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それは神話の物語

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 かつて、とある世界には一柱の荒れ狂う神が存在した。


 その神は、元々は創造神。

 空を、大地を、海を開き、無垢なる生命の原始を育み育てた慈愛の神だった。


 自らの創り上げた世界を愛し、自らが創り上げた生命を愛し、時に厳しくも優しくこの世界を見守り続けるその神を、人々は敬意と畏怖を持って尊敬し崇め、また他の多くの神々も信頼し世界の安寧を守るために属神として従った。

 

 創造神の名前に相応しき偉大なる神として、この世界の頂点として君臨していたのだ。

 

 だが──何をきっかけとしたかは定かでは無いが──神は突如として豹変した。


 憎しみによって空は荒れ、怒りによって大地を抉り、嫉妬によって海を汚す。

 世界はたちどころに暗黒に包まれた。

 破壊の権化となった(くら)き神は、その身から殺戮と暴力と簒奪の化身たる魔のモノ

──魔物を生み出した。


 その時代は、まさに暗黒の時代。

 死が溢れ、瘴気に満ち、地獄の様な負の感情が渦巻く混迷たる世界。


 神々は憂いていた。

 かつての偉大なる創造神は、もはや存在しない。

 邪神、暗黒神、魔神、破壊の神へと成り下がったかの存在を、もうこれ以上許す訳には行かなかった。


 大いなる神への反乱。

 後の世に『革神大戦』と呼ばれる、長い長い神話戦争はそうして始まる。

 

 最も強き力を持つかの創造神に対抗するには、他の神々の力を全て結集してでも足りなかった。

 神々は思案し、手を尽くす。

 異なる次元世界の神々へと助力を乞い、創造神が持ち得ないこの世界には無い全く新しい『因子』を世界に混ぜ、やがて神に近しい力を持った生命を誕生させ手勢に加える計画────『英雄ノ軍勢』。


 結論から言えば、この計画は成功する。

 気の遠くなる程長い時間をかけて連なり育成された『英雄ノ軍勢』その数──数十万。

 

 創造神の作り出す魔のモノの軍団を凌駕する力を持ったその軍勢を従えて、神々はついに大神への反逆を成し遂げる。


 多くの犠牲を払った。

 軍勢はその多くが命を落とし、神々ですら傷つき倒れ、大地には決して癒えない傷跡を残し、それでも彼らは勝利したのだ。


 かの悪逆たる神は討ち滅ぼされた。世界には安寧の光が(もたら)される────筈であった。


 だがそう上手くは事は運ばない。


 まず、創造神を失って乱れた世界の均衡を正しく保つ、新しい大神が居ない。

 先の『革神大戦』によって多くの力ある神が倒れ、世界を保持できる程の力量を持つ柱は限られていた。


 白羽の矢が立ったのが、まだ神としては年若い────『娯楽』を司る女神。

 大戦時に必要とされない『遊び』の権能を持つその神は、(いくさ)において全くの無力であり無能だったが為に戦場から隔離され、他の神々が満身創痍でヒィヒィ言ってる時も呑気に遊び呆けていた。


 故に、元気。

 あろう事か、マジで元気。


 神々も疲れていたのだ。

 でなければそんな、最も愚かな選択をする事もなかった筈。


 女神と言えど司るは『娯楽』。

 世界の運営に役立てる権能では無い。

 よしんば役立ったとしても、あまり良い結果になるとは到底思えない。


 だが他に、神としてその身を成り立たせるほどの力を持った者は存在しない。

 つまりこの世界は『居ないよりはマシっっしょ』の精神で無理やりトップに据えられた、アホ女神によって運営されているのだ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「聞いてくださいよぅ! もう私ストレスで禿げそうなんですぅ!」


「離せ」


 神界の中心、世界を見渡せる泉が湧く荘厳なる神殿の最奥。

 そこは管理者が座る玉座が置かれた、煌びやかな間。


 そんなギンギラギンに輝きまくった目に優しくない部屋で、オレはうんざりしながらアホ女神に身体を揺らされている。


「どいつもこいつも何もしないくせに口だけ挟んできて! なにか問題があったら全部私のせい! むりやりこの席に座らせておいて酷いと思いませんか!?」


「離せ、あと揺らすな。ていうか離れろ」


「私だって頑張っているのにぃ〜!」


 その身に纏うのは薄布一枚にシースルーの腰帯だけ。

 乳房から腰のラインから、切れ上がった股の形までもがくっきり浮かぶもはや服としての機能を果たしていないその出立(いでた)ちの女は、相変わらずオレの話など一切耳に入れない。


