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暁の歌、響け世界に3 《天の巻》  作者: John B.Rabitan
第7部 霊統の争い
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2 天の岩戸

 拓也さんは座卓に両腕をついて、少し身を乗り出した。


「皆さんは、ミヨイ国の神王と呼ばれていたラ・ミヨイ陛下のことを覚えいますね?」


「はい」


 皆口々に答えた。俺もはっきりと脳裏に焼き付いている。あの体験から半月がたとうとしている。婆様の家まで行って帰ってきたときのことは半月前だからそれなりに記憶に新しいけれども、何から何まで鮮明に覚えているかというとそうでもない。肉体で体験して脳で覚えた記憶はそれなりに少しずつ消えていく。

 だけれどもあのミヨイ国での二万年前の記憶は、魂に刻まれた記憶だから婆様の家で過ごしたときの、あの体験の前後の記憶よりもむしろ鮮明に思い出せる。みんなもそうなのだろう。


「ラ・ミヨイという方は、ムー大陸のことを研究して人びとに紹介したチャーチワードの文献に出てくるムー帝国の王ラ・ムーのことだと思います。“ラ”は言霊では“”、つまり太陽のことです」


 つまりは「太陽王」ということらしい。俺の過去世はそのお方の一番近くに仕えていたのだから、今でもはっきりとそのお顔を思い出せる。


「その方が言われてましたよね。あの大天変地異も決して天譴ではないと」


「天譴?」


 美穂が首をかしげる。拓也さんが美穂を見て言った。


「天からの戒め。戒告といったところですかね」


「つまり、神様からのばちってことですか?」


「ばちとはちょっと違います。ばちは悪いことをした人を懲らしめることでしょ? でも、決して御神霊は人間にばちは当てられません。もし人間にばちを当てる神様がいたとしたら、それは邪神です。それに対して戒告は、人間が間違った方へ行こうとしている時に、それを戒め告げ知らせることです。それとて御神霊が勝手に人間に戒告をすることは、天の掟で許されていないようです。とにかく人類は、この肉体界に物質でもって天国文明を建設する、すなわち地上天国文明の建設要員なのですからね」


