黒の契約2
轟雷を纏った一撃。
魔獣ですら蜂の子のように散らす決戦の一振りが、浮かんだままの少年を捉えた。
だが瞬間、一閃した右腕に、まるで大地を殴ったような反撃が薙ぎ返す。
「つばさ……!?」
実際に存在するわけではない。しかし、まるで龍の両翼が包み込むように、トキの身体が魔力壁に覆われている。潰滅の術式によって存在を「殺され」ながらも、内から内から、新たな細胞を生み出すように盾が厚みを増していく。
じり貧だ、などと感じたのはいつぶりだろうか。魔力量で負ける可能性が一瞬頭をよぎる。
「たたきつぶす」
だが、引けない。だからといって引く理由にならない。引けばトキは死ぬだけだ。ならば撃ち抜くだけ。ただこの龍を、苔むした龍の翼を引き裂くしかないのだ。
「こる! かり! まけたらたべる!」
わたしの声に呼応するように、指先へと力が集中していく。拳を握りこむ。その銀翼を抉り出す。今この瞬間に潰しきる。
「ぅぬ!!!」
爆音とともに、握りしめた拳を振り抜いた。
岩を砕いたような手ごたえと共に、背中から無様に地面に転がる。ちょっと目が回った。短期間のうちに魔力を放出し過ぎたせいもある。トキに乗りたい……。
「はっ、トキ」
がばっと、抉られた土地から顔を出す。
魔力の放出は止まっていた。少年の姿も、外套がボロボロになっていること以外変わりはない。安堵の吐息が口の端から意識を介さずに漏れ出て行った。
思わず地面に座り込んだその瞬間、トキがゆらりと起き上がるのが、視界の中にぼんやりと見えた。
「トキ!」
駆け寄ろうとした膝が、意に反してかくんと落ちた。コルコルとカリチャの応答が遅い。ちょっとこき使い過ぎた。
トキは少しだけこちらを見たものの、返事をすることはない。まだ、彼の意識を感じない。何が起きているのだろうか、アンバールの暴走? あるいは、トキの死を察して、宿主を保護しようと出て来たのだろうか。それがどれだけ無謀なことかも知らず……。
トキはわたしのことを横目で見ながらも、ふらふらと別の方向へと歩み始める。その行く先を視線で追いかけた。大樹の根元に転がった、エルフの姿。ゼルだ。
「まて……! まって!」
殺すつもりだ。魔力が殺気立っている。
それは本当にトキの意思だろうか。そんなはずはない。
確かにわたしならそうするかもしれない。でも、トキはそうしないだろう。
ゼルを殺そうとしているのは、アンバールだ。




