怪しい契約
悪魔のような、いや、その男がいる空間だけが切り取られた暗闇のような真っ黒なスーツ姿の、不気味な男が立っていた。
「はじめまして。衣川薫くん。私は極亜重工で開発者をしている、南雲帷と言うよ。」
放つ言葉も、その纏う暗闇の如く重く、そして決して大きくはない声が明瞭に聞こえてくる。
何なんだコイツは?極亜重工?ロボットやサイボーグ開発で日本の重工業や建設機器などで有名な会社だったなずだ。
「いやいや、重症化している君にとっては、長話は大変な重労働だろう?単刀直入に言えば、君をスカウトしたいのさ」
スカウト?何をコイツは言っているんだ??筋ジストロフィーだけでなく、併発した複数の病によって余命の少ない私に!?
「君のご両親には許可を貰っている。簡単な部分サイボーグ化でも数百万、全身擬態の延命には保険を適用しても数億かかる。それをね、君がOKをくれたら処置して助けてあげようと思っているんだよ」
な!?どう言う事だ??ウチは確かに裕福ではない、近所の人にダイエット用のエクササイズを教えたり、数少ない門弟を抱えているだけ、後は農業で生活をしているだけの一般家庭だぞ?
私は、その不気味な男の真意が読めない。何なんだ?どんな裏があるって言うんだ!?
「おやおやまあ、疑う気持ちもよ〜く分かるよ。ただね、私は君に、極亜重工は君と言う存在を見つけてしまったんだ。保証しよう。契約してくれたら、君を今と同じ身体ではないが、必ず復活させるとね」
そう言って男は口を三日月に歪めた。怪しいにも程があるぞ。大体何なんだ??私と言う存在?この死にかけの身体に何の意味を、価値を見てるんだ!?
「君を必ず復活させるよ。南雲帷の名に、極亜重工の威信にかけてね。しかも、復帰したらウチの社員として迎える待遇だ。詳しい内容については、君が承諾してくれたら話そう。これは極秘な内容でもあるからね。ね?もし承諾してくれるなら、辛いだろうけど、これに手を乗せてもらえるかい?」
そう言って男は、持っていた鞄からタブレット端末を取り出す。
まて、話が怪しすぎるし、内容自体が契約後だと、、?
きっと両親は、私の治療がどうしようもなく、この男、南雲の話に乗ったのだろう。そりゃそうだ、私が生きるためには全身擬態が必要だし、だが、その全身擬態でも生きれるかわからかったのだから。藁にも縋る気持ちだったのだろう、、。
クソ!思惑はどうあれ、私だって生きていたい、死にたくない!この悪魔に魂を売ってでも、、、。生きたい死にたくないんだ!
私は男の差し出したタブレットに、自由に動かない腕を震えさせながら、何とか差し出そうとする。
「これは、契約に承諾いただけると言う事で宜しいんですかね?ふふふ、、、、ようこそ、極亜重工へ」
そう言って男は、私の手を取りタブレットに乗せたのだった。
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