表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

剣士と豪雷

 二週間もすると、イリスは万全になった。


 外を歩きたいと言う。




 俺はイリスと心臓街道を歩く。



 「やはり、外は気持ちがいいな」

 「散々人の家で世話になっていた奴が!」

 イリスは笑った。


 「まあ、そう言うな主。良いものは良い」


 イリスとの主従関係は自然な形になりつつある。




 俺を主と呼びながら、持ち上げ過ぎることはなかった。

 俺のために命を擲つというのは本心だとは思うが、卑屈な態度がまったくないのは気に入った。


 気持ちの良いほど真っ直ぐで、育ちの良さが伺える。

 気を遣わないばかりか、友人のように接してくれる。


 



 「ああ、お前は剣士だったか」

 「その通りだ、主」


 「でも剣を持ってないよな?」

 「そうだ」


 なんでそうなのか聞いてんだ!


 「無くしたのか?」

 「いや、里を出るときに持って出なかった」

 「それじゃ、心臓街道なんて歩けねぇだろう!」

 「そうだったな」

 「お前、どうかしてるぞ」

 「アハハハハ」

 屈託なく笑う。





 「これはな、我の運試しだったのだ」

 「どういうことだよ」


 日差しが気持ちいい。


 「我はある罪で里を出なければならなかったのだ。だから自分に生きる運命がまだあるのなら、丸腰で向かっても生き延びるだろうというな」

 「無茶苦茶だな」


 俺はなるべくイリスに日差しを当てるように歩いた。


 「まあ、どうでもいいか」

 「うん。我は生き延びた。それがすべてだ」


 イリスは日を浴びて、そのプラチナブロンドの髪を輝かせた。


 「じゃあ、主としてお前に剣をやらないとなぁ」

 「ほんとうか!」

 イリスが最高の笑顔を見せる。

 言ってみるもんだ、と思った。


 「うちに沢山余ってるからな。好きなものを選べよ」

 「ああ、楽しみだ」


 早速帰ろうと言い出す。

 俺はもう少しイリスの輝きを見ていたかったので、「あとにしろ」と言った。






 屋敷に戻り、イリスは早速剣を見たがった。

 俺は武器庫に案内する。


 イリスが目を丸くして硬直した。


 「これは、すべて主の所蔵物なのか?」

 「そうだよ」

 「驚いた」


 壁には数々の剣や槍などの武器が掛けられ、防具も反対の壁に立てかけてある。

 入り口と反対の壁には、魔導具類だ。


 「どれも一流のものではないか」

 

 イリスは嘆息しながら、一つ一つ剣を見ている。




 「これはミスリルか!」

 やや細身の剣を手に取った。


 「そうだ。だけど魔力を込めると膨大に吸われるからな。自信がないならやめておけよ」


 イリスはバランスを測るように軽く振っている。

 俺の話は聞いちゃいねぇ。



 「これを借りても良いだろうか、主」

 「借りるんじゃなくて、お前のものだ。俺を見限って街で売れば、数十年は遊んで暮らせるぞ」

 「そんなことをするわけが無いじゃないか」

 そうしてくれてもいいんだが。


 「ではこれにする。感謝する、我が主」

 「はいはい」





 イリスを庭に連れ出し、好きなように振らせる。

 俺もイリスの腕前の程度を確認しておきたかった。


 「ちょっと技も見せてくれないか」

 「承知した、主」



 イリスは流れるように型を始めた。

 美しい動きだ。


 ミスリル・ソードが光る。

 イリスが魔力を込めたのだ。


 そのまま、空に向かい放った。

 剣から眩い炎が生まれ、虚空に向かって飛んでいった。


 イリスの魔力量は十二分にあるようだ。





 「今の炎は、何回くらい撃てる?」

 「数えたことは無いが、「たくさん」という感じか」


 素晴らしい。


 「よし、少し打ち合ってみるか」


 俺は一振りの剣「ハイドヴァイパー」を取り出した。

 白い刀身に、暗い赤の線が纏わりついている。



 「主! 今のは!」

 「ああ、ストレージか?」

 「主は保管庫持ちか!」

 「そうだが」


 イリスは驚いているようだ。

 だが、こんなもんで硬直されては俺の従者は勤まらない。




 「よし、好きなようにかかってこい!」

 俺の言葉に我に還り、素早い動きで打ち込んで来る。

 俺は軽く裁いていく。


 イリスの様子見はすぐに終わった。

 俺の力量はある程度分かったようだ。


 先ほど型で見せたような、美しい動きが始まる。

 俺がスピードを上げると、イリスも追いついてくる。

 

 しかし、イリスの限界が来た。

 俺は剣を収めた。




 「あ、主も剣士だったか」

 「いや、違うけど?」

 「は?」


 俺はイリスと同じように、空に向かって魔力を放つ。


 「螺旋」


 豪雷のような重い響きと共に、突き上げた右手から振動波が虚空に昇っていく。

 上空の雲に、大きな穴が空いた。

 その周辺の雲が輝く。

 本物の雷が鳴った。


 イリスは呆然とそれを見上げている。


 「主は、あんな魔法が撃てるのか」

 「ああ、一応無限にな」


 「……」







 イリスは雷と俺を交互に見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