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暁の歌、響け世界に3 《天の巻》  作者: John B.Rabitan
第3部 婆様上京 
26/95

6 白色同胞団

「ここからの話は、ほかでは話さないでください」


 そう前置きをして、エーデルさんの話が始まる。


「私は世界スメル協会という組織に派遣されてこの国に来たのです。でもそのスメル協会とは遥か紀元前にさかのぼる歴史を持っています。でも昔はヤハドゥートゥ、つまりユダヤ教の一派として、エッセネ派などと呼ばれていました。でも本当は白色同胞団と呼ばれていました。実は単なるユダヤ教の一派ではありません。その証拠に本拠地はイェルシャラインではなく、私が生まれ育ったミツライムにあります」


 あまりに突拍子もない話に、皆唖然として聞いていた。うなずいているのは、すでにその話を知っているらしい拓也さんと悟君だけだった。


「ご存じのとおりミツライムはムスリムの国です。そのムスリムの国の中で、私たちの組織はひっそりと隠れて活動しています。そう、紀元前の大昔から、私たちの本拠地はミツライムです。あの今ではすっかり観光地になっているピラミッド、あれは王の墓などではありません。神殿です。その神殿を昔は本拠地としていました」


 皆、驚きの顔つきをしていた。エーデルさんは話を続けた。


「かつてはエッセネ派、その実は白色同胞団、今は世界スメル協会と称しています。別に地下組織でも秘密結社でもないし、ましてやテロリスト集団では決してありません。かつてはユダヤ教に入り込んでいた時期もありましたけれど、今は宗教団体でもありません」


「今はもう白色同胞団とは言わないのですか?」


 杉本君の質問に、エーデルさんはうなずいた。


「はい。実は今、この国の言葉にすると非常に似たような名前になってしまうオカルトチックというかスピリチュアルな組織がありまして、それと間違えられやすいので名前を変えました。ネットなどで白色同胞団で検索してヒットするのは、私たちとは関係のない組織です」


「あなた方の組織の目的は何ですか?」


 島村さんが問う。もっともな質問だ。


「因縁の魂を集めることです。その魂によって世界の霊界を融合させて、真の平和を築くことです」


「でも、同じような名目で同じ信仰の者が集まって、他を排除している組織はありますよね」


 島村さんの突込みは鋭い。


「はい。確かにあります。でも、私たちはそういった組織とは性質が正反対です。他を排除するのではなく、むしろその“他”と融合してしまうことです。ですから、私たちは武力は一切用いません」


「ああ」


 美貴が感嘆の声を挙げた。


「さっきの婆様の話と通じますね」


「はい。婆様は私たちと同じ理念を高次元からのメッセージとして受け取っています。婆様こそ私が探せという任務を受けた因縁の魂だと感じました。そしてあなた方も婆様のこともすぐに協会の方に連絡し、皆大喜びで、ぜひその婆様と協力関係を結ぶようにとのことでした」


「もう、婆様には伝えたのですか?」


 俺が聞いてみた。


「はい。ぜひ世界スメル協会と婆様とで提携したいと。でも、断られました」


 そのいきさつをも知っているらしい拓也さんも、隣の席でうなずいていた。


「婆様は決して私たちの組織を否定はしませんでした。むしろ素晴らしいと絶賛してくださいました。でも、婆様自身が組織を作ることだけではなく、いかなる組織と提携することも、婆様自体が何かの組織に加盟することも、すべて高次元エネルギー体から禁じられているということでした」


 先ほどの話からしても、そうだろう。


「私たちの組織は全世界のいくつもの都市に私のようなメンバーを派遣して、因縁の魂を探しています。そういった魂を、個人として私のもとに送ってくれるのならうれしいと、婆様は言ってくれました」


「その因縁って、いったい何との因縁なのですか?」


「長き輪廻転生の過程で結びついた因縁、その因縁は超太古の『ムー』につながります」


「え? ムー?」


 チャコが声を挙げた。そして自分の胸のバッジに目をやったのは俺とチャコ、美貴の三人だった。


「ムーって、あの超太古に太平洋にあったというムーですよね。まさか雑誌の名前じゃないですよね」


 悟君が変な声で言うので、エーデルさんも笑った。


「超太古のムーです。雑誌ではありません」


「それでエーデルさんは、この国が『ムー』との因縁があるのではと、偽書とされている超太古の記録、いわゆる『古史古伝』の研究をするために、私のところに来たのですよ」


 そんなふうに拓也さんも付け加えた。


 島村さんが話を受けた。


「そういえば、前にアラビーンのレストランで、かつてイエス様もエーデルさんの組織に入っていたという話をしかけましたね」


「はい。イエス様は白色同胞団のメンバーでした。それだけでなく、ピラミッドの中の試験に合格して、『クリーストス』の称号を得ました。つまりそこで彼はキリストとなったのです」


「だからこそ、イエス様もその家族もエッセネ派に属していたという話が伝わっているのですね」


「イエス様が赤ちゃんの時、ヘロデ王の虐殺から逃れるためにミツライムに逃避したというのは、そこが自分たちが属する組織の本拠地だったからです。もちろん、バプテスマのヨハネも同じ組織のメンバーでした」


「イエス様がキリストの称号をピラミッドの中でもらったというのはいつのことですか?」


 こころなしか島村さんの目が輝いているように見えた。


「東方への旅から戻ってきた時点ですね。福音宣教の直前です」


「え? 東方への旅?」


 島村さんが頓狂な声を挙げるので、拓也さんが笑った。


「イエス様は十二歳から約三十歳で福音宣教を始めるまで、その間の事跡が空白ですよね」


「はい」


 島村さんは大きくうなずいた。拓也さんは続ける。


「その期間、イエス様は東方への旅に出ていたようです。しかも超太古の文献によれば、この国にも来ている。イエス様だけでなく釈尊も」


「はい?」


 今度は悟君も身を乗り出した。


「みんなこの国で修行をしたことになっています」


 拓也さんの言葉をエーデルさんが受けて言った。


「イエス様はまず船でインドに行って、そこでイッサと名乗って修行をしました。最初はバラモン教の寺院で。そしてそこを飛び出して仏教の集団に加盟しています」


「どうしてそんなこと、わかるんですか?」


 俺が聞いてみた。

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