一章:パートナー(1)
「な……」
モブAは脳内処理が全く追い付かず驚くことが精いっぱいだった。
先程迄目の前で会話していたはずの相手が既に至近距離、それも背後にいる。何かの勘違いだと、あり得ないと、認めたくない、そう価値観が叫んでも、奴の言った通り現状が全てだった。疑いようもなく。
「無能力の癖に…、俺達に盾突く、なんて……」
「いい加減認めろ……」
「……」
「辺鄙なプライドなんて捨てて」
「……」
「なあ?」
ジリジリと距離を縮める雷斗に何の動きも取れないモブA。
「まあ、負ければ嫌でも分かるだろ。……じゃあな」
「まっ……ッて!!」
俺はモブAの怯えた懇願に背中へと入れようとしていた拳を止めた。
「なんだ?言いたいことがあるのか?」
「い、いや……」
「気のせいか?」
「くっ……」
そしてモブは悔しそうに言った。
「俺達の負けだ……俺達の方が弱かった……」
俺がホッと胸をなでおろしてモブAの眼前の方へ立ちなおすとモブAは絶望の表情を浮かべドサッと膝から崩れた。
「あ、兄貴ぃ!!ありがとうございますううう!!」
「うえわっ、くっつくなよ!!」
恐らくタイミングを見計らっていたのだろう。小さい子は茂みを掻き分け俺の腰に抱き着いた。
小さい子の屈託のない満面の笑顔。
「まあ、良かったよ」
「あんなに強いなんて!!」
「あいつらが弱いだけだ」
「にしても何故そんな強さを?」
「色々あるんだよ」
「はぁ……?」
全く分からないといった表情の浮かべる小さい子だがそれ以上は追及してこなかった。何かを察してくれたのだろう。
そこで会話は終わった。小さい子の喜びも同時に。
世の中そう上手くいかないという事だ。
「っけ、情けねえなぁ」
「?」
小さい子はその声を聴くや否や体を震わせ口を閉じた。
何となく分かる。
先程の雑魚とは違う。警戒を怠らずも圧倒的な自信と余裕、隙がない。数段上の相手だ。
同じく五人の男共、そしてその後ろに怯えた女の子が一人。十中八九、こいつらが争奪している子。
成程最初から渡す気は無かったってわけだ。
「お前ら今からこいつがどうなるか分かるかなぁ?」
ゲラゲラと笑いながら男共は女の子を囲んで体に触れる。
「う、うう……」
倒せるか?いや、やるしかないな……。…今の俺に出来るか?おそらく力の半分も出せないだろう。
……こんな所で修行のサボったつけが回るとは。
どうするか。
「二人ならどうとでもなりますよ??」
今日嫌という程聞いたその声に俺は少し笑ってしまった。
「また会ったな」
「雷斗様のピンチならどこへでも!!」
少女。
「強くなりましたから!!」
直せば勝ち