一章:誘い(2)
「すいませんんんんん、私達に力を貸してくれないでしょうかぁあ!!!」
「……は?」
「お力添えを……」
「いや、まてまてナニコレ」
先程の堂々とした態度とはどこへやら男の必死の土下座。
「いえ!こうでもしないと話を聞いてもらえないと思って」
「このやり方で話聞いてもらえるって思う思考回路何?まず誰?」
「わ、私は高校二年、三十組、最底辺であります!!」
小さい子の声がクソでかい。
「自己紹介蔑みすぎじゃない?」
「……いえ。兄貴は」
立場の逆転が凄い。
「兄貴は最底辺のくせに……二十組までクラスを上げていますよね?」
「喧嘩売ってるよね?」
「いえ!言葉のあやというか!!」
「ド直球だったよ?」
「そんな事はどうでも良くて!!」
「多分そのセリフは俺の奴」
「私達を助けて欲しいんです」
必死に懇願する姿が少しだけあの少女と被ってしまう。ルックスは月と鼈だけど。
「……もっと詳しく聞かせてくれ」
頭に一度過ると離れないもので、少女の悲しそうな顔を思い出し俺は手を差し伸べた。
「は、はい!!」」
小さい子の喜ぶ姿は少女には無かったものだ。
俺が少女の誘いに乗っていれば少女も嬉しそうに笑ってくれたんだろうかね。
「えと……、私写真サークルを行っている者でして」
「モデルの勧誘?」
「いえ間に合ってます」
ド畜生。
「私達の他にもう一つ同じようなサークルがあるのですが、私らのサークルはお遊びだと、いちゃもん付けてきまして……」
「お遊びでやってるのか?」
「確かに本気度は違うと思います。私らは趣味の延長線上であって楽しければいいのです。ですが、そんなふざけた理由は許さないと」
「理不尽な話だな」
「でしょう?それで、私らのモデルをしてくれる女の子がいるのですが……」
「その女の子を引き渡せと?」
「……はい」
「……可愛い?」
どっちでもいいけど。
「……モチです」
おっ。
「なるほど。サークルの姫と言うわけか……」
「い、いやまあ、言い方はあれですが、否定はしません……。ただ本当に写真を撮る時に絵になる人なんですよ」
「それで?その人を取られたくないなら決闘しろって?」
「よ、よくお分かりで……チーム戦で、五対五。戦闘練習用の茂みエリアのアリーナを貸し切ったらしく……」
「今日?」
「はい」
「随分とギリギリに頼んできたってことは、他の宛は全部外れたってことか」
「流石、全て仰る通りで……」
「まあ、能力者共が報酬なしに話を聞くとは思えないし、何となく分かる。が」
もう一つの懸念が。
「……折羽に言われた?」
「……?いえ、私のサークルの一人に同じ中学の奴がいまして」
大丈夫か。
キョトンとした顔を見る限り折羽の画策ではないみたいだ。
「調子に乗ってた時の事を知っていた、って事か……」
「……ど、どうでしょうか」
「む……」
無理だ。俺には救えない。ずっとそう思ってる、現に今も。でも言葉が詰まった。
何故だろう、悲しい少女の顔が真っ先に思い浮かぶ。俺が一番嫌いな誰かの辛そうな顔。
でもそれを救える技量は俺にない。それどころか悲しい顔すら見れない状況に持ち込んでしまう。
俺には無理だ。そう思ってるのに、なんでだ。
悲しい顔が許せない。それが俺の丸裸の気持ちなのだろう。どれだけ取り繕って否定しても気持ちには嘘つく程気持ち悪いことはない。
『私は肯定します……』
ふと少女の言葉が脳裏を過る。
『貴方は人を救う』
絶対に間違っていないというあの確信した真剣な少女の顔。
『大好きですから!!」
……恥ずかしい。でもそこまで言うのなら俺にまだ価値はあるのかな。
『雷斗様が一人だからですよ』
そうだ。でも一人だから…誰にも迷惑を掛ける事はない。
「そうだな。やるか」
一度、もう一度だけ自分の気持ちに素直になってやろう。俺を幸せにしてやろう。
「……え?」
「なんで、お願いした本人が驚いてんだよ」
「い、いえだって、本当に聞き入れてくださるとは思わなくて……」
土下座を解除してバッと慌ただしく立ち上がる小さい子の姿に俺は少し笑ってしまう。
「そんなキョトンとして、呆けてる時間はないんだろ?行くか」
「は、はい!ありがとうございます!!本当にありがとうございます」
小さい子は何度もお辞儀をして感謝を伝える。
「言っとくけど、勝てる保証はないぞ?」
「大丈夫です!!気持ちだけでも私は……私は!!」
「言ったな?」
涙ぐむ小さい子に差し出された手に俺は高揚ししっかりと握った。
直し直し直し―――!