表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王のインケラーシャ  作者: Lopeye
願望の偽証

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/71

宝物の記憶1

 私の瞳は緑色だった。

 ガラスに映った宝樹アノマリスを覗き込むような、透き通った深緑。

 おまえの唄は芽吹き。お父さんはそう言って私を褒めた。

 あなたの声は冬の木漏れ日。お母さんはそう言って私を撫でた。

 私の瞳は赤くなった。

 真っ暗闇の中で、赤い光をじっと見つめ過ぎてしまったらしい。

 私の村が燃えた日。

 お父さんは私を守って燃えてしまった。

 お母さんは行方不明。村のどこかできっと燃えた。

 私の8歳の誕生日。

 その日から、私は人じゃなくなってしまったのかもしれない。

 私が歩く道を、みんな避けるようになった。

 学院の初等部に通っていた私は、会う人みんながお友達だった。男の子も、女の子も、ヒト種の子も、魔族種の子も、よくわからない種族の子も、関係なかった。自分から話しかけるような外向きの子じゃなかったけど、自然と周りにはお友達ができた。

 でも、みんないなくなった。

 おなじ教室にいても、おなじ寮にいても。

 同じ学院の生徒だけど、同じ「ヒト」ではなくなってしまった。

「別に構わない」

 お友達じゃなくなってしまったのは悲しいけれど。

 また新しい子と出会えばいいだけ。

 ひと月前までは一緒に歩いた帰り道を、鼻を真っ赤にしながらひとりで帰った。

 寮に戻って、ピマーナに抱きついて眠った。一年前、私が学院に特待合格した時に、お父さんとお母さんがくれた私の宝物。ふわふわの白い毛並みと、まるくて小さな手足がかわいい、ピルマオルニーナという小動物。魔術の授業では、この子と一緒に特訓をすることもある、私の相棒。彼女が助けを求めるくらいひしっと胸に抱きかかえて、あとからあとからこぼれてくる涙で、ふわふわの毛並みをぐしゃぐしゃにした。

「私は悪くないから」

 お父さんとお母さんの悪口を言っている男の子がいた。

 飛び掛かりそうになったけど、セリちゃんに手を引っ張られた。

 私はセリちゃんの手をぎゅっと握って、それから振り払って、やっぱり飛び掛かった。学院の生徒なのに、魔術なんか使わないで、ぼこぼこに叩いてやった。男の子はやり返すでもなく、逃げるように走っていった。私はその場に取り残されて、お父さんとお母さんと、心の中でハイタッチした。だけど、二人の喜ぶ顔を思い出して、だんだん目が熱くなった。しまいには、座り込んでわんわん泣いた。セリちゃんが駆け寄ってくるのが見えて、私も一目散に逃げだした。泣きながら逃げ出した。

「あなたはもっと悪くないから」

 知らない上級生とけんかになった。

 その日はセリちゃんがお休みで、私はひとりで、食堂でお昼を食べていた。いつものテーブルに座っていると、上級生の男の子と女の子が3人で来て、どくように言われた。私はなるほどと思って席を譲り、ひとり席へ移ろうとした。そこは4人まで座れるテーブルだったから、いつもとは違ってひとりの私が占領するのは確かにおかしい。相席なんてお互い気が引けるし。そうしたら、女の子が魔術で私のことを後ろから突き飛ばした。半分くらい残っていたごはんは床に飛び散って、私は前のめりに転んだ。

 腹が立ってその子を糾弾すると、男の子二人が間に割って入って、一人が私の首を絞めた。苦しくて意識が飛んじゃいそうだったけど、もう一人の男の子が私の耳に触ろうとするのが分かった。私の銀のピアス。痛かったけど、泣いちゃったけど、お父さんとお母さんがいっしょうけんめい私のために贈ってくれたファナリアのピアス。私は頭に血がのぼって、首を絞めていた男の子の指をつねり上げて、ひるんだところを思い切り噛みついてやった。でも、膝をついて咳きこむ私の顔面を、すぐに二人目の男の子が蹴り抜いた。咄嗟に身構えて腕を緩衝材にしたけれど、顔は腫れあがって、ついさっき落っことしたスープの上に私は転がった。上級生たちは、死ねとか、出て行けとか、疫病神とか。さんざん言い散らかして、おまけに自分たちのごはんまで私にぶつけて、どこかへ行ってしまった。

 周囲の生徒たちも、見て見ぬふり。いいの。面白がってみんなで蹴りにでも来られたら、それこそたまらない。私と向かい合う気もない臆病者。痛みで立てない私より、もっと弱い臆病者。悔し泣きを見られたくなくて、顔を上げられない私より、もっともっと弱い臆病者。

「いじめかい。まったく品がないね」

 ぐちゃぐちゃになった私をおぶって、その先生は医務室に運んでくれた。正直に言って、とてもびっくりした。先生を含めて、私に味方をしてくれる人がこの学院にいるなんて思わなかった。先生の白衣には、ランチのスープやらソースやらの染みができている。おまけに私の鼻血まで。でも、すっかり疲れてしまった私は、申し訳ない気持ちもどこかへ飛んで行って、その温かい背中に揺られるしかなかった。

「お母さん」

 夢心地の中で呼んだ名前。

 お父さんには悪いけど、同時に二人は呼べない。お父さんも大好きだから、安心して。

 私は遠くなっていく意識の中で、また二人の顔を思い出していた。


次話投稿は明日19時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