悲願の代償
不快そうに嘶く馬の尻に鞭を打つ。ゴリゴリと硬い土地を掘り返しながら、三匹の馬が進んでいく。踏み荒らされた草花の、その中にさえ、異様な紋様が浮かんで見える。
「一体何が起きているんだ……?」
ホロウメラデュラの花弁が異質な魔力線に象られ、僕らを嘲笑うみたいに風に揺れている。昨日の時点では花弁の一つも見当たらなかった偽花が、夥しい量の花弁を降らせる。
「ゼルの目的に心当たりは?」
前を駆けるストースに投げかけてみるものの、彼はただ首を横に振った。
ため息をつきそうになる。何を目がけて、僕はこんなにも必死に追いかけているのだろうか。ゼルのやったことといえば何だ。従者に怪しげな魔術を使って、自傷させるという愚かしい行為。確かに愚かしいが、それは魔王が見定めることではない。
こちらを伺うように、僕の前に座ったシヴが振り返ってくる。
「何か気になることがある?」
「ない」
「ですよね」
集中しないと馬から落とされてしまいそうだ。
シヴの中に居るという「カミサマ」と、僕の中にある龍の心臓。こいつらが悪魔的に動物を刺激してしまうらしい。時折振り落とそうと上体を振る馬の手綱をしっかりと握りしめる。
「ゼルさんは、何か言っていましたか」
その時、声をかけて来たのはウィーロだった。エイゾラを撃退した後、一度コルク――薬園の入口――まで戻ることを提案したが、彼がそれを受け入れることはついになかった。
「『私を否定してみせろ』と。でも、具体的なことはなにも」
僕の言葉に、彼の視線が悲しげに、あるいは物憂げに沈んでいく。
「ゼルさんの研究室から、何か分かることはありませんか。何か打てる手があるなら……」
「ウィーロ、君は何か知っているのか?」
僕は、静かに彼を見つめた。
責める視線ではない、というつもりで彼の目をじっと覗き込んだ。ウィーロがゼルの企みに与しているとは思えない。だが、関係がないようにも、やはり思えない。
こんなことを言うのは反則だろうか。だが、視えたものには触れねばならないだろう。
彼の魔力が、揺らいでいたのだ。
「それは……」
「トキ、止まる、ゆぬ」
その時、不意にシヴが後頭部を僕の鳩尾に押し当ててくる。中々の衝撃にえずきながら、僕は霧の奥に揺れるその影を認めた。
「ストースさん」
「えぇ、確認できています」
不覚だった。
シヴよりも先に、僕が気づくべきだった。そう思えるほどに、そのシルエットから漏れ出る魔力の色合いは不可思議な模様をしていた。暗いマーブルの上に、上塗りと言わんばかりに押し付けられたキツいピンク、赤、ライトグリーン。
「気を付けてください。正気じゃない」
「そんな、でも、あれは……」
ウィーロの唇が小刻みに震える。血の気の引いた表情から、喪失感だけが伝播する。
「ウィーロ……?」
僕には、ストースよりも、シヴよりも、鮮明に魔力が視えていた。
だが、彼に見えていたのは、そんな上辺を撫でたものではなかった。




