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一章 プロローグ
魔法。それは神が人に与えたもうた奇跡。火を水を風を、自然を操り、時には人の心を体を癒す。
魔法を扱う者を魔術師と呼び、魔術師が生まれた家系は権力を持つ。繁栄と権力が欲しい人々は、魔術師が生まれるとそれはそれは喜び、大切に大切に育てるのであった。
ただ一つ、例外が存在するなど知るものはいない。
今日は一日中雨が降っていた。いつの間にか止んだそれは、満月に照らされた花々を幻想的に輝かせる。
本来ならば魅入るはずの光景に、私は全くもって目もくれなかった。目の前にいる、炎のような明るさの赤い髪の男性は、淡々と、私に怯えた目を向けてこう言ったからだ。
「婚約破棄をさせてくれ」
その一言から、私の暗い生活は幕を開けた。
彼が、重い扉を開けるその時まで……。