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豹人族

 ミーアは玄関を入る前に気付き、自分の足で立った。

 少し離れて俺の屋敷を見る。


 「おっきー!」


 俺たちは笑って手招きし、家の中に入れた。


 少し水を飲ませ、トイレの場所を教えた。


 「今日はもう遅いから寝よう」


 ミーアのためにイリスがベッドを整え、案内する。


 「こんな綺麗な部屋で寝ていいの?」

 「そうだ。ここが主の用意した部屋だ」


 イリスは素っ気ないが、しっかりと伝える。


 ミーアが、俺の部屋に来た。

 ノックはない。

 そういうことは知らないのだろう。

 ミーアは緊張しているのか、長い尾を上に立てていた。



 「あの、今日はいろいろとありがとうございました」


 礼を言いに来たらしい。

 俺は手招きし、ミーアの頭を撫でてやる。


 「気にするな。俺たちが好きでやったことだ。今日からここに一緒に住めよ。もう大丈夫だからな」


 俺が言うと、ミーアが気絶した。

 緊張の糸が切れたのだろう。


 イリスが様子を見に来る。

 「主、自分が部屋へ運ぼう」


 しかし、気を喪ったまま、ミーアは俺に抱きついて離れない。


 「今日はこのまま一緒に寝るよ。まだ身体も弱っているし、様子も見たいからな」

 「分かった。何かあったら呼んでくれ、主」

 「ああ、おやすみ」

 「おやすみ、我が主」



 ミーアは朝まで目覚めなかった。

 ずっと俺の手を放さなかった。


 目覚めて、俺の腕に抱きついているのに気付き、慌てて飛びのいた。


 「すいません。全然気付かなくて」

 「いいよ。俺もミーアが隣でぐっすり眠れたよ」

 笑顔でそう言ってやる。

 ミーアは恥ずかしそうにしていたが、イリスが迎えに来て、顔を洗いに行った。


 朝食を食べると、ミーアがまた眠そうにしている。

 俺は部屋へ連れて行き、寝かせた。

 体力が著しく衰えている証拠だ。



 「主、知っているだろうか」

 俺がリヴィングでお茶を飲んでいると、イリスがそう言った。


 「何をだ?」

 「我も詳しいことは知らない。前に獣人の女から聞いた話だ」

 「話してくれ」


 「獣人は子どもを溺愛するそうだ。これ以上はないというくらいに可愛がる。そうやって育てるそうだ」

 「そうなのか」


 「親から愛されて、獣人は強くなる。不思議だが、そうらしい」

 「ありがとう。いい話を聞いた」

 「役に立てたのなら、嬉しい」


 イリスは美しい顔で笑って、そう言った。


 「じゃあ、今日から思い切り可愛がってやるか!」

 「そうだな」





 夕べは行けなかったので、俺は心臓街道を昼間に一度見回った。

 

 戻ると、ミーアが起きていた。

 イリスが用意した遅い昼食を食べている。


 「おかえり、主」

 「ただいま、イリス」

 「お、おかえりなさい」

 「ああ、ただいま、ミーア」


 俺はミーアの頭を撫で、可愛らしい耳をクシャクシャしてやる。

 ミーアは嬉しそうな顔で喜んだ。

 尾を左右にくねらせる。

 カワイイ。



 イリスが俺を見詰めている。

 イリスの頭も撫でてやると、幸せそうな顔をした。



 俺は食事を終えたミーアを膝の上に乗せ、地図を広げ、ここの場所を説明してやる。

 ミーアはまったく嫌がるどころか、時々俺を見上げ、嬉しそうに微笑む。


 「じゃあ、ここは本当に黒い森の中にあるんですね」

 「そうだ。怖いか?」

 「ううん。トラティーヤさんやイリスさんがいるから」

 「そうかぁ!」


 俺はミーアを抱き上げ、高く掲げてやる。


 「ミーアは勇気があるもんな!」


 そのまま回ってやると、ミーアが喜んだ。

 前に抱き上げて、家の中を案内してやる。

 ミーアは俺の首に手を回し、腕の負担を軽減してくれた。


 一通り回ると、ミーアは俺の耳元で囁いた。


 「パパみたい」


 それは、両親を喪い、苦労を続けてきた哀れな少女の小さな願いだったのだろう。


 「よし! 俺は今日からミーアのパパだ!」


 俺が叫ぶと、ミーアは涙を流した。


 「おい、どうした? もしかして嫌なのか? そうだったら」

 「ううん、嬉しいの」

 「そうか?」

 「うん。本当にパパなの?」

 「そうだよ。今日からな、そうなっちゃったよ。もう、これは運命だな!」

 ミーアが泣き顔で微笑んだ。



 夕飯を食べ、風呂に入り、ミーアは俺のベッドで眠った。


 リヴィングのテーブルで、イリスと話す。



 「まずは、ミーアの体力を取り戻さないとな」

 「そうだな」


 「なるべく栄養があって、消化もいいようなものを頼む」

 「了解した、我が主」


 イリスは俺の顔を見ている。


 「何か心配事でもあるのか?」

 「そうではない。そうではないのだが、ちょっと気になることはある」

 イリスは珍しく、直言を避けているようだ。


 「なんだ。何かあるのなら言ってみろ」

 



 「主、これは我の勘違いかもしれないから、もしそうだったら叱ってくれ」

 「なんだよ、いつものイリスらしくねぇなぁ」


 「すまない。では主に問うが、主は獣人、もっと言えば、ミーアと同じ豹人族と何かあったのか?」

 「どうしてそう思う?」

 「主とはまだ一月の付き合いだ。しかし、我は真名で誓いを立てた。だからある程度は主の感情が伝わってくる」


 「そうか」

 真名の誓いは、誓約者との絆が深まると聞いたことがある。


 「主は、ミーアのことになると、少々感情的で、そして感傷的だ」

 「……」



 「別に我に説明する必要はない。ただ、そういったことが初めてだったので言ってみただけだ。気に障ったのなら申し訳ない」

 「いや、別にいい。そうだな。イリスには話しておこうか。確かに俺は豹人族と関わりがあった。もう随分と昔で、俺がまだガキだった頃だけどな」










 俺は話し出した。

 長い話になると言い、イリスにお茶を用意させた。

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