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呪想幻談  作者: へんさ34
呪夢
8/21

大虐殺

「お姉ちゃんは逃げてってば!」


 妹は薙刀を握りしめて叫ぶ。階下では刃を交える金属音が聞こえ、時折爆発音も混ざる。


「わたしも戦う。ユイが残るなら私も残るよ」


 私は毅然と言い放つ。


「そんな練習用の短刀で戦う?無理に決まってるじゃん!お父さんが逃げろっていってたでしょ!」


 ユイは叫ぶ。


「それはユイだってそうでしょ!?」


 私も叫び返す。


 突如として階下の音が止む。


 ヒタヒタと階段を上がる足音。


 私達は息を飲み、ボンヤリと紫に光るドアを見つめる。


 バチッ、という音と共にドアは吹き飛ぶ。


 ユラリと男が入ってきた。


 二人同時に武器を構える。


 足が震える。力が入らない。今にも短刀を取り落としてしまいそうだ。


「とにかく、お姉ちゃんは逃げて」


 さっきと打って変わった冷静な声。


「わたしも戦うってば」


 私は気取られぬよう精一杯繕う。


 ユイはちらりとこちらを見る。


 鳥肌が立つ。


 いつもの、おっちょこちょいで天然な妹はそこにはいなかった。その目は氷のようで、怯えている私を刺し殺すかのようだった。


「まともに呪力も扱えないクセに、何を馬鹿なこと言ってんの。足手纏いだから私に見捨てられる前に失せろ、って言ってんのよ」


 ユイは再び前を向く。


「失せろっつってんの!!」


 怒鳴り声。


 私は逃げ出すように窓から飛び降りた。


 そのまま、走り出す。


 靴下にアスファルトが食い込む。息が白い。ぼやけて前が見えない。





 


 どれほど走っただろうか。


 靴下は破れてしまった。冬の空気が肌を刺す。





「ああああああああ!!!」


 ありったけ叫びながら短刀を地に叩きつける。


 カシャン、と音をたてて跳ねた。


 膝から崩れ落ちる。硬い。冷たい。痛い。苦しい。





 どれくらいそのままでいたのだろうか。私はゆっくりと立ち上がった。


 とにかく助けを呼ばないと。


 知り合いの呪術師の家を訪ねて回った。


 どこの家も結界が破られていた。生き物の気配もない。


 中を確認する気にはなれなかった。





 家に戻ったときには、もう空が白んでいた。


『夜明けってのは白んでからが長いんだ。覚悟しろよ』


 唐突に父の言葉を思い出す。


 昔、山へ鍛錬に行ったときに言ってたんだっけ。懐かしいなぁ。


 私は玄関のドアを開ける。




 腕が吹き飛び、胸に大きな穴の空いた母が倒れている。


 コツン、と何かに躓く。見ると、右腕だった。


 私はとうに果てた母を跨ぎ、居間へ入る。


 首から上がなくなった父がいた。首から上はどこへいったんだろう。後で探さなきゃ。


 二回へ上がる。ドアがあった場所をくぐる。




 妹が、いた。


 床に伏せるようにして倒れ、背中には薙刀が突き立っている。


 私は、無造作に薙刀を引き抜く。




「ははは……」


 笑い声が漏れる。


 一度笑い出したら、止まらなかった。


 私は笑う。笑う、笑う、笑う、笑う、嗤う。


 なぜか涙が頬を濡らしていた。

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