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王のインケラーシャ  作者: Lopeye
勿忘草の胎動

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40/71

辺境の大薬園2

 その大薬園は、僕らが気づくより早く僕らを取り込んでいた。

「……っ」

 思わずため息が漏れる。

 薬園とは名ばかり、その実態は地平線を埋め尽くす花園であった。とりどりの色彩が踊り狂うように身を揺らし、差し込む陽光の中で星のように煌めき、輝く。

「こっちです」

 レナが先導する先にあるのは、見上げるほどの巨大な石造りのゲート。アーチ状に形作られたそれは、文字通り入口でしかない。ストーンヘンジよろしく、見渡す限りの草原にそり立った一個のオブジェのようだった。

「目印以上の意味はありません。薬園そのものは囲えませんからね」

 そう言いながら、レナは大股に進んでいく。

 急ぎ足に、焦りがちに。

 ホワイトフェザーに擬制したホロウメラデュラを目の当たりにしてから、彼女の足取りは錆びたブリキのように硬く、重くなった。

 その後ろ姿を、心配そうにハナが追っていく。

「ここがマクトベラシュカ……」

 ストースが呟いた。

 大薬園マクトベラシュカ。

 地史のテキストにも掲載されている、帝国では誰もがその名を知るプランテーションである。だが、実際にこの地に足を踏み入れる者は、帝国全土でも稀であろう。自治領ゼプキルと帝国との関係性はお世辞にも良好とはいえず、治安も安定しない。

 有名ではあっても、人気ではない。

「あのゲートは『コルク』と呼ばれています。ここまで南道を進み、砂漠地帯を越えて、このコルクから先の領域を、総じて薬園と呼んでいます。面積で言えば恐ろしく広大ですが、人の営みが存在するのは、ほぼコルク周辺だけです」

 その言葉の通り、コルクを通過した僕らを待ち構えていたのは、街と言って遜色ない集落だった。木材建築が多いものかと想像したが、そのほとんどは石壁や土壁であった。アノマリスの麓では森林植生が乏しいという情報を、僕ははたと思い出していた。

 率直に言って、活気に満ちたという印象ではない。人や物の交流は非常に多く、商売の相談をする者たちの威勢のいい声も聞こえてくる。からっとした空気、広がる花園と遥かに望む神木。

 これだけの条件を揃えてなお、ここに満ちる魔力はどこか影を落としていた。彩度と明度を弄り回した、嘘くさい写真みたいだ。鮮やかで、華やかで、不気味だった。

「レナ姉、ハナ姉!」

 そんな空気を裂くように、快活な声色が僕の耳を叩いた。

「あれ、ウィーロ君こんにちはです。今日はコルクに来ていたんですか?」

 駆け寄ってきた青年は、齢18程といった容姿で、ゼプキル市には珍しく肌は色白だった。丈の長い上着を流して、陽の光を遮っているらしい。姉と呼ぶ割に、年も背格好も二人の少女より明らかに年長だ。

「うん。父さんが、今日は会議があるって言うから」

「ゲリーさんが? なんでしょう、そんな大事なお話合いなんて……」

「れ、レナちゃん」

 口元に手を当てて首をかしげるレナの裾をちょいちょいと引っ張って、ハナが声をかける。レナははっとした様子で我に返り、青年の方を向き直った。

「それどころじゃないんでした。でもとっても丁度いいです。ウィーロ君、ゲリーさんは今どちらに?」

「えっと……父さんならロータスにいると思う。今日の話し合いは酒場の2階でやるってさ。オレも今から行くところだから、用があるなら一緒に……お連れの人が良ければだけど」

 ウィーロ青年は言いながらこちらの様子を伺う。

 僕が肯定の意を表す前に、ストースが一歩踏み出した。

「ぜひお願いします。この辺りで商談をまとめるのに、植物に詳しい方とのコンタクトを望んでいたところです。ウィーロ君のお父さんとのお話合いなんて、我々には願ってもないことですよ」

 繕った笑顔でストースが言うと、ウィーロは不思議そうに目を丸くした。

「それならゼル先生と話した方が良いんじゃないですか? オレたちはアノマリスの麓で暮らしてはいますけど、植物についての知識でゼル先生に敵う人なんか……」

 ストースが脂汗をかいてこちらを見てくる。余計なウソを吐くからだ。

 助け舟に口を挟もうとすると、ウィーロは思い出したように手を叩いた。

「あぁそうか、今日はゼル先生もコルクに来るんだっけ」

「「「へ?」」」

 きょとん、と口をつぐんだハナ、さっきから話を聞いていないシヴの二人を除いて、僕らは一斉に気の抜けた返事をした。

「え、聞いてないの?」

「聞いてません! 師匠ってばどうせシロちゃんに乗ってきたんですよね? だったら乗せてくれればいいのに! いじわる陰気植物男! ほぼシダ植物!」

 好き放題言ってる。とりあえずシダ植物に謝ってほしい。

「まぁまぁ、結構、緊急な案件だから」

「……本当ですか?」

 恨めしそうな顔で見つめるレナにたじろぎながら、ウィーロは言葉を続けようとする。

 トントン、とつま先で蹴った地面はすっかり乾いて、小さく砂埃が舞った。

 言葉に詰まったのは、どうやら彼女の圧力だけが理由ではないらしい。

「エイゾラだ。今日の朝、マクトベラシュカの栽培地に現れて、労働者が何人も死んだ。……とにかく行こう、今ごろ、対策が練られているよ」

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