1話
ペンギンは本来なんだったのかなどの記憶がない
性別や、年、人間であったか、その他であったか
目的もなにもまっさら
ペンギンになると帽子をもらって光にむかって歩く
転生を待つ
その意思だけはっきりとあり導かれる
それをサポートする死神
だからありえないのだ
饒舌にそして女性らしき口調で
死神に意見してくることなど
本来はありえないことなのだ
「私はまだ死んでいない!」
突然列を乱し、ペンギンを押しのけ私の元へたどり着いた1匹のペンギンがそう叫んだ
人は死ぬとペンギンの姿で雲を歩き
転生までの道のりを辿る。
その道中はあらゆる現世のことを忘れ、綺麗になり、私の渡す帽子を被り希望だけ抱きどこまで歩けばたどり着くかもわからない光へ向かう
つまり私の前に立つ時、そんな言葉を発せる程
思いは残って居ないはずなのだ。
「私は間違えてつれてこられたのよ!」
話口調からしては女なのか、そのペンギンはヒステリックに叫ぶ。
死人と、生者を早々間違えるわけがないと思うのだが、そんな事故が起こりえるのだろうか。
気を取られている間も波は乱れて私の周りにペンギンが群がる。
「なんとか言いなさいよ!どこの死神も私には分かりませんって…!」
「私にも分かりかねます」
そう答える他ないのだ。
「もう聞き飽きたわ!こうなったら強行手段よ!」
意思を持ったペンギンはそういうと、私を押しのけ、雲を降りようとする
「そっちは」
ダメだ!
そう言い振り向こうとした時だった
ドンッとペンギンの群れに押し寄せられる
沢山の帽子を雲の上に残し
必死で捕まろうと伸ばした手も虚しく
空へ落ちた。
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「…がみ…さ…」
「し…み…さん…!」
「死神さん!!」
ハッと目を覚ますと、そこには1匹のペンギン。
何故か髪の毛が生えていてショートカットの女の子と思える。まだ若い成人くらいの面影を何故か感じた。
「ここは…」
とりあえず絞り出した声でありきたりな質問をする。
「ここは下界よ、私が生きてる街よ。偶然かもしれないけどここに落ちてよかったわ」
周りを見渡すと、川沿いに何本もの木が並ぶ河川敷。
生い茂る草の中私は寝転んでいたのか。
人が多くはなさそうで、変に目撃されないことがわかり安堵する。
「私はまだペンギンのままだし、体はないし、この街が私の住んでいるところだと思い出したら、髪を思い出したわ。」
「ほんとよく分からないシステムね」
彼女は不思議そうに自分の体を眺めるとそういった。
実際、私も初めての現象で、初めての下界なわけで
正直何一つどうしたらいいかわかってない。
だが、彼女は死神でしょうよ、何とかしなさいばりに私をたたき起こし、話を始める。
「私は死んでない」
「またそれですか」
「だって、私はお見舞いに来ただけだったのよ?!」
「だとしても、そのお見舞いの途中で事故にあわれたのではないのですか」
「いや、そんなことは無いわ!そんな気がするもの!」
雲の上で列を、波を、ペンギンを乱し、私をも困惑させ落ちるはめになってしまった理由が、そんな気がするで行ったことなのかと。
心底私は巻き込まれてしまったことがしょうもなく感じた。
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空高くに雲が見える
なぜあんなとこから落ちて無事なのか謎に思いながら
死神は空を見上げてため息をつく
だが彼女はお構いなしだ
「とりあえず、進んでみましょ!」
張り切って彼女は言う
下界では異様な姿、髪のある喋るペンギン
死神の手を取ろうと伸ばしているその手のつもりであろう翼がぺしぺしと死神の手をたたく
死神は仕方なく立ち上がる、緑の香りを払う
「どこに行くのですか」
「わからないわよ、取りあえずお見舞い...そう、お見舞いに行くの!」
どこへ…
そう思う死神をよそに彼女はおぼつかない足取りで河川敷の草むらを進む
本来ならばここまで記憶、目的を持ったまま天界へ上がりペンギンになることはない
ペンギンたちは最初からそうであったように波に流れ転生まで光に向かって歩き続けるだけなのだ
確かになにか間違い、異常、エラーがあってここまで来てしまったのだろう
だが死神も最初から死神であった
帽子を渡す仕事を与えられ、ペンギンたちの行き先を教える役目があった
それ以上でも以下でもなかったのだ
イレギュラーな出来事になすすべもない
彼女についていくしかないのであろう
「はやくきなさいよ!」
「はあ」
気のない返事をしながら急き立てる彼女に死神はついていく
この先に何が待つかもわからないまま
ペンギンたちが希望をもって光に向かっていくのとはまた違う
なんとなく不安な背中に向かって死神もいい気持ではないままついていく