「えぐ、えぐっ、上からはお小言を言われて、下からは不満を言われてっ。もうっ、もうどうしたらいいのかっ」


 長いふわふわな青髪と、豊満すぎてエロスより先に面白さが勝つその胸元をゆっさゆっさと揺らしながら、アホ女神は涙と鼻水でグジュグジュに濡れている顔をオレに肉薄させる。


 ストレス、溜まってんだなぁ。

 お前アホだから、そんなモノとは無縁だと思っていたわ。


「あのさぁ。お前の立場がしんどいのは理解できるんだけど、オレがアイツのメシ食って死ぬタイミングを見計らって時々ここに呼び出すの、もうやめてくんない?」


「ひ、ひどいっ! だって貴方、あの子の料理を食べたときだけ復活が遅いからいつも暇してるじゃないですか!」


「別に暇してるわけじゃ無いんだよ?」


 そもそも誰がオレをそんな身体にしたのか、理解してますか?

 他の誰でもないお前なんだけど?


「そっ、そんなに私に会うの嫌なんですかぁ!? 私のことそんなに嫌い!?」


「なんで嫌われてないと思えるのかが本当に不思議」


 お前の罪を数えて欲しい。

 割とマジで、オレはお前に殺意を抱いているからな?


「私は貴方にとても強い力を授けたし、あの世界において何不自由無い生活と立場を保証しているじゃないですかぁ!」


「人のムスコを人質にとっておいて……よくもまぁそんなことを言えるわ」


 この年齢において、不能という事がどれだけ拷問か。

 どうせ奪うならいっそのこと性欲も一緒に奪って欲しかったんだけど?


「そ、それは仕方がなかったんですよぅ。貴方たちがまぐわってあの子の因子を短時間でポコポコ増やされたりしたら、それこそ世界の均衡はガッタガタに崩れちゃうから……。だから、子作りはご褒美にっって言う形にして管理しておかないと……」


 じゃあオレじゃなくてアイツの生殖能力を奪うべきじゃないですかねぇ?

 まぁ、もう神の力ですらアイツをどうこうできなくなっているのは……身を持って理解しているけどさ。


「それで、『お仕事』は上手く行ってます? 一応、部下天使から細かい報告は受けてますけど」


「まぁ、ボチボチ。今回の奴は隠れるのが上手くてまだ見つけきれて無いんだが、そろそろ痺れを切らしてどっかで暴れるだろ」


 報告書を見た感じ、かなりの女好きらしいしな。

 あの国の娼館は全部『根』を植え付けてあるし、いずれ必ずオレらの捜索網に引っかかると踏んでいる。

 どこかの村で略奪なんかした日にゃあ、すぐに飛んでってとっ捕まえてやるつもりだ。


「はぁ、かつてはその名に恥じない『英雄』の家系だった者が……肉欲と快楽だけに溺れて悪逆の限りを尽くすだなんてほんとみっともない……」


「お前ら神がちゃんと管理できなかったのも原因の一つなんだけどな」


 その尻拭いで巻き込まれたオレが一番の被害者だと思うんだ。


「うっ、ううっ! それはそうですけどっ、でも私のせいじゃないもん! あの計画は他の戦の神々が主導で行ってて、『大戦』中は私は何も知らなかったもん! ずっと神威の森で妖精と遊んでたんだもん! アイヤ悪くないもんっ!!」


 大きな目に大粒の涙をこさえて、『娯楽』の女神アイヤー・リュセイオンはわんわんと泣き始める。


「ねぇ頑張ってるじゃん! できないことをできるように、アイヤ頑張ってるじゃん! なんでみんなアイヤを苛めるのぉ!? こんなに頑張ってるのにぃ!」


「おっ、落ち着けって。知ってるから、お前が頑張ってるの知ってるから!」


「ふぇええええんっ、褒めてくれるの貴方だけええええっ、しゅきぃいいいいっ」


 胡座をかいたオレの腰にがばっと伏せて、女神は声を張り上げる。

 その頭の位置はとても不味いんだが、機能を奪われたオレのムスコはぴくりとも反応しない。

 こんなにも劣情だけは刺激されているのに、我ながら悲しくなる。

 泣きたいのはオレの方だ馬鹿野郎。


 はぁ、もう。

 損な役割だよなぁ。オレって。

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