死にかけ
私は余りにも寿命が残っていない。
聞くも涙、語るも涙、、、かは、分からないが、現在はとある難病により、大手の病院の個室、しかもあらゆる装置に繋がれて生活している。
病名は暫定ではあるが、「筋ジストロフィー」といわれる難病により、不本意ではあるがベッドに縛り付けられている。
全身の筋肉が衰え、心臓やら内臓にいたるまで、その動きが弱くなっている。
私はこれでも、古流武術の伝承者だった。過去形ではあるが。
幼い頃から、厳格な祖父に鍛えられ、天賦の才能があると祖父に推され、皆伝までを許されていた。
それが現在は、病院のベッドで指一つ動かす事に難儀する有様である。
理由は判らない。ただ、20歳の誕生日を迎えた時に身体に異変が起きた。急激な眩暈を起こし、倒れ、心臓の鼓動が消えかけてしまったのだ。
私は意識を失ってしまったのだが、家はとても大変だったらしい。
冷たくなっていく身体、弱まっていく心音に家族は混乱に陥ったらしい。後で聞いた話なので実感は少ないのだけど。
救急車で運ばれた私はそのまま、集中治療室で様々な機械に繋がれて命を拾い上げた。
目を覚ませば知らない天井、まさかこのネタを自虐的に使う日が自分に訪れるとか思わないだろう。
前兆はあったと思う。疲れやすかったり、修行中の傷が治りにくかったり、食欲が無かったりなど。ただ、その時は「調子が悪いのか?」程度で、そもそも健啖な身体だと思っていたので意識した事すらなかったのだ。
意識が浮き沈みしていた時、家族に話された言葉が衝撃すぎた。
「息子さんの命なのでずが、、、筋肉が衰退していく、現代の科学でも解明出来ない病気です」
耳を疑ったよ。何年も鍛え上げ、実家に伝わる武術を継いで行く事を人生の目標にしていたんだ。
「残された時間はなんとも言えません。時間が経つごとに筋肉は弱り果て、息子さんの心臓の鼓動がどれだけ頑張れるか、、」
ふざんけんな!私には!夢があるんだよ!何でこんな訳のわからない病気で死ななければいけないんだよ!
ただ、時間は無常だった。鍛え上げた肉体が、鼓動が、私のアイデンティティが時間と共に失われていっていた。
私には、もう見る事すら叶わないが、この身体からは常人以下の肉体しか残されていなかった。指一つすら、まともに動かす事が出来ない。
死にたくない、この身に付けた技を振るう事すらなく生き絶えたくない、、、、、神様がいるなら助けてくれよ!私に!誰か微笑んでくれよ!
意識を保つのも難しい日が続いたある日、とある声が掛けられた。
「はじめまして?こんにちはかな?こんばんはかな?君に生きるか、このまま果てるかの交渉をしに来たよ?」
そんな悪魔の声が耳に囁かれた。