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王のインケラーシャ  作者: Lopeye
勿忘草の胎動

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黒の契約3

 わたしの身体に異常はない。けれど、先程の魔力放出の反動でいつもの調子が出ない。駆け出すものの、トキの背中と距離が縮まらない。

 身体が、重い。

 しかし、と不意に我に返る。


 そもそも、ゼルを助けることに意味はあるのだろうか。


 脚は止めない。呼吸を止めない。後悔は先に立たないものだから。


 トキが暴走していて、ゼルは気を失っているようだ。だから……だから、なんだ? わたしたちは、ホロウメラデュラを止めに来た。ここで行われている「悪事」と、ここにいる「悪い人」を、やっつけに来たはず。それはゼルじゃないの? それなら、止める方が間違い……?


 トキの片腕が、龍の前足のように鱗に覆われる。黒契爪がナイフの切っ先のように形を変えている。エルフの心臓くらい、撫でるように一突きだ。

 解決するはずだ。いとも簡単に、この事件は終わりを告げる。マクトベラシュカに悪い人はいなくなって、帝国の誰かが、ここをもっといいところにしてくれる。


 冷静に考えるべきだ。正しいはずだ。トキを止める意味が無い。


 金属が悲鳴を上げたような、甲高い引っ掻き音が木霊する。

 わたしの黒契爪と、トキの黒契爪が衝突した。

「だめ、トキ。ころす、ちがう」

 なぜ? 違うの? 私が私に問いかける。でも、身体が勝手に、トキを止めていた。

「…………」

「トキ!」

 少年の魔力出力が増加し、重圧が掌の先に轟々と響く。単純な魔力の食い合いだが、わたしのコルコルとカリチャはまだ本調子じゃない。だというのにアンバールは、先程と比べても、魔力の量に遜色がない。こちらの契約とはそもそもの格が違うのか、あるいは。

「ぅぐ、う、んぬ!!」

 背後にはすぐにアノマリスが鎮座している。これを壊しちゃいけないのは、さすがに分かる。なんだか知らないけど大事なものらしいと魔王が言っていた。破壊力の高い術式は使えないのに。

 じりじりと、ぶつかり合う魔力に差が開き始める。

 もう少し、あと少しでわたしの魔力が戻るのに……。

 迫り来る焦りに、破壊術式の展開が頭をよぎった瞬間だった。


 漆黒の彗星が乱入した。

「―――――――ッ!!!!!」

 身を削りながら、豪風の雷鳴を纏いながら、その巨躯が、少年の華奢な身体を吹き飛ばす。砕け散った大角、剥がれ落ちる逆棘の鱗。血塗れの四肢を大地に突き立てて、獣は勝鬨のような咆哮を嘶かせる。

「エイ、ゾラ……!」

 魔獣の雄叫びが、薬園中に響き渡った。


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