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暁の歌、響け世界に3 《天の巻》  作者: John B.Rabitan
第3部 婆様上京 
24/95

4 Harbor Light

 まだ日は高かった。

 俺たちはホテルに戻る婆様を乗せた車を見送った後、悟君のお寺を辞することにした。

 でも、聞いた話の衝撃に皆すぐには帰ろうとはせず、とりあえず場所を変えて喫茶店で話でもしようということになった。

 聞くと、拓也さんお勧めのコーヒー専門店があるという。今度は近くて徒歩で数分とのことだった。


「狭い店だから、一応電話で予約しよう」


 たしかに、十二人で押しかけるのだから、いきなり行ったら満員と断られる可能性もある。

 さっそく拓也さんがその場でスマホで確認の電話を入れ、話しながら俺たちに親指と人差し指で輪っかを作って見せ、「OK」であることを示した。


 もちろん悟君やエーデルさんも一緒だった。

 たしかに歩いて四、五分のところで、坂を下って大通りに出たその角のビルだ。

 実はここは拓也さんのアパートや悟君のお寺に行くために地下鉄を降りてから、大通りを赤いテレビ塔の方へ曲がる曲がり角だから、これまで何度もその前を通っていたところである。

 プロテスタントの教会の隣の小さな七階建てくらいのマンションのようなビルの下で、角に入り口がある。右が二階に続く上り階段で、その上は小さなレストラン。コーヒー店はその階段の左の地下に降りる階段だった。

「Harbor Light」という看板が出ている。

 見上げるとおしゃれならせん階段がビルの外階段として上まで続いていた。


 階段を下りて店内に入ると、コーヒーの香りが漂っていた。

 照明は暗く、たしかに狭いけれどアンチックな感じだ。床も木張りで、テーブルもいすも木目のある黒っぽい木でできている。

 カウンター席とてテーブル席があり、カウンター席に数人、先客がいた。

 テーブル席はすでにいくつかつけてセッティングされ、十二人が座れるようになっていた。おそらく拓也さんの電話を受けて、準備してくれていたようだ。そこまで便宜を図ってくれるということは、拓也さんはかなりここの常連なのかもしれない。

 たしかに、カウンターの中にいたマスターは、拓也さんを見るとニコニコ笑顔を向けた。


「先生、今日はかなり大勢のお客さんと一緒で。学生さんたちかな? 昔の教え子?」


「まあ、そういうことにしておこう」


 拓也さんも笑って言った。確かに俺たちの関係性を説明するのはめんどくさく、そういうことにしておいた方が手っ取り早い。

 カウンターの向こうの棚にはウイスキーの瓶などが並んでいてもおかしくないようなそんなバーのような雰囲気の店だけど、棚に並んでいるのはコーヒーカップだった。

 奥の壁には振り子時計もあって、その前も時計を囲むような形で二、三人が座れる座席となっている。


 席に着くと、皆ブレンドや各銘柄のコーヒーのストレートなどを思い思いに注文した。

 そしてコーヒーが来るまで、俺たちにとってこちらの世界では初対面になる島村さんに、互いに自己紹介をした。俺とチャコ以外は拓也さん、悟君やエーデルさんとも初対面なので、また互いに自己紹介をした。


「島村さんはカトリックの神学校に通っておられるんですね。それがなぜあのお寺のご住職と懇意に?」


 拓也さんは、話題のきっかけに島村さんに話しかけた。


「はい。私はカトリックの神学生としては、あまり真面目ではない……。いや、それはカトリックという見地からすればですけれど、自分の教会の神父様のようにカトリックの教え一筋になれないんです。カトリックの教えはそれはそれで奥深いものですけれど、そんな宗教の垣根を超えたもっと広く大きな真理があるのではないかと、ほかの宗教にも接してみたいと思ったのです」


「今まで、そういった機会はなかったのですか?」


「父も母も敬虔なクリスチャンで、私は生まれた直後に洗礼を受けさせられたんですよ。幼いころから教会の日曜学校に通い、ほかの宗教に接することはなかったですね。今ではそんなに厳格ではなくなってますけど、かつてのキリスト教は他宗教に接する、つまりお寺や神社に参拝するだけで罪とされたんです」


 これにはその場にいた人々が驚きの声を挙げた。


「だから私は中学や高校の時も、友達から夏祭りや初詣などに誘われても、断らざるを得ませんでした。何よりも小学生のころなど日曜日には友達はみんな野球やサッカーで一日遊んでいたりするのに、私だけそんな誘いも全部断って教会に行かなければなりませんでした。あの頃はそれが悔しかったし悲しかったですね。そんな親への反発が、私に真理へ目を向けさせたといっても過言ではないかもしれません」


「じゃあ、松原さんも同じような感じですか?」


 拓也さんは今度は話を悟君に振った。その時みんなのコーヒーが淹れ終わって次々に運ばれてきた。前のアラビーンの店のコーヒーのような特殊なものではなかったけれど、それなりにおいしかった。


「私ですか。私はもっと、宗教全体が嫌でした。私も霊的な世界に関心を持ていろいろと調べるうちに、いかに宗教が霊的なことに無知であるかわかって呆れたのです」


「でも結局二人とも神学校に行ったり寺で修行をして仏教系の大学に通ったりしてるんですよね」


「究極の反抗です」


 島村さんは笑った。悟君も同様だった。


「私もそうです。内部に入り込んでしまえばと。ところで、島村さん。先ほどの婆様の話に合った新宗教に関しては、カトリックはどう見ているんですか?」


「ほとんど相手にしていませんね。今でこそほかのプロテスタント諸派の教会ともキリスト教一致ということで歩み寄りをしていますけどね。新宗教の中には確かに一部危険なカルト教団もあることはあるでしょうけど、どうもカトリックは新宗教全部をそんなカルト教団を見るような眼で見てしまっていたりする。私はキリストの精神で、そこに一石を投じたい。そのためには一信徒では力不足なんです」


「キリストの精神といいますと?」


 杉本君も話に入った。島村さんは全体を見た。

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