「つまり、今回起ころうとしているさらなる大天変地異も、決して天譴でも戒告でもないということですね」


 俺がそう聞いた。拓也さんはうなずいた。


「そうです。あのミヨイの国が沈んだ時の天変地異も、実際は天帝とその元皇后との天界での争いが地上に波及してのことでした」


「では、今度もその争いがまだ続いていて、そのとばっちりですか?」


 杉本君が聞く。拓也さんは少し口元を緩めた。


「今回は、その戦いの比ではないものすごいことが、何百万年以来の出来事として起こるのだそうです」


「そういえばラ・ミヨイ陛下が天帝とコンタクトしたとき、天帝は言いましたね」


 杉本君はそう言いながら、ピアノちゃんを見た。ピアノちゃんは何度も無言でうなずいた。ピアノちゃんの過去世が依代よりしろとなって、天帝の言葉を告げたのだった。


「天帝はこう言いました。今は岩屋に隠遁している前の天帝が岩屋から再びお出ましになったら、天帝の位をお返しするつもりだって」


「なるほど」


 拓也さんはうなずいて、言った。


「今がいよいよその時だということですかね」


 島村さんがその言葉を受けた。


「そうなると、天帝やその側近の水の眷属の御神霊はいいのですが、黙っていないのが元皇后でしょう。ものすごい天の闘いが起こることは必至のことじゃないですかね」


「そう、元皇后は九尾のキツネを操り、大量の妖魔を駆使しているといってましたね」


 悟君も言う。


「いずれにせよ」


 そしてまたみんなの視線は拓也さんに集まった。


「これは決して神話ではなく今この時代に実際に神霊界で起ころうとしていることなのです」


 前の天帝が岩屋よりお出ましになると杉本君がそう言ったのを聞いて、俺はふと思い出した。たしか婆様は「あまの岩戸」が開かれるみたいなことを言っておられた。

 だから聞いてみた。


「前の天帝が隠遁している岩屋とは、天の岩戸ですか?」


 そう、俺たちはみんな見ている。あの天まで届くような巨大な大扉を。あれが天の岩戸なのか……。


「天の岩戸は“古事記”に出てきますね」


 意外なことに、エーデルさんからそんな発言があった。エーデルさんは古文献だけでなく、外国人でありながら「古事記」まで読んでいるような人なのかと驚いた。

 でも、拓也さんは笑った。


「“古事記”のは本当の天の岩戸ではありません。そもそもその岩戸に隠れたという天照大神あまてらすおおみかみという神様は、実際はウガヤフキアエズ朝よりも四代前の王朝である天疎日向津媛天皇あまさかりひむかつひめのすめらみことという万国棟梁の世界大王で、女帝です。つまり御神魂を持ってはおられますけれど、肉体神です。本当の天照日大神あまてらすひおおかみ様は男神様で、天帝が統べる四次元馳身(ハセリミ)神霊界よりもさらに高次元の五次元耀身(カガリミ)神界の統治神です。この方と日の神様、月の神様が天の御三体神ですね。古文献では前の天帝、すなわち“国万造主大神くによろずつくりぬしのおおかみ様”が天神第六代。天照日大神様がその次の代の天神第七代になっていますけれど、そのへんは婆様が実際の神界・神霊界の実相とは違うと指摘していました」


 いよいよこれは、話のスケールが大きくなってきたぞ。


「あのう」


 チャコが手を挙げた。


「今の天帝のお名前は?」


「婆様も言っていた通り、これは人間が勝手につけたお名前ですけれども、“天照彦神あめのてるひこのかみ”と言われるそうです。そして元皇后に人間が勝手につけたお名前は“山武姫大神やまたけひめのおおかみ”だそうです」


「話を戻してもいいですか?」


 エーデルさんが軽く手を挙げた。拓也さんもうなずく。


「どうぞ」


「さっき拓也さんは、人間にばちを当てるのは邪神だけだって言いましたけど、邪神というのは悪魔サタンのことでしょうか?」


 少し間をおいてから、拓也さんは話し始めた。


「それは違います。例えば羊の群れがいたとします。その中の一匹が群れから離れて森の中へさまよい入ろうとしたら、牧羊犬が吼えてその羊を威嚇して群れに戻しますよね。その牧羊犬が悪魔サタンです。で、その群れから離れた羊を食らおうと虎視眈々と狙っている狼が邪神です」


「そういえば」


 話に入ったのは島村さんだ。


「かつて戦国時代に日本に来ていたイエズス会の宣教師が日本のお寺を見学したとき、山門脇の仁王像や不動明王像を“悪魔の像”として記録していますね。だから彼らは仏教を“悪魔崇拝”と決めつけてしまったようです。ほかに龍の水墨画も“悪魔の絵”と言っています」


 今度は悟君が話を受けた。


「確かに不動明王は今でいえば警視総監のようなお役目の方。まさしく牧羊犬のような役目をする方でお顔も怖いし、それを悪魔と呼んだのは正しいといえると思いますよ」


「そうですね。ですから、悪魔は邪神ではないのです。それに婆様は我が国の“鬼”というのも、火の眷属の御神霊のことだと言ってました」


「私もそのように聞きました」


 拓也さんの言葉に続いて、エーデルさんもうなずいた。続いてまた、島村さんが話を続けた。


「龍に関しても、新約聖書の最後にある“ヨハネの黙示録”には、竜と天使の闘いが描かれています。竜といってもあの長い体が鱗に覆われた髭のある龍ではなくて、異世界アニメによく出てくるあのドラゴンだと思いますけれど、黙示録はそのドラゴンはすなわち悪魔サタンであるという定義です。でも、悪魔が不動明王で警視総監ならば、ドラゴンイコール悪魔サタンという描写もうなずけます」


「火の眷属の御神霊は移動するときに龍体と化します。現にミヨイ国が沈んで我われが神霊界に帰ったとき、我われを迎えに来たケルブも天使ではなく龍体で現れましたよね。だから龍が悪で天使が正でもまたその逆でもない。天使は水の眷属の御神霊で、火と水のどちらが正義でどちらが悪などとはいえないのと同じです」


「ではなぜ戦うのですか?」


 美貴が鋭い質問だ。拓也さんは苦笑した。


「そのへんになると、婆様でないと分かりませんね。おそらく元皇后の山武姫神が絡んでいるようで婆様から少しは聞いていますけれど、また聞きで話してもなんですから、今度機会があれば婆様から直接お聞きしましょう」


 拓也さんの言うことももっともだ。だがその時俺は、あることを思い出していた。

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