白の楽園
脳の中で、火花のように弾ける激痛。
痛みの原因がどこにあるのかも分からない。
たくさんの人に出会った。殺された父、侵された母。この薬園に連れ去られた村の仲間。奴隷を売る商人、薬園の経営者、薬物の密売人、運び屋。黒い髪のエルフ、赤い髪の少女。
今が過去の蓄積なら、わたしはわたしの記憶でできている。きっとわたしは、わたしが出会った人たちでできている。わたしの中は、数えきれないほどの顔で埋め尽くされている。
あぁ、誰だっただろう。誰か……忘れてしまったひと。
『ハナ――』
「――ハナ」
わたしを呼ぶ声に目を覚ます。
「ゼル、さん?」
同時に、左手の激痛が私の全身を硬直させた。声にならない声で悲鳴と嗚咽が漏れる。
頭がぼうっとする。誰かの、いや、何かの意識が、私の中を食い尽くそうとしているみたいに。
「ここは……?」
身震いする。全身を総毛立たせるような冷気に包まれた。けれど、わたしの身体を震わせたのは寒さばかりが原因ではない。
「ウカノキ……」
視界を覆い尽くすほどの、圧倒的な白。まるで雪景色のように降り積もった花弁が、幾層にも重なって風に揺れる。これほどの美しい情景があるだろうか。恐ろしいほどの皮肉だ。この花のために、わたしたちの村は滅ぼされ、蹂躙されたというのに。
「この距離で見るのは初めてか」
ゼルが、それを見上げて言う。
振り返り、仰ぎ見る。せり上がった壁……ではないのだ。わたしたちの頭上を覆い尽くす、全容も知れぬほど巨大な影。宝樹アノマリス。この樹の根元では、陽光のほとんどが遮られ、気温が極端に下がる。まだ日は昇っているが、この辺りの気温は一桁だろう。
「わたしは、どうしてここに……レナちゃんは」
「安心しろ。レナはそこで寝ているし、バカは風邪をひかん」
その時、私は手を付いた大地から響く振動に気づいた。熱がせり上がってくる。生き物の鼓動みたいに伝播する。この土地が、マクトベラシュカが、声を上げているのだろうか。
「なにが、起きているんですか……?」
「新たな芽吹きが始まる。その前段階。いわば人工受粉だ。あれほど肥大化した宝樹アノマリス、もはや人媒花と言って差し支えなかろう」
「それは……まさか」
言いかけたとたん、激しい吐き気が込み上げる。胃酸が喉奥につっかえ、咳きこむ口の端から零れ落ちる。再び頭の奥を鈍痛が襲う。指先が痙攣し、ついた膝ががくがくと震える。
「『収穫』が始まった。お前がお前であるのも、もう残りわずかだ。お前を買ってから、もう何年だったか。いい働きだったと、自分を誇るがいい」
「収、穫……ウカノキ、じゃない」
「あぁ、違う。こんなものいくら刈り取ったところで、薬物中毒者が増えるだけだ。この固着した構造に変革を期すには、もっと異常なものに頼るのがいい。それこそミューテーションを起こした細菌のような」
ゼルはアノマリスに手を掛けると、そのきめ細かな表皮をなぞる。
「眠った本能を引きずり起こす」




