祭りの夜。
掲載日:2022/10/05
あの頃の私は、確かに夢見がちな少女であったのだ。
陽の光を浴び、全身に風を受け、草の匂いを嗅ぐ。
毎日がきらきらと輝き、明日は希望に溢れていた。
友達との他愛ない会話、やらなかった宿題、まだ見ぬ恋の相手。
祭りの夜だった。
友達とはぐれた私は、幼馴染みの男の子に家に送ってもらった。
暗くて危ないから、と繋いだ手。
指先が、とくんとくんと音を立てているようだった。
そして。
私は恋をした。
やがて、平凡な大人になった私は彼と結婚し、子供を産み、育てた。
どぉぉぉんっ、と遠くで花火があがる音がする。
ああ、今年は祭りをやるのだ。
誰が、こんな未来を予想しただろう。
コロナのせいで、子供達は何年もこの家には帰ってきていない。
スマホをどうにか使いこなし、孫達とテレビ電話で会話をする。
お年玉は、電子マネーで振り込んだ。
花火の音がする。
「また一緒に、お祭りに行きましょうね」
私の言葉に、仏壇の遺影はいつもと同じ笑顔を浮かべている。
「もう少しだけ、待っていて下さいね」
夢見がちな少女だったあの頃のように、私は微笑んだ。




