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暁の歌、響け世界に3 《天の巻》  作者: John B.Rabitan
第5部 ヒラニプラの最後の空
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5 宣戦布告

 最後通牒の返答期限を無視したとしたら、それは通牒を送り付けた側から自動的に宣戦布告となるのが普通だ。

 だが、タミアラ国はすでにエビロスにおける我が国の入植地を攻撃していたし、民間人をも殺傷対象にしている。

 これはどう考えても通例に違反する。だが、どうも常識が通用する相手ではないらしい。

 タミアラと戦争状態に入ったということで、もちろん一般庶民のパニックはかなりのものだった。もちろん想定内のことであるが、開戦を告げる神王陛下の演説では、


「この国の六千四百万人の命は、絶対に守って見せます」


 と、力強く宣言していたのが印象的だった。

 それでも、人々はさっそく避難を始めたようだ。だが、いかんせん海に囲まれた大陸で、この大陸がすべて一つの国だ。だから逃げようにも逃げるところがない。

 唯一期待ができるのは、大陸北部の連峰状にいちだんと高くなっている連山の部分、その上には万国棟梁スメラミコト様がいらっしゃる世界の神都、すなわち万国政庁があり人類発祥の聖地でもある。

 だから、敵もその部分に攻撃を加えることはないだろうという目論見だ。

 あとは、船や飛行機で海外に逃げるしかない。

 だが、観光目的の団体旅行とはわけが違う。渡航先で受け入れてもらえるかどうかもわからないし、いわゆる難民として苦渋の生活を強いられることは目に見えている。

 それでも空港や港はごった返していて、出国者が後を絶たない。


 だが、すべての国民が国外退去を始めたというわけではないようだ。

 すぐに逃げようとしなかった人々は、高をくくっていた。

 宣戦布告されたといっても、タミアラ国は地球の裏側だ。エビロスには陸戦部隊が上陸しているようだけど、エビロス大陸とこの国のある大陸との間には海がある。

 艦隊で攻めて来るにしてもヒナタ・エビロスの最南端を迂回してでないとこの国には来られないのだから、航海に数十日かかるだろう。

 だから、いつかは攻めて来るにしても今日、明日の話ではないと思っていたようだ。


 だが、宣戦布告が深夜十二時、そしてわずか一時間後にはヒウケ・エビロス西海岸の港で、わが国の輸送船が攻撃されて撃沈したというニュースが飛び込んできた。

 すでにタミアラ国の陸戦隊も航空兵力も、エビロスの西海岸まで到達しているということだ。

 そして、夜が明けるとともに、国内のパニックは最高潮に達した。

 なんと大陸の東海岸沖に、おびただしい数のタミアラの艦隊が出現したのである。

 まさか一夜にしてタミアラから艦隊がこの国の近海に到着できるはずもない。


「やられた!」


 司令室で映像を見ながら、私は唸った。もちろん昨夜は一睡もしてはいないが、眠気などを感じている場合ではない。

 やつらはもう数十日前から今日のこの事態になることは予測していて……いや予測ではなく故意にそう仕組んで、艦隊をタミアラから出航させていたのだ。


「なぜ気が付かなかった?」


 私が通信機器を片手に叫んだのも当然だろう。

 叫んだ相手は、国防軍のシンシャ司令長官だ。何を隠そう、それも国防大将のパルーと同様に私の息子である。


「そんなおびただしい数の艦隊が我が国目指して航行してきているのなら、レーダーが察知するはずでしょう」


「でも、レーダーには何も映らなかったのです。本当です」


 恐らく敵はレーダーを防御する結界のような技術をすでに持っているのだろう。わが国にはそのようなものはまだない。


「とにかく国防軍は速やかに体制を整え、戦闘態勢に入るべし。出撃許可のすべての権限を与える」


「了解」


 こうして、開戦から数時間後には、わが大陸の東海岸を中心に交戦が始まった。

 タミアラ国の艦隊には当然おびただしい数の空母も含まれていて、戦闘機がまるでイナゴの大軍のように飛び立ってきた。

 迎撃するわが空軍も数の点では負けていない。

 激しい空中戦が繰り広げられ、艦隊からの艦砲射撃も激しさを増した。今や艦隊は地上にもミサイルを撃ちこめるまでに接近している。

 わが軍港から友軍の艦隊が出港して彼らの前に立ちふさがるには、もう時間がなさ過ぎた。

 それでもありったけの艦隊が戦闘区域へと全速力で航行している。また地上においても戦車部隊が敵の万が一の上陸に備えて海岸へと集結した。


 それと同時に大切なのは一般住民の避難誘導だ。だが、それがいちばん困難を極めた。軍隊の軍事行動は十分に訓練を受けている。だが、住民のこれまでの避難の訓練は十分とは言えなかった。なぜなら、あまりにもこの国はこれまで平和過ぎたからだ。

 ついに艦隊からのミサイルが発射された。まずは軍港が狙われる。同時にわが空軍との空中戦を潜り抜けて陸地の上空へと飛来した敵航空部隊が空爆対象として狙ったのは発電所であり、次に軍の飛行場であった。

 さらには軍港とそこから出航した艦隊をも標的であり、こちらの艦砲射撃で多くの敵戦闘機が追撃されたといっても、あとからあとから湧くのできりがない。

 さらにはテレビ塔も狙われ、軍需工場も爆撃を受けた。

 そして最悪なことに、それらを阻止するためにわが空軍も果敢に戦ったけれど、空爆を阻止するために撃破した敵戦闘機が多く民家の密集する町中に墜落したのである。これはもう防ぎようがなく、それだけにさらに速やかな住民の避難が必要とされた。


 だが、ついに私のもとには、民間人の死傷者の報告が入るようになってしまった。どうしようもないけれど、どうにかしなくてはいけないことだ。


 もう夕方である。その日の戦闘は何とか収まったけれど、沖合の艦隊は同じ場所に停泊している。


「補佐官殿、少しお休みになられては?」


 ダッキ―秘書長が気を使ってくれる。だが、一睡もしていないのは彼とて同じはずだ。

 とにかくその言葉に甘えて私は仮眠することにした。


「何か動きがあったらすぐ起こしてくれ。そして私と交代で君も休みたまえ」


 私はダッキ―飛翔長にそれだけ言うと、仮眠室へと向かった。


 なぜ、こんなことになってしまったのかと思う。

 仮眠室で横になっても、私はすぐには眠れなかった。体はぼろぼろになるほどに疲れ果てているのに、神経が高ぶっているのだ。

 ほんのつい昨日まで、人々は平和に暮らしていたのだ。

 あの空中遊覧飛行船で観光を楽しみ、若者の町では思い思のファッションでデートやレジャーを楽しむ人々、多くの飲食店では皆グルメを楽しみ、ショッピングを楽しむ人の群れで身動きもできないほどだった。

 それが一夜にして戦場と化した。

 何がどうなっているのか……とにかく私は眠ることにした。

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