一章:二人(1)
「ぷっ、よく見つけたな……」
学校へと足を戻し戦場へ着くや否や平々凡々、どこまでも特徴のない顔の男に嘲笑される。
「あははははは!!無能力の優等生じゃん!!何が出来んだよ!!」
え?俺、有名?
笑い転げるまで笑う男の顔はやっぱりモブ過ぎた。
「兄貴……こいつがリーダーです……」
「なるほど」
耳元でそう相槌を俺に送る声も姿も小さい子はモブ顔の男に嫌悪感をバリバリに向ける。
「早速始めるぞ?ルールは簡単。五対五で全滅した方の負けだ」
「ああ、わかってる」
「はっ、碌な活動もせず呆けてばっか。力もない奴らが調子に乗ってるんだよなぁ。優等生、お前もそっち側に立ったんだから分かってるよな?」
顔がモブ過ぎて表情が読み取れない。……そういう作戦か?
「あの女は俺らのモンだ」
「あの子が決める事だろ!」
モブ男の空かした態度は小さい子を激昂させた。ちっさ、モブ過ぎ。
「お前らが無理矢理!!」
何故モブ男もつられてキレるんだ。話聞け。
「俺達が脅迫でもしてるってのか?」
「そうだ!全部お前らが悪いんだ!!雑魚が粋がるから、あいつにはもっといい場所が「いや、長えよ」」
キレ芸大会の模様はここまで。どうせずっと水掛け論だろうし。
「勝負すりゃ分かることだろ」
俺が二人の間に割って入ると、両者共に背を向けた。
「ふっ、優等生良いことを言うな」
「だろ?早くやりましょうや」
「じゃあ五分後、始めるからな」
二人は真逆の方向へと歩き始め、周囲を囲う森林へ姿を消す。
「あれ?他の奴らは?」
俺はちっさい子に付いて歩く。
「もう既にスタンバイオッケーな状態です」
慣れた足取りでドンドン森の中へと入ってく、道中に気付いた。
「あれ?さっきの巨体は?」
両脇にいたあの巨体がいつの間にか消えていのだ。
「あ、あの人たちは雇いました」
「は?どゆこと?」
「いえ、演技基部の二人で、私の小遣いで……雇いました」
「……その金で雇えよ、仲間」
「はぁっ!!」
「その手があったか!みたいな顔やめろ」
練習用アリーナ。初めて来たが、普通のアリーナよりでかいんだな。人が幾千と余裕で入りそうだ。
「着きましたぜ兄貴」
「ん?」
到着と言われたそこは今まで歩いてきた森と何も変わらない。
「お!連れて来れたんですね!!」
「これで一人力だな!」
ただ、そこには小さい子の仲間たちであろう奴らが待っていた。
一人力ってただの人やん。
「良かったっス。じゃあ、やりますか……」
そうやる気に満ち溢れた男たちだがごめん、見分けがつかん。
全員黒髪、白地に何かのキャラクターがデザインされている半袖Tシャツにジーパン。
個性が皆無。
「えっと、こいつが……カイロス和田……」
急な個性!
「で、こっちが平田で、新井で」
そう紹介はされるが普通に見分けがつかない。Tシャツに伊能忠敬が入ってる方が平田。ゲルニカが描いてある方が新井。
個性がTシャツに吸い取られてる…。
「カイロスと平田が無能力でして」
カイロス無能力かよ。
それなのに何故こいつらはふふん、と得意げに胸を張れるのだろう。
「あ、言い忘れてましたけど」
「ん?何」
「俺、引き立て役なんで、皆の存在感が目立っちゃいますね」
「……つまり?」
「俺の能力は周りを引き立てる役でしてね。貴方たちの存在感がいつもより何倍にも跳ね上がってるわけですわ」
「ほう、とういと?」
「居場所もろバレですわ」
「先に言っとけ!!」
「す、すんません!」
相手に位置がばれて、こっちは全くの無力とか……。勝ち目を教えろ!!
「新井……だっけ!?」
「ああ、なんだい?」
伊能忠敬にノーフューチャーって言わせんな。
新井はキザな男だった。一言いえば面倒くさい。どっしり構えているのは良いのだが、いちいち格好をつけて返答してくる。
「お前の能力は?」
「dランクの観察眼だ、ぜっ!相手の位置を明確に正確に伝える事が出来るぜ!!」
おお、見かけによらず割と使える能力だな。
「今敵の位置は?」
「んー?そこの木の後ろだぜっ!!」
ゾワッと背筋が凍る。
「早く言え!!」
得意げな顔で指差すな。俺すげぇ見たいな顔辞めろ。
取り敢えず、後方へ下がり距離を取るのは俺だけだ。小さい仲間たちはあわあわと動揺を体で表していた。
こりゃ駄目だな。
「全員距離取れ!やられるぞ!?」
「えー、敵と戦おうぜ!」
「黙ってろ!」
新井はのんきに頭の上で腕を組み、ポーズをとる。
こいつらが馬鹿な事がよく分かる。いや、新井が特に。
「ここは俺達に任せるっす!!」
「お前は……えーと」
「カイロスっす」
「お前がカイロスかい」
無能力が踏ん張った所で、秒も持たない事は小学生でも分かってる。
「「「「うわぁっ!」」」」
ほらね?って、四人同時に吹っ飛ばされた!!
取り敢えず俺だけは身を隠すことに成功した。ちっちゃいのが倒れてくれたおかげで悪目立ちする事はなくなったみたいだ。結果オーライだな。
「ふん、雑魚が!優等生ももう諦めて出て来いよ。焼け石に水だぜ?」
「まあ、良いじゃないですか、先輩。取り敢えずこいつらウザいんでもっと痛めつけましょうや」
「お、良いこと言うなぁ、お前は。今までの苛立ちはお前らのせいでもあるしなぁ……」
「おらっ!!」
倒れている四人に殴る蹴るなどの暴行を永遠と繰り返す。
こいつらやべえな、ただのいじめだもん。
「ぐうっ!……くっ」
良くここまで耐えている。能力者というだけで人並み以上の力を持っているのに、歯を食いしばって気絶はしないという強い意思をみせる。
こいつらの自業自得だけどね?特に新井。
まあ、でもそれだけ本気なんだろうな。
やるかぁ……。
直すぜぇええ