多分椅子から勢いよく立ち上がったのだろう。
「カルデラ大丈夫か」
「大丈夫です、と言いたいですが、ギリギリまで魔力を使った結果です……」
私はソフィア様にした説明と同じ説明をする。そして、フローラのことを付け足す。
「クロムの王を調べてくれってことだな?」
「はい、フローラ様が一体何者なのかは私にもわかりませんが、確かにカルデラのことを、クロムの王と呼んでいました。あと私に対してシザフェルのと、調べて貰えませんか?」
ヴァニイは一つ返事で調べてくれると言う。ディウムのことはあえて言わなかった。彼のことは会って言った方がいい。
通信を切り、部屋に戻る。カルデラは寝転んだ状態だが、目を開けており起きたようだ。
「まだだるい? なにか飲む?」
「いえ、大丈夫です」
ゆっくりと体を起こしたので支える。まだダメそうだ。
「さっきね、フローラ様って人に会ったんだけど」
「フローラ?」
「うん、多分春華國の偉い人。巫女様には処罰を下したって、一生魔術は使えないからまた来いってさ、重いんじゃないかって言ったんだけど、客人に手を出したんだからってことみたい」
実際は私が気に入ったからみたいな感じだったが、まぁ、同じ意味だろう。
「魔術禁止令ってとこですか、ま、巫女が動けないと国が困りますからね、仕方ない処罰と言えます」
不満そうだが納得してくれたらしい。とりあえず私に手を出せなければ良いのだろう。
そうして二日、アムレートに着くと、すぐにソフィア様が来てくれた。
「カルデラ、大丈夫かい」
「なんとか、流石に二日も寝れば良くなります」
すっかり良くなったわけではないが、顔色はだいぶいい。
「魔術師団は僕に任せてくれ、メリちゃん、カルデラと一緒に城に飛ばすからよろしくね」
「はい、ありがとうございますお父様」
やはり倒れているミラフも心配だが、そっちはルストやローザがなんとかしてくれるだろう。
ソフィア様が転移魔法を使う。瞬きをする間もなく城に飛ばされた私達は、待機所に戻ろうと階段を上がっていた時、カルデラが倒れた。
「カルデラ!」
私は焦りながらもその体を掴む。な、なんとか階段から落ちるのは避けれた。
「メリちゃん!」
「お母様カルデラが!」
マリア様が待っていてくれたのかすぐに来てくれた。二人でカルデラの自室に運ぶと、すぐにコーロを呼びにマリア様は走って行った。
話が少しづつ前に進んでいます。
さて、この章もあと少しです、まだまだお付き合い下さればと思います!




