二章:度々
「どういうことだよ?」
俺は肉迫に鬼の形相を重ねて師匠にそう聞いた。
「逃げ出したお前が先に言うべき言葉はそれか?」
「……すみませんでした」
「だよな?」
師匠に鋭い目つきでそう言われ、俺の感情はシュンとする。
「まあ、無事で良かったよ」
「師匠………」
驚いたことにホッとした表情を見せる師匠。俺の頭まで撫で余程心配してくれていたのか。
「よし、謝罪も貰ったし、もう大丈夫か。修行の続きはするんだよな?」
師匠ってこんな優しかったっけ?
「お久しぶりです。天王寺さん」
「立派になったね、千鶴ちゃん。良くここまで来てくれた」
「私は雷斗様に身を捧げる所存。至極当然の事でございます」
深々と丁寧に頭を下げる千鶴と、うんうんと我が子の様に成長を見守る様な師匠。
「そうかそうか、順調か」
「はい、まあ?」
「過去も拭えたか?」
なんだこの感じ。
「いや、そんな簡単には行かないけど」
「駄目か……」
変だ。
「え?」
師匠は放つ。
「じゃあ死ねよ」
「……は?」
!?
師匠が強力な能力者との戦闘時に見せる威圧感と恐怖、巨大な存在感と殺気に俺は気圧される。
言葉は偽りではない。間違いなく殺す気だ。
今までこんなもの相手に良く戦っていたものだ。昔誰かに向けられていたそれが俺へ向けられている。これ程とはつゆ知らず体が震える。
逃げ出したいと体は言う。
それに追い討ちをかけるように師匠の後ろから百人程が黒づくめの格好をし俺達を囲う。
……あの時と同じ。
「どういうことだ!」
声を荒げ反発することが精一杯だ。
「いい気味だよなぁ!!」
「な……」
あの時の…くそ…何だってこんな時に…………。
師匠の嘲笑するようなその態度に俺は怒りを隠せない。
「雷斗様!」
千鶴の必死の声は俺の耳に届かない。
「ふざけん、なよ……」
体が熱くなる。体に力が強く入る。
「楽しいだろ?あの時と一緒だ。またお前はパートナーを殺すんだ」
「……くそが」
「はは。良い様だわ。私の人生を狂わせた貴方にその償いを今……。せいぜい足掻き苦しむ事ね」
思い出すだけでは飽き足らない。
集団の中から俺の目の前に現れる。人を蔑む様なその目。いつも半笑いで人を馬鹿にした様な態度……。腸が煮えくり返る思いだ。
「大島、薫ッ!!」
俺の心は殺意で満ちた。
『一が開始されます』
やっとですね。
闇の中で何かは嬉しそうにそう呟いた。
直しぅ!