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王のインケラーシャ  作者: Lopeye
勿忘草の胎動

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46/71

幕開けの使者

「ひとっつもない!」

「ない!」

 疲れとストレスでテーブルに突っ伏した僕の横で、シヴが面白がって真似をする。放っておいたら本当にそのまま寝てしまいそうだ。

 コルクの北端に位置する小さな宿場で、僕らは今日の収穫を確認し始めた。とはいうものの、し始めただけで、後に続くものが何一つない。

「まさか、本当にホワイトフェザーの栽培がデマだったとでもいうんでしょうか」

「あの魔王に限って、ありえませんね」

 僕の口をついた疑念を軽くあしらうように、ストースが応える。

 このマクトベラシュカに到着するや否や、僕らはハナとレナの助けを借りながら、可能な範囲の薬園を視察して回った。そのうえ労働者を捕まえては聞き込み、その魔力のわずかな流れさえ追いかけた。無論管理人には厄介そうな目で見られたが、そこはチップ次第だった。現金な街だ。

 しかし、そうまでして得られた結論は一つだけ。彼らは、少なくともこの薬園で働く労働者と、その区画ごとの使用者は、ウカノキないしホワイトフェザーを栽培しているという自覚がない。ゲリーと同じく、彼らの魔力には一寸の揺らぎも視て取れなかった。

「ウソ、ついてない?」

「うん。もちろん何かの絡繰りはあるかもしれない。けれど、あの人たちは少なくともウソをついているつもりはない」

「知らない、という可能性も?」

 カップに紅茶を注ぎながら、ストースが長い髪を流す。

「なるほど、それは考えられる……いや、労働者はともかく、区画使用者までもが商品を把握していないなんてことは」

「それもそうですね」

 思案顔で、彼は魔王が作り出したレプリカをつまんで眺めた。

「しかし、不思議です」

「ふしぎです」

 ほぼ寝かけたシヴがもごもごしながら繰り返す。寝る子は育つんだろう。いいことだ、たぶん。

「コルクに至るまでの道中、覚えていますか?」

「なんのことです?」

 聞き返しながら、記憶を探った。

 黄道を渡り、熱砂の中を下ったこと。

 意味ありげな看板の掛かった店を見つけ、初めてゼルと出会った時のこと。

 レナとハナの助力を得て、いくつかのオアシスを経由しながらこの薬園に行き着いたこと。

 そこまで思い出し、ふと気づく。そうか。

「ハナが、ウカノキのことを知っていた」

「えぇ、そこです」

 まだ幼い少女たちではあるが、彼女らの境遇について、何ら知識があるわけでもない。だから百歩譲って、ゼルの弟子を名乗るレナが、特別このあたりの植生に詳しいということは想像に難くない。

 だが、いかにも学者見習いといった様子のレナとは違い、ハナはあくまで一人の労働者といった立ち振る舞いだった。だというのに、レナがウカノキを観察する様子を見て、初めて見たというような素振りは一切なかった。まるで、そこら中に生育していて当然とでもいうような、『当たり前の光景』を見るようなまなざし。

「……でも、少なくともこの辺りの薬園一帯に、ホワイトフェザーは栽培されていない。それを模したようなホロウメラデュラも、魔力の一端さえ見つけられない」

 頭を悩ませていたところに、突如、冷たい外気が入り込む。

 がたん、と乱暴な音を立てて、入口の戸が開け放たれる。

 噂をすれば影、であった。

「レナ、ハナ?」

「トキさん、みなさん。突然ですみません……ですが、お願いがあります。明日、マクトベラシュカの北部高原に同行していただきたいんです!」

 息を切らして駆け込んできたレナの後ろに、悲しげに目を伏せたレナの姿が見える。彼女は一呼吸入れると、小さく言葉をつなげた。

「また、労働者が亡くなりました。エイゾラです」

 空気がひりつく。もう一つの課題が、大手を振って歩み寄ってくる。


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